Road2 本物が偽物に
すっごい期間が開いての第2話の投稿です…
タイトルを『冒険の書が盗まれました。』から[偽物でもカッコよく]に変更いたしました。
前のタイトルのままでは、盗まれたのを取り返すだけで話が完結してしまいそうでしたので…
「落ち着きましたかな?」
「あ、はい。すみません…取り乱しました…」
あまりの出来事に大声を発してしまったアルター。その大声を聞きつけて城内の兵士が何人か流れ込んできてしまったが、王様と大臣の説得により大事にはならなかった。
…王様が独裁者タイプの人間だったら、王の前で醜態を晒した不敬者として即刻で独房入りしていたことだろう。
「冒険の書は、この世界の人が生きていくためには必要不可欠な代物。それほどな重要物を盗むとなると、他国で耳にする人身売買者や…」
「初めから冒険の書を手にしていない異世界転生者か、ですかな?」
異世界転生者、この世界とは別の世界から転生してきた人間達。
[神様]とかいう超常的なものに転生された者がほとんどで、そのせいか「自分は神に選ばれた人間」などと抜かしているものが多い。
噂程度に聞こえてくる悪行では、
「恋人を力で無理やり奪われた」
「依頼の報酬を横取りされた」
などの軽い賊のようなものから、ひどいものでは
「気に食わない。という理由で家を荒らされた」
「癇癪をおこして、集落を壊滅させた」
「国を圧倒的な暴力で服従させ、支配した」
などの過激な悪逆非道を尽くされたものもある。
そして一番多くの被害報告を受けているのが冒険の書が盗まれることである。
元々がこの世界の住人ではないため、転生者は自分の冒険の書を持たない。
故に一度でも死んでしまえば蘇生されることはないのだが、特殊な事例で他人の冒険の書を自分のものにできる。
なので当然のことに蘇生が可能になり、職業にも就けるので死ぬことがなくなる。
それが転生者の横暴さを助長させている。ただ一つの己の欲望のみを満たし、書を奪い取った他者の絶望を嘲笑うかのように。
「転生者、一択だろうな。書を盗むのが人身売買者ならば書に記されている本人も同時に攫わねばならないはずだ。」
「では王よ、すぐに王国中に[冒険の書盗難事件]として伝達しておきましょう。」
「許可する。俺は周辺地域の町や集落に連絡を入れてくる、国外に逃亡されては追跡も敵わないからな。捜索隊も編成し、派遣しておいてくれ。人手は少し多くても構わない。」
王と大臣で話がどんどん先に進んでしまっている。
懸命になって捜索してくれそうなのはアルターにとってありがたいことこの上ないが、この国で生活しているだけの一人に何故ここまで必死になっているのかと少し疑問を抱いていた。
「無礼を承知でお聞きしたいことがございます、ご質問よろしいでしょうか?」
「許すよ、言ってみな。」
「事の対応、深く感謝いたします。ですがただの一般市民であるこの私に捜索部隊までの大事にする程なのでしょうか?」
「あぁ、そんなこと…いや市民のまま生きてきた君にとっては疑問を感じるのも不思議ではないか。」
「本来ならば事件の伝達、探すとしても城下町内を探すくらいで終わりですが…」
「君の冒険の書は職業に関わるところにちょっとだけ違う部分がある。」
「君の冒険の書は唯一、勇者の職を選べる。」
勇者、簡単にいうと戦闘職の完全上位互換。それと同時に他国に自由に出入りできる特殊な外交官である。
この職を選べるための条件は様々だが、生まれ持った素質や血筋、また大国での功績によって得られる褒賞の一つである。
「この職業は一番転生者に回ってはいけない代物だ。普通、国外の出入りにはパスポートの受理や経歴審査、滞在時間などの様々な申請が必要だがそれら項目を一切無視して自由に行き来できる。」
「逃げられたら追跡に時間が…いえ、もう追うことは敵わないと。」
「そのとおり、そして例え国内で追いつくことができたとしても捕まえることは困難だね。」
「何せ、戦闘職の能力をすべて使えるといっても過言ではありませんからな…」
そんな力を持った者を、もし他国に逃がすことを許してしまってはどうなるだろうか。他国で多大な被害を出すことを想定するのは難しくない。被害の責任をこの国がすべて背負うことになってしまうのがどれほどの悲劇をもたらすことか。考えるだけでも恐ろしく感じてしまう。
「もはや一刻の猶予もないな…大臣、兵を集めてくれ。すぐに…]
王が行動を起こそうとした瞬間、王座の間の大扉が大きな音を立てて開かれる。
「アルター・ロード、王のもとに馳せ参じましたぁぁ!!」
大声とともにアルター・ロードを名乗る少年が入ってきた。
身なりは体形は似ているものの、顔は思いっきり違う。こちらが灰色髪の茶眼に対して、黒髪赤眼の少年だ。
服装ですらアルターがスーツ姿の正装なことに対し、向こうはどこにでもいそうな新人冒険者の恰好だった。
「アルター・ロード、そう名乗ったか。」
「はい!名前を覚えていただき、光栄です!」
どうやら間違いはないらしい、もはや疑う余地もないだろう。
「ふ〜ん、それで要件は?」
「先ほど転職の神殿へ向かい、勇者の職を手に入れることができました。これより他国を渡りつつ、人の世に蔓延る悪を征伐していく所存です。つきましては、ぜひこの国から少しばかりの援助をしていただきたいのでお願いに上がりました。」
この場のだいたいが[蔓延る悪]とかどの口がほざくのかと思ったことだろう。
開口一番、王がだした答えは一つだ。
「不敬者が!頭が高いわ!」
先ほどまでの少し崩れていた口調から一変、青年のような見た目から誰もが威圧されるほどの気迫が王に纏はあった。
「貴様の言動、行動、すべてにおいて腹立たしい。書を盗み、職を書き換えた大罪人に俺が援助すると思うか?まさに貴様のような人の世に蔓延る悪、俺が自ら処断してくれるわ!」
「兵士、集え!アルター・ロードを偽る下手人の退路を塞げ!」
王が剣を抜く、大臣が兵を指示する。素早い対応で騒動はすぐに終わると思われた。ーーしかし
「あ~ぁ、なんかもうバレてるなぁ…まぁいいか、どっちにしろこうするつもりだったし」
のらりくらりとした態度をとった偽者の目が不気味に光っていた。
「ん?なるほどね、スーツを着慣れてないようなモブが本の持ち主か。だったら都合がいいねぇ」
「あぁ、そのとおりだよ。でもって、盗んだ奴が転生者ってのも当たったみたいだな…都合がいいってどういうことだ?」
明確な敵意と少しの疑問がアルターの口を開かせた、その疑問はすぐに分かることになる。
『僕が本物のアルター・ロードだ、向こうのモブが偽物だ。』
「おい、何言ってんだ?偽物はお前…」
瞬間、王の剣がアルターに下ろされる。運よく避けれたと思ったとき、偽物を囲っていた兵がすべてアルターの周りを囲っていた。
「こういうことだよ、ちょっとした洗脳。僕が本物で、お前が偽物だと認識させただけさ。」
洗脳という不可思議な技を使用し、王や兵を人形のように操っているようだ。おそらくは先ほど目が光ったときに視線が合ってしまった者が洗脳を受けてしまうのだろう。
「おいおい、迷惑極まりねぇな。俺ならもうちょっとましな身なりと顔立ちしてるぜ。」
圧倒的に不利な状況の中、相手に対して挑発を行っていくアルター。
策があるのか、それとも状況をわかっていない馬鹿なのか。
「ッ!うるさいんだよモブの分際でェ!おい、無能ども、早くコイツを消せ!今すぐにだ!」
煽りの耐性が全く無かった偽物は洗脳した兵達に命令する。いくらなんでも沸点が低すぎである。
「おぉ怖、そもそも人の物は盗っちゃいけませんって、目上に教わらなかったか?まぁ、でも流石にこの状況はまずいな…一旦身を引くしかないか」
危機的状況に係わらず、煽りを楽しもうとする精神は呆れてしまう。しかし流石に自分のピンチは理解していたようだ。
「ふざけるな!この僕にむかってここまで馬鹿にして、逃がすとおもってるのかクソモブが!」
向かってくる兵士を前にアルターは少しの笑みを見せて
「あばよ、偽物。また来るぜ!」
一言告げると、煙が部屋中に舞い上がった。煙が晴れた時にはすでにアルターの姿はなく周りに眠っている兵士が散乱していた。
「どこまでもコケにしやがって…まぁいいさ、奴の顔は覚えた。あとは偽物として国中に伝えて洗脳すれば…貴様はもう生きられはしないさ。」
「…まずいな、あいつ顔さえ覚えれば洗脳できんのかよ。」
大扉の裏に少し隠れて聞こえていたアルターはすぐに城を離れ、帰路についていた。
「この街にいられる時間ももう少ねぇな、準備と報告だけ済まして早めに逃げねぇと。」
アルターにできることは、今はまだ逃げることしか敵わなかった。
偽物のレッテルをはられ、国を追われる身になってしまった主人公…彼は無事、自分の書をとりもどせるのか?逃走&冒険が始まりを告げる…
この世界のテーマは[転生者達が好き勝手しすぎた世界]として書いていこうかと思っています。
え?流行りの異世界転生を敵に回していいのかって?…皮肉と趣味なんでいいんですよ。