Road10 本人の知らぬ真実
「ーってことで今に至ります、ご心配おかけしました。」
『いや〜、君から電話がかかってきた時はびっくりしたね。働きすぎて幻聴が聞こえたのかと思ったよ。』
シルクから電話を借り、職場であり家である便利屋に連絡を入れ、事の顛末を話していた。
『大変だったんだよ?何日経っても帰ってこないから探しに行ったら、山の中で安い片手剣と右目に銃弾の跡がある屍人見つけてさ。
諦めて帰ってもう死んでるかもしれないってネロに言ったら「そんな…私、最期に、アルトに何て言った…?」って落ち込んで部屋からしばらく出てこなくなったし。
そんな状態だから便利屋も開店できないしで商売あがったりだからね。もう一回いうけど、本当に大変だったんだよ?』
向こうの出来事の嫌味はこれだけに収まらなかった。話の途中で分かったことだが、自分はなんと1ヶ月もの間、意識を失っていたようだ。…もしシルクに拾われてなかったらと思うと背中が寒くなった。
アルトがいない間のことを延々と愚痴り続けるサクロにアルトは苦笑し謝りながら聞いていた。
「本当にご心配とご迷惑おかけしました…
ネロの方は大丈夫ですか?しばらくってことは今はもう出てきてるんすかね?」
『なんとかね、仕事もまた少しずつできるようになってきたから営業時間が短いながらも元に戻りつつあるよ。』
「なら良かった、アンタの小道具の片付け、ネロ1人じゃ大変ですからね。」
『酷いな〜、これでも君がいなくなってからは控えてるんだよ?こっちとしては食事がインスタントに戻ってる方が辛いよ…』
互いに冗談を交えながら安否を確認しあう。
他にも様々なことを長々と話していたらシルクから昼食ができたと呼びにきた。
「お呼ばれしたんで、そろそろ切りますね。
橋の修理、手続きお願いします。大体どのくらいかかりますかね?後、修理費ってどうなります?」
『あと2週間程度かな?とは言っても多分魔物が壊したってことになってるから修理費の心配はいらないかな、買い出しとか行きたいならその山を下ったところに港町があるからそこで済ませるといいよ。』
御足労かけます。と礼を述べ、電話を切ろうとするとサクロから恩人にこちらからも礼をしたいと言われ、電話をシルクに手渡し、自分は一足先に広間に向かっていった。
『…久しぶりになるのかな、アルトを助けてくれてありがとね。』
サクロもシルクも互いのことを知っていた。サクロは礼をした後、久々の再会に話しを膨らませていた。
「貴方の知り合いだとは思ってなかったわ、人の縁って不思議と近くで繋がってるのかと感じるわね。」
『う〜ん、どうだろ?案外、君にアルトが助けられることって必然だと思うよ。僕がアルトと知り合ったのだって、意図されたものだったし。』
「え、意図されたってことは偶然以外に何か理由があって雇ったの?」
アルトはたまたま紹介されて便利屋にきた訳ではなかった。
アルトが便利屋に向かう前日、宿屋の主人に推されるより前にアルトの面倒を頼んできた人物がいたというのだ。
『リュウガから連絡があってさ…国から追われることになった自分の弟子を頼むって。
聞いたときはそんなの断りたかったけど、真面目な声だったリュウガと、アルトの経緯と本当の名前を聞いたらダメとは言えなくってね。』
城下町から脱出したあの日、ちょうどアルトが結晶の副作用で倒れてる間にリュウガはアルトを安心できる友人に掛け合っていたのだ。
無論、国から追われている者を預かって欲しいというのだから状況や身分などは事細かに説明して、相手にも納得できるように様々な理由をつけたしながら頼み込んでいたそうだ。
サクロはシルクにアルトが冒険の書を盗られていることと盗られた書の性質、どのような理由で国から追われて身分を隠しているのかなどの現状を知っている限り伝えた。
「生きてるのが不思議なくらい酷い目にあってるわねあの子。
あと、なんかさっきから名前の方をあからさまに隠してない?そこまで話すなら名前まで話してくれた方が、どんな名前で指名手配されてるか確認できるから教えてほしいんだけど。」
ここまでアルトのことについて様々な説明をサクロは話してきたが、名前には触れないようにしていた。
この名前を出すとシルクは混乱するかもしれないと思ってのこと…しかし、ここでアルトの真名を聞きたいと出されてしまいサクロは言葉に詰まってