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Rord17 冤罪はゴメンだね

 暗殺者(アサシン)?の喉元に、アルトはナイフを振り下ろす。

 いまだ動けない暗殺者は自身の死を覚悟し、目を深く瞑った。


 その後数秒、音のしない静かな時間が流れていく。

 痛みを感じなかった暗殺者は奇妙に思い、恐る恐る目を開いた。

 ……刺されたと感じていたナイフは首元の横に置かれていて、命もしくは書を奪うはずだった相手は数歩ほど離れた場所に腰を下ろしていた。


「何故とどめを刺さない?…情でもかけたつもりカ?」


 命拾いをしたことには変わらないが、暗殺者には自分を殺さなかった理由が分からなかった。

 女性は、アルトを殺しに来ている。

 命、または命同等の書を狙った時点で暗殺者を生かしておく理由は無いはずだ。

 場所だって人の目の入らない裏路地、ここでどちらかの死体が上がっても見つかるまでに逃げ切れるだろう。


 更には女性は動けない状態にあった。

 絶好のチャンスだったというのに、この男はとどめを刺さずあげくには獲物(ナイフ)を返しているのだ。

 今目の前で起こったすべとの事象が、暗殺者には理解できなかった。


「ただでさえ冒険の書を盗んだことが冤罪なんだよ。

 仮にここで人殺しでもしたら、別件とはいえ前科が付くだろうが。」


 女性は呆気に取られていた。

 既に犯罪者として名前が知れ渡っている人物が、今更前歴を気にするのかと。


「ハハ、何だそれ。

 だからってご丁寧にナイフまで返すかフツー。」

 

 ナイフを持ち直し不審がるように睨みつけてくる女性に、アルトはうっかりしていたように返答する。


「あ、それもそうだ。やっぱ返せそのナイフ。」


 女は呆気に取られた。

 うっかりで相手の獲物を返すだろうか?いやそんなことはありえない。

 では何のために?何故わざわざ身の危険をさらすような真似を?

 次のアルトの言葉で、警戒から一転する。


「お前、戦い慣れはしてるけど実際に人殺したことなんざ無いだろ。

 蹴りとかの体術はすごいに重いのに、ナイフの攻撃はどれも牽制前提。

 …知り合いの殺し屋と模擬戦したことはあるが、俺が一撃入れる間に7回は殺されるようなレベルでもっと急所狙ってくるぞ。」


「フ、フフフ…アッハハ!

 なんだバレちゃったのカ。てかなんだその知り合いの殺し屋ってのは?

 年なんかワタシとそう変わらないのに、どんな物騒な生活してたらそんなバトルマニアになるんだヨ!」


 女は酷く笑い転げ、少しして体を起き上がらせる。

 

「ア~お腹痛い…。ご明察だネ、ワタシはたしかに盗賊だけど人殺しまではしてないヨ。

 実際、気絶させて物あさってその場に放置までしかするつもりは無かったし。」


「まぁまぁエグい事考えてんじゃねぇよ。

 …どっちにしろ俺が勝ったし、さらにはお前が目当てにしてるモンも手に入らないんだ。

 これ以上やりあう理由なんざ無ぇだろ。」


 そう言ってあくびを吐きながら、当初の目的である買い出しの戻る。

 女の方もそれ以上は何も言わず、ただ腰を上げてこちらを見据えるだけだった。


――――――――――


(パン、ベーコンと野菜類に調味料…買ってみたはいいが保管場所が無いんだよな。

 氷をちょっとだけ袋に詰めてもらったのはいいが数日も持たねぇだろうし…。

 あのホコリ被った冷蔵庫がまともに動けば、もうちょっとマシな物かえたんだがな…。)


 今のアルトの頭の中は食料の事で頭がいっぱいになっていた。

 ちょっとだけ膨らんだ袋を肩に担ぎながらようやく姉の待つ邸宅まで戻ってきた。

 大きな玄関の扉を開けただ一言。


「ただいま…でいいのか?」


 ただいまと言った刹那、氷を纏った様な翼を生やしたシルクが一目散に飛んできた。


「お”か”え”り”~!良かっだぁ、帰ってき”た”ぁぁ!」


「ぐふッ、ちょ、姉さん苦しい…!」


 開口一番、突撃された姉に強く抱きしめられ息がうまくできないアルトであった。

 なんとか引きはがそうにもさすがは悪魔成分多めの半魔、まったくといっていいほど剥がせない。

 本当に意識が遠のいてきたところに屋敷の中から救いの声が聞こえた。


「おかえりなさい、アルトさん!……って顔青くなってる?!シルクさん一回離れてください!」


 その声が姉にも届き、ようやく俺が今どんな表情になっているかを察してすぐに手放した。


「悪いな、誰だかは知らねェけど助かったわ……って、ん?お前は昨日の――」

 

 顔を振り返って助けてもらった声の主に視線を向けると、昨日見たばかりの少年の顔がそこにあった。


「昨日チンピラにボコボコにされてた坊主じゃねェか。もう動けるようになったのか?」


「えぇ、おかげさまで。昨日は姉ちゃん共々、助けてくれてありがとうございました。」


 少年は屈託のない笑顔でアルトに礼を言うが、対してのアルトは少々渋い顔をしていた。


「あー、礼を言われるようなことはしてねェよ俺は。

一度その場を素通りしようとしたクズだ。礼ならアンタ等を病院まで運んだウチの姉さんに言ってくれ。」


「それでもです!アルトさんがいなかったら僕らはもっと酷い目にあっていたと思いますし…」


「内情がどうであれ、あの場でこの子達を救ったのは間違いなく貴方よ。お礼くらい素直に受け取りなさいな。」


 お礼をされることに慣れていないアルトだったがシルクに諭され、ほんのりと照れくさそうに受け取る。


「さて、アルトも帰って来たし、そろそろ本題に入っても良いんじゃない?」


「そうですね。では改めましてアルトさん、貴方の仕事をシルクさんからお聞きした上で頼みます。」


 どうやらこの少年がここまで来たのはお礼だけが理由では無いらしい。一呼吸置いて、少年はアルトへ()()する。


「お願いします!俺と姉ちゃんを村に帰らせて下さい!」


 少年の言葉にアルトは特に迷わず、


「良いぜ。その仕事、承った。」


 依頼を了承する。

 助けた上の乗りかかった船だ。ネロ達の所に戻ろうにもかなりの時間がある。

 ほんの少し、寄り道していても良いだろう。

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