Road11 九死に一生?
五月病です、すみませんでした。
前の話見ながら更新いたしましたので楽しんで頂けると幸いです。
「ごちそうさまでした。」
「お粗末さまでした。」
出されたパンとスープを完食して礼を言う。
頭では1ヶ月経っていたという感覚はなかったが、身体はやはり衰えていることが分かる。
アルト自身が小食ということはないのだが、パンとスープだけでもう何も食べる気は起きないのが弱っている証拠だった。
「身体はもう大丈夫?何処か不調なところはない?」
食事を終え、一息ついているとシルクがこちらの体調を心配してくれた。
「体力は落ちてますけど、リハビリすればなんとかなりそうです。…ただ、左腕を動かすときにちょっとだけ違和感がありますかね。」
身体のほうは慣らせば元には戻りそうだが、左腕はどうにも他の衰えとは違って感じた。
そもそも、左腕は屍人?に剣で刺された方の腕であったが、あのときに酷く怪我を負った割には傷が完全に塞がっていたのも不思議である。
だが真っ先に感じた違和感は傷の方ではなく、動作を行う際に現れていた。
いざ左腕を動かそうと考えても、そこから左腕が動くまでに一瞬の間がある。
まるで、今この腕を動かしているのは自分自身では無いように思えてならなかった。
「左腕は…あまりにも状態が酷すぎたから独自の方法で治療したんだけどね。
当分は魔導義手に近い形で動かす感覚になるけど、左腕が完全に回復さえすれば前と同じように動かせるし、一生このままってわけじゃないから安心して。」
「そういうことだったんですね、それを聞いて安心しました。」
義手生活のようなものはその内終わると聞き、アルトは胸を撫で下ろした。
さて、これから何をすべきだろうか。
身体を元に戻すためにリハビリを行うつもりであるが、これといって何をすればいいのか分からない。
顎に頬杖をつきながら考えていると、その様子を見ていたシルクに提案された。
「貴方の状態さえ良ければだけど、リハビリがてらに港町まで出かけない?
貴方の装備が全部使いものにならないみたいだし、食料を買いに行くついでに見てまわるといいと思うわ。」
その提案を受け、サクロから港町があると聞いてたことを思い出す。
確かにアルトは現在戦うための武器を何も持っていない状態だ。
盾は壊れたので道中で捨ててしまい、剣は屍人に奪われ、銃も銃口が変形してしまっているので使用できない。
アルト自身の腕っぷしもそこらの兵士と同等程度までしかないので特別に強いということもない。
革製のジャケットとジーンズごときで魔物と渡り合う術を持っていないアルトでは今度こそ死にかねないだろう。
「では、お言葉に甘えます。運良く所持金は河で流されなかったみたいですし、案内していただけるのでしたら大変光栄です。」
幸いなのは自分の所持金は手元にあるので装備を整える資金についてはあまり考えなくても良かったことだけだ。
「…なら良かった。少し準備をしてくるからそっちが特に用意するものがないなら玄関で待ってて。」
先程からシルクの受け答えに少し間があることに疑問を持ち、やはり甘えてばかりなのは厚かましかったろうかと考えてしまっているが、アルトには本当の理由を知るよしもなかった。
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言われたとおりに玄関で待ち合わせを行い、シルクの準備も終わったのでいよいよ外に出かけるときだ。
アルトにとっては1ヶ月ぶりに日の光を浴びることになる。外に出てアルトは太陽に向かって大きく伸びをした。
ふと玄関の方を振り返ると、外観である豪邸が確認できた。
人1人住むにはあまりにも大きく、それこそ使用人が数十人くらい居住しているほうが自然のような大きさだ。
正面を見返すと外壁の門まで少し距離があり、見渡すと豪邸を中心に左右30坪くらいありそうな広い中庭であった。
左側に家庭菜園を、右側には蔵が設置されていたが、どちらもあまり使われていないようだ。
「…広っ。」
「こんな広い家だけど、私しか住んでないのよね。
だから普段使う場所以外は手はまったく加えられなくて…。
それに、ここに来客なんて滅多に来ないから外観もツタ張りっぱなしでもう面倒になっちゃって。」
アルトの溢した言葉に苦笑して返してきた。
外観はもういいでしょ?とシルクは半ば急かしながらアルトを押し出し、2人は屋敷を後にした。
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【ポートライト港町】
山を下ること30分、ようやく目的地に到着した2人。
町に入るとすぐ案内板が目に入った。シルクの向かう食料や日曜品市場は町の中央部に、アルトの目当ての武具の商店街は町の北西部に位置していた。
「貴方はこの町始めてのはずよね?じっくりと見たいなら時間は多くとるけど、どうする?」
「そうですね、せっかくですので装備を整えたら少し眺めてみようと思います。」
装備の点検もそうなのだが、自分の指名手配がどこまで来ているのかも気になる。
自分が意識を失う前までは、ライフレッドに来ていた兵士の数は少なくなっていた。
