Rord13 姉の心弟知らず
理不尽な暴力と、自身の無情さに怒りを覚えるアルト。
我慢の限界が解かれ反撃を行うが、一般人相手にあまりにもやりすぎな蹂躙が広げられていた。
ついには武器を抜いてしまい、容赦なく男に切りかかる。
しかしあと一歩の手遅れになる前に剣は止められる。
激情に駆られるアルトの剣を止めた理由は本人にしか理解されない。
それでは第12話、開幕としよう。
「そもそも」君を許す理由が僕にはない。」
無慈悲に左手に握られた剣が振り下ろされる。男の胸部は容赦なく切り裂かれる…はずだった。
「_やめなさい。」
振り下ろされるはずの左腕は聞き覚えのある声と共に、華奢な腕に掴まれ静止された。
アルトは静止された腕を今一度振り下ろそうとしたが、その左腕は全く動かせなかった。
「やめろって、言ってるでしょう?」
掴まれた腕にじわじわと力が入れられているのを感じ取り、アルトは諦めて力を緩め剣をおさめて後方に振り返った。
「何で止めるんですか、シルクさん。」
止めに入った人物は自分の恩人であるシルクであった。集合の時間から長く経っているのにいつまでも来ないアルトの行方を追っているうちに、路地裏の騒動が聞こえてやってきたようだった。
「貴方、結晶強化状態で斬りつけてたらコイツ死んでたわよ?」
「それが何か問題ですか?子供を殺しかけて他人にも理不尽な暴力ふるってくる奴なんて、人とは思えませんね。言葉が使えるだけの魔物と同じですよ。」
「だからって、ここで殺したら貴方もコイツと似たようなものよ?それに…」
自身の怒りがまだ収まってないアルトを諭しながら、男たちの方にも目線をおくりシルクは言い放つ。
「[弱いものいじめ]程、無意味と思えるものは無いわ。」
シルクの言葉はアルトを叱るように言いつけ、男たちを[弱い]と侮蔑するようにもとれることばであった。
「_ッ!このアマぁ!」
シルクに止められていなければ死んでいたかもしれないにも拘らず、たった一言の罵倒で頭に血が上がっている単細胞に、アルトはもちろんシルクでさえも(やっぱり魔物なんじゃないか)と呆れながら向き合った。
「バカは死ななきゃ治んないってのは本当みてぇだな…」
そうつぶやきながら剣に手をかけ、再び迎え撃とうと準備するアルトであったが、次の瞬間に横から3回の銃声が路地裏に鳴り響く。
「ま、コイツ等は本当に魔物なんだけどね。」
大男とついでに取り巻きの男女…だった者の頭部に、綺麗に銃弾が撃ち込まれている。
よくよくみると、人の肌の下から黒い鱗のようなものが浮き出てみえた。
「こんな雑魚でも、脅威なのよね。」
「ちょっ!?結局殺してんじゃないスか!?」
シルクは銃口の煙を吹き消し、スカートにやや隠れているホルスターに銃をしまう。
人に殺すなと言っておきながらノータイムでとどめをさす女性にアルトは目の色を戻し、ツッコまずにはいられなかった。
「アタシはコイツ等が魔物だって知ってたから始末しただけよ。」
「なら、そのまま俺が斬ってても良かったじゃな…」
言葉の先は停止される。なぜシルクはアルトに始末させなかったのか、その理由は本人の知らない姉心からだった。
「貴方は人だろうと関係なく斬ろうとしたからよ。せっかく会えた弟ですもの、間違った道をただすのが身内の役目よ。……あっ。」
自分からうっかり正体をバラしてしまったシルクであった。
(やってしまった)と内心焦るシルクと(何て言った?)と困惑するアルト、二人の間には何とも言えない静寂に包まれている。
「…とりあえず、子供を治療しないとですよね。筋力強化がきれないうちに運びましょう、話はあとで聞かせてくれるっスよね?」
「え、えぇそうね。じゃあ、町の入り口近くまで距離があるけど、そこの診療所までお願いね?」
瀕死の姉弟を抱え「了解っス。」と軽く答えた弟。姉はこの後どのように説明すればいいのか頭を悩ませながら来た道を引き返す。
普通は瀕死の姉弟を先に案じるべきだと思うが、内容が故か二人の頭は少し混乱していた。
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診療所に運び終わり、小さな姉弟は急患として治療室に連れられていった。
幸い、運搬中にシルクが応急処置として上級回復薬を使ってくれたので命を落とすには至らなかったが負傷がひどく、内臓もダメージを負っていたためその治療は4時間に及んだ。
アルトは診療所に着いたときは少しアザができる程度の負傷しかしていなかったが、強化結晶の副作用、さらには重ね掛けの影響で筋肉が張り詰め、血管から血が少し噴き出したために貧血をおこしたが。
「…やっぱ重ね掛けはやりすぎたな。」
目を覚ましたアルトは診療所のソファから上体を起こし、あたりを見渡した。空には月が浮かんでおり、町の光も少し消えかかっている。
横のソファで座ったまま寝ているシルクを見てポツリと呟いた。
「姉さん…か。」
助けてもらったあの時、名前を聞いてから更にだったがシルクに対しては初めて会ったような気がしないのを感じていた。しかし、10年以上も会っていなかったために幼少期の記憶はおぼろ気であり、確証が得られなかったのでその場で追及することを諦めていたのだ。
どんな風に姉を呼んでいたのか、それすらも覚えていない弟は何か思い出せることはないかと姉の顔を深く除きこむ。
「…あ、起きたのね。体はもう大丈夫?」
「何ともねぇです。あの姉弟はどうなりました?」
「治療は終わってる。今は寝ていて後は回復を待つだけね。」
そうこうしているうちに目を覚ましたシルクに子供の状態を伺い、安堵するアルト。暴行を実際に見ていただけあって心配も少し大きかった。
「…じゃあ、いったん帰りましょうか。」
その場では多くは語れず、気持ちを最後に整理するために白髪の姉弟は帰路に着いた。
前がきに前話のあらすじと本編に少しだけ触れるように表現してみました。
モチベがなかなか上がらず、話の進め方すら大まかにしか決まっていませんが、なんとかやれたらなと思います。




