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Road15 俺はお前、僕はお前。

 自身の家族については粗方の説明は受けたが、肝心の聞きたいかったシルクの事は何も分からずじまいのまま一日を終えてしまった。

明日はもっと詳しく問い詰めようと考えつつ、病み上がりでのチンピラ(悪魔)の戦闘で疲れた体を癒すために床に就くアルト。


 しかし、昼間の戦闘で気がかりだったことがアルトの内にあった。

そしてその疑問は、時を立たずしてすぐに解明することとなる。

 一通りの話を終え、続きはまた明日ということになり床に就くアルト。

 自身の知らなかったさまざまな内情が明らかになり、困惑しつつも自分で一つずつ整理するが全く頭はまとまらない。深く考えようとすればするほどに、眠気もまた深く現れる。 

 

(流石に寝るか、多分明日はもっと考えなきゃならないこと増えるだろうし。)

 明日のことは明日の自分が何とかしてくれる。そう信じることにしてアルトはベッドに身を任せた。


 眠りについたはずのアルトであったが、気がつくと前にも見たことがあるような不思議な空間が広がっている。


「…またか、いったい何なんだここは?」


 時間にして約1日、しかしもっと短い間にこの場所に来ているような感覚がアルトの頭に疑問を抱かせる。


『ここは夢の中ではない。』

「やっぱり、お前か。一日ぶり…ってわけじゃないよな?昼間にチンピラをボコしてたのは俺じゃなくてお前なんだろ?」


 アルトが疑問に思っていたのは昼間にチンピラ3人組を相手にしていた。、意識ははっきりとしていたがどうにも自分が手を出したようには思えなかった。

 強化結晶を使って殴られている間は確かに自分(アルト)が殴られていると感じ取ることが出来たが、反撃している間は自分ではない別の誰かが戦っているように感じていた。


『正解だ。お前の身体…とはいっても僕の身体でもあるわけだが、一時的に主導権を譲ってもらっていた。しかし発していた言葉は僕が感じ取った君の本心であるし、結晶を重ねて砕いたところまではお前の意思だ。僕は()()()()()()()()()で殲滅しただけさ。』


 そう、アルトが抱いた疑問の答えは[戦闘方法]にある。基本的に[躱して叩く]という攻撃自体は元のアルトの戦闘スタイルと何ら変わりはない。

 違っていたのは攻撃の度合い。アルトならば無力化さえすればそこで終わりなのだが、今回は[再起不能]になるまで痛めつけるところにあった。

 方や足骨を折ったり、腹部を思いきり踏みつけたり、剣で叩き切ろうとするなど改めて思えば自分でもやり過ぎだと思える戦闘だった。いくら本心で殺したいなどと思っていたとしてもアルトには実際に人を殺す度胸は無く、仮にあったとしても後始末が面倒なことになるので衝動的に大事を起こさない。


『まぁ、普段のお前ならば絶対にしないような荒事を起こした自覚はある。最後にとどめを刺そうとしたとき、つい間違えて()()()()()話してしまった。

 しかし、これで僕の仕業と気付かなければ本格的に人格を乗っ取るつもりだったがな。』


「本人を目の前にして随分なことを言ってくれるじゃねぇか。俺の姿しただけの正体不明にやすやすと俺の身体を渡すわけにはいかねぇけどな。…いい加減テメェは何者なのか答えろよ。」


 違和感の謎は解けた。しかし今は自分の中にいるコイツが何者なのかを明かす方が大切だ。昨日の時点では[自分の姿をした何か]程度の認識しかなかったが、既に一度人格を一時的に奪われているので[自分の敵になりうるもの]と認識を改めたアルトは目の前の存在に警戒心を強める。


『ふむ…先ほど姉の説明を聞いたのならば察してくれるものと思っていたが、流石に説明が少し足りなかったか。簡単に言ってしまえば()()()()()()()()()()というのが正しいな。

 半魔(デューマン)の性質ゆえ…というべきだろうがそもそも人間などの生物には[真名]、魔族には[魔名]があってな。半分が人で半分が魔族の場合ならば()()()()()が存在することもある、もしもの時に魔族か人かの生き方を迫られたときに選べるようにな。

 しかし本来ならば生まれた時の血の濃さで人格が決まるために僕は人格として存在しない…はずだった。』


 目の前の自分もまた自分そのものだった。しかし最後の言い分を聞くに元々は生まれておらず、後々になってから生まれたもののようだ。そして目の前の魔族(じぶん)は自身が生まれた発端を語りだす。


『お前が意識を失ってからこの屋敷に運ばれたときだ。ここに連れてこられた時のお前は出血がひどくてな、すぐに輸血でもしない限り死んでもおかしくない状態だった。

 しかしこうしてお前は生きている。そのときに誰がお前に血を分け与えたのか、言わなくてもわかるだろうがお前の姉だ。魔族の血が濃いお前の姉の血を輸血してしまった。

 そのせいで体に流れる魔族と人の血液量が均等に近くなってしまったために僕が生まれてしまったというわけだ。』


「…そうだったのか、一応聞くが生まれてすぐのお前がなんですぐに俺の身体使えるんだ?そっちの言い方じゃ、元々から存在して今になって人格がはっきりしたっていうのとは違うんだろ?」


 先ほどから話を聞くに本当に生まれたばかりのように語る魔族に問いかける。初めからあったのならばそう匂わせることを言うはずだが、この魔族は一向に生まれたばかりを貫いている。


『お前が僕よりも精神面が弱いからだな。だがそもそも人間と魔族では生まれてからの様々な強さにおいて天地ほどの差があるんだ。途中から生まれた僕が並みの魔族よりも強いのは僕自身も驚いているが不思議なことではない。』


「…もう一つ聞きたい。昨日の会話もそうだが、お前は俺の知らないことまで知っているんだろう?生まれてから時間も経っていないお前がなぜそこまでのことを知っている?」


 実際にこの魔族の実力がどれほどの物かは計り知れないが、昨日の会話の様なアルト自身の行く末を知っているような発言をしたり、自分でも文献までしか詳しく調べていない魔族の情報まで知っているような言い草だ。

 とてもではないが生まれたばかりにしては持っている情報量がおかしすぎる。

 魔族は少し頭を悩ませているようだが「失敗した」というような表情ではなく、まるで「言うべきか言わぬべきか」で迷っているような表情だった。


『…こう悩んでいても仕方はないか。答えられることは2つ、短時間とはいえ人格が生まれた際に今まで体験してきた記憶を読み取らせて貰った。仮にも僕の記憶でもあるからな、思い出そうとする要領で閲覧は可能だった。

 もう一つはそうだな…[真実ではない時間がある]とまでしか僕からはいえない。』


「また言葉を濁すのか。昨日もそうだが一番重要なところを言わねぇのな。せめてお前が敵かどうかの情報は教えてほしいんだがな。」


 肝心なところで、核心に当たるであろう部分をどうにも魔族は隠そうとしている。結局のところ敵なのか違うのかくらいを判断できる材料がほしいところだ。


『端的に言ってしまうと、()()()()()()()()()()が正しいな。

 僕からお前の敵になる気はあまりない。時がたち、力を付けた時にお前が僕を追い出そうとしても特にいうことも無い。現状は()()()()()()()()()ということに変わりはない。お前が死なないようなくらいにはサポートはするがお前の人生や人付き合いに関わることまで言及はしないことを保証しよう。』


「いちいち言ってることが小難しいのが腹立つな。とりあえず今は敵じゃないって認識でいいんだな?」


 同じ人物であるというのにここまで人格が違うものなのか。やや遠回しな発言にイラつかせながら魔族に確認をとる。


『あぁ、それで構わない。今のお前には不本意かもしれないが必要な時は少しの知識を与えよう、次回以降は人格を変わるときには了承も確認するし、事が終わればすぐに返そう。今の僕が最重要に視点をおくのは[お前を死なさないこと]だからな。』


「それならいいんだが、いざって時に人格を返さないっていうのがあるかもしれないからな。身体は簡単には貸さねぇよ。」


『当然だが信用は簡単に得られないか、魔族は契約したことには絶対なのだがな。ならば信用を得るための供物としてお前に力を与え…いや()()()か。』


 そういった後、アルトの左腕には[風]が渦巻いていた。


『お前の記憶にあったものから苦労して取り出せたものの一部だ。先ほどお前に弱いと表現したが、正確には()()()()()()()。まだ15年しか生きてないその身で、全盛期はもっと昔というのは何か皮肉めいたものを感じるな。』


「それがさっきお前が言っていた[真実ではない時間]ってやつか。生まれてからまだ数日の奴に言われるのも癪にさわるが、一応礼は言っておく。」


『気にするな、返した力に関しては初期状態だが、そのうち慣れてくるだろう。魔族の血は輸血した左腕に多く流れているから魔法は左で放つ方が威力も精密性も安定するだろう。』


 返された力は[魔法]。常人にも努力すれば使えないことはないが、使えない者には決して使えないもの。今までで剣術と少しの銃術でしか戦えなかったアルトには大きな力となるだろう。


『そうだ、まだ僕の魔名を明かしていなかったな。魔名は[ハイゲート]。呼びにくいなら別人格の意味もこめて[ハイド]と呼んでくれ。』


「分かった、それが俺のもう一つの名前なんだな。まだお前のことは完全には信用できないが覚えておく。」


 最後にそうハイドに告げるとアルトは体を休めるために意識を落とした。

 落とす直前に『厳しいな』と聞こえた気がするが無視をして眠りについた。

 [ハイゲート]はロンドンの怪奇現象から持ってきました。

この名前は吸血鬼ではないかと囁かれたロンドンのニュース記事が元っぽいです。本編でも元々は存在しない者の表れを重ねて、後々に生まれた主人公の魔族部分として反映しました。

 名前を略した[ハイド]も作中で話した通りのジキルハイドからお借りし、別人格でハイドにしました。


 こちらも近いうちに出しますが、主人公が半魔で名前が二つあるのなら当然姉のシルクにも魔名は存在します。誰を元ネタにしようかは決まっていますが、流石にここまで名前を凝ってつけるのはやりたいですができませんのでご了承お願いします(泣)

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