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Road6 文字通りの〔何でも屋〕

 手持ちの資金が心もとないアルト。

店主に紹介してもらい、仕事を始めるアルトだが果たして、うまく働いていけるだろうか。

 朝日が昇り、大きくあくびをついて身体を起こす。

時刻は朝6時、宿屋の店主から紹介された場所には9時までに向かわねばならないので準備を始める。

 昨日購入した服に着替え、朝食を買いに向かう。

安い固パンを食べ歩きながら町の様子を見ていくと兵士の格好をした者たちが動きまわっていた。


「はぁ〜行動がホントお早いことで、お疲れ様ですっと…」

見つからないように悪態を吐きつつ観察しているうちに予定時刻は迫っていた。


 急ぎで向かい、着いた場所は古道具屋のようだ。

店主に言われたとおりに裏口の扉を叩くと、自分と同じくらいの少女が戸を開いた。


「あの…何か用ですか?」

後ろで束ねた紺色の髪に緑眼、そしてメガネをかけていて、雰囲気がどこか幸薄そうな少女。

こちらをやや警戒しながら尋ねてきた。


「あ〜、今日からこちらで働かせていただけるよう紹介されてきた者なんですけど…こちらの店主さんから何か聞かされていませんでしたか?」


 身分証を提示しながら用件を伝えると、少女はしばらくお待ちを、と告げて中に戻っていった。

…店の中からとても大きな衝撃音が聞こえたが、気にしないことにした。


 5分くらい待ったあたりで、次は寝癖をつけて腹を抑えた茶髪緑眼の自分より一回りほど背が高い青年が戸を開いた。ーー多分この人が店主だろう。

「いや〜ごめんごめん、9時から来るってことすっかり忘れてたよ〜」

 アルトが今日来る時間をすっかり忘れていたらしく、まだ眠っているつもりだったようだ。


「勘弁してくださいよ、ホントに…」

こんな調子の店主で大丈夫か、アルトは心配してしまった。

 …昨日コイツも寝過ごしかけていたはずだが、本人はすっかり棚に上げている。

 中に入るまでに時間がかかってしまったがようやく事が進みそうだ。

 

「ロッカスさんから話は聞いてるよ、君がアルト・ファクティスで間違いないよね?」

 確かに自分ですと返事をし、身分証を提示しようとしたが必要ないと断られた。


「なんだかんだでこちらの紹介が遅れてしまったね、私の名は…【神】だ。」

 青年が神と名乗った瞬間、青年の後頭部にヤカンが激突した。


「仕事だけじゃなく、自己紹介まともに出来ないのかしら?この愚兄は。」

 ヤカンの飛んできた方向から先程の少女が出てきて、改めて自己紹介を始めた。


「せっかく来てもらったのに、こんな調子ですみません…改めて失礼します。

私は[ネロ・ヴァールハイト]そちらで頭押さえてる馬鹿は[サクロ・ヴァールハイト]と申します。」


 名前を聞くことはできたが、一連の流れに困惑しているアルトに対して、ネロは慣れて下さいと一言告げるだけであった。


 さて、自己紹介という茶番を終わらすだけだったが時刻はもう10時を回っていた。

 開店時間は10時30分からのようで、アルトは早速ネロから仕事の説明を受けた。


「まず、この店は一見古道具屋に見えますが、実際は兄さんが持ってきた使えそうなものを商品にしているだけで、本業は〔何でも屋〕です。」


 何でも屋はこの世界でもそう珍しい職ではない。家事や育児などの生活補助からモンスター退治、または退治依頼の紹介、更には情報収集も行うこともある多種多様に精通した職種である。

 

 しかしアルトはある疑問を投げかける。

「何でも屋って言われましても、ここの店は基本的には何を中心に引き受けてるんです?」


 何でも屋と言われても本当にどんなものでも引き受けるわけではない。

 従業員によって得意不得意はあるし、何よりここに従業員はサクロとネロの2人しかいないようだ。

 量にもよるが、全部なんてとても不可能だろう。

そう思っていたのだが…


「基本的にはお断りはしません。可能であれば全てお引き受けします。」


その一言を聞いて戦慄した。多種多様な仕事を全部引き受けていたと言うのだ。

 仕事量の多さを勝手に想像したアルトは早くも落胆しかけていたが、その様子を察したサクロが口を開く。


「仕事量は想像してるよりもっと少ないよ〜、それに外に出る仕事は僕が行ってくるから、アルト君には内職や店番が最初はメインになるかな。」

 慣れたら外にも出てもらうかもだけどねと付け加え、アルトの緊張をうまくほぐしていった。

 なんとかやっていけそうだと、アルトは安心した。


 開店時間になり、最初は戦闘職のような客が何人か流れこんできた。ーーアルトは陳列と古道具販売を担当することになった。

 次々とくる客に慣れた手つきと口調でネロは討伐依頼を流していく、1時間程で20人以上いたであろう客を捌ききった。


 昼近くになると民間人から電話がかかり、家事や育児の依頼が来る。

 サクロとネロの2人は外へ出かけ、アルトに店番を任せていった。

アルトはもし客がきた場合は保留としてメモに残すことが仕事になった。


 夕方になり、2人が店に戻ってくると保留分の確認に入った。…しかし、町の人自体がこの時間に2人がいないことを知っているためか、客も電話もあまりこなかった。

アルト自身はあまりにも暇であったので、店内掃除後にネロからもらった仕事のマニュアルを確認していた。


 終業時間である18時を回ったので本日の業務は終了した。

今日の分の収入をアルトに分けられ、アルトの一日の働きは3000Gだった。

 宿屋の一泊の料金で300G、アルトがもともと持っていた金額は1000G程度であったため、稼ぎとしては相当高い金額といえるだろう。


 当面は金銭に関しての心配はしなくても良くなったのは嬉しいことだ。ーー初日からの仕事量は多かったので本人はすでに満身創痍であった。


「初日の動きに比べたらよくやってくれた…というより掃除までやってくれたのは予想外だったよ。」

「使わな過ぎて汚くなっている古道具エリアの管理任せるだけだったのに、働き具合は予想の斜め上いくとわね…」

 アルトの働きぶりは上手くいっていたようだ。

興味本位で2人から普段の生活を聞かれたので、一般的な家事や軽食を作ることはできると伝えた。

 実際、アルト自身が普段から母の代わりやリュウガ(師匠)の世話のせいで家事全般はある程度できるようになってしまっただけではあるが。


 とりあえずは今日はもう戻ってもいいと明日からは10時までにくるように言われ、2人に見送られながら宿に戻った。

 昼頃は暇だったとはいえ、初仕事で覚えることが多かったので宿に戻った途端にアルトはベッドに倒れこんでしまった。


 偽アルターの情報を得るつもりであったが、本格的に動くにはしばらく時間がかかりそうだ。

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