追跡を中断して城のほうに兵士を戻しているならばありがたいのだが、偽物が[待ち]に徹しているとは考えずらい。
いくらリュウガが先に手をまわしてくれているとはいえ、一人の力では限界があるはずだ。[今の自分がどう振る舞えばいいか。]状況に応じて自身で見極めねばならない。
【たとえ自分が無力であっても、いつまでも甘えてばかりではならない。】そう自分で志し、目的地まであしを運んでいった。
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町を観察しながら歩き続け、ようやく商店街までたどり着く…
案の定、この街にもすでに手配書は回っており兵士もところどころを徘徊していた。
ライフレッドでは先にリュウガが手回しして、アルト自身も手配前に町を訪れていたことにより町内でもある程度は自由に動けたが、今回はそうもいかない。
町の住民は手配書を見るなり侮蔑の感情を表しているのを見るにリュウガの手回しが回ってないのか、もしくは失敗したのだろう。
手配書には自身の顔写真が使われているので、いま顔を見られるのは非常にマズい。
アルトは出かける前にシルクに頼んで用意してもらったマフラーで顔を隠し、途中の市場で購入した伊達メガネをつけ、髪型も写真と少しでも異なるように崩してから、商店街の中まで入っていく。
商店街内にある店先には様々な武器が並んでいる。
一般的な剣・槍・斧・槌・弓・棍棒・拳武器を筆頭にたくさん並んではいるが、アルトにとってはあまり欲しいと思える武器はなかなか見つからない。
アルトがこれまで使っていたのは片手剣に小盾、そして銃。
銃に関してはある程度の諦めはついていたし、盾は使ってみて合ってないように感じたのでこれらを候補から外し、丁度いい遠距離武器と剣を探しているのだが一向に自分に合った武器が見当たらない。
遠距離武器は弓もしくはボウガンしかなく、剣も戦闘職向けの両手剣ばかり。よくても重量のある片手直剣だけであった。
「せめて軽い剣の一つはあってほしかったんだがなぁ…。」
あまりにも目当ての品が無く、ふと声に出てしまったアルト。
それもそのはず、ここで取り扱っているのは戦士や騎士向けな力の戦闘職の武具がメインに売買されている。
そもそも、アルトの戦い方は[受けて返す]や[重く押し切る]ではなく、[躱して返す]盗賊系や[素早く押し切る]武術士系などの技の戦闘職の戦法が向いている。
なので常に両手が塞がってしまう武器はアルトの動きに合わないため選ばなかったのだ。
一時間近く回ってみたが、この商店街には戦闘用ナイフの一本も売っていなかった。仕方がないので片手直剣を一本購入し、少しばかり時間まで散策しようと考えていた。
武器に関してたいした収穫がなく、落胆しながら歩いていると何かを殴っているような物音がした。
壁を殴る音であったのなら気にせず通り過ぎたのだが、物か人を殴っているような音が聞こえたのでアルトは野次馬のように音のするほうを覗いてみた。
「…ごめん、なさい…っ!ごめ、んなさい…っ!」
「このガキッ!謝ってすむわけ無ぇだろうがッ!!」
目に入ってしまった光景は、小さな少年に対して暴行を加えている大男。少し目線をずらすと少年の後ろには少女がうずくまっており、よくみると顔に痣が浮かんでいる。大男の後ろには一回りほど小さい男女二人がニヤついてその様を眺めていた。
「ガキ相手に容赦ないなぁコイツwもっとやってくれよw」
「うわキッショwこのガキついにはゲロ吐いてるしww」
殴られている子供をみて楽しんでいる大人も、ただ激情に駆られて子供を殴りつづける大人も、アルトにとってはとても見ていられないほどに悲惨な光景だった。
(うわぁ、えげつねェもの見ちまったなぁ…)
だが、アルトは無情にもその場を離れることを選んだ。
可哀そうなどを思わなかったわけではないが、なによりも自分が面倒ごとに巻き込まれるのを嫌がった。
そもそも止めに入ったとて、あんな大男が相手では自分がやられるのは目に見えているし、仮に大男が何とかなったとしても、残りの二人も相手しなければならない。
ならばと警備兵などを呼ぼうにも追われている身である自分が兵士に話しかけるのは危険すぎる。
見ず知らずにそこまでのリスクを負う必要はないと自分に言い聞かせ、その場を背にしたその時、大男に蹴飛ばされた少年がアルトの足元に転がった。
「…た、す…けて…。」
もうすぐ息絶えるのではないかと思うほど衰弱した少年がこちらを見ながら助けを求めてくる。
少年の様子を見てしまったアルトはあまりの状態に足を止めてしまい、その場を動けなくなっていた。
「…オイ、テメェ何見てんだよ…。」
「いや、俺は別に…」
「何コッチ見てやがんだよ!!!」
大男に見つかってしまい、苦し紛れに弁明を試みたアルトだが、言葉が出るよりも先に腹を勢いよく殴られてしまった。
ここで話のなかに出てきた備考を少し…
・豪邸左右30坪…片方2916㎡(縦横54m)の左右含めての長方形をイメージしました
・魔導義手…脳を伝達する神経ではなく、大気中のエネルギー(自然魔力)を使って動かす義手
義手使用者のエネルギーなどは使わないが、動かすのにエネルギーをいちいち変換するので
若干の間がある動きになってしまう。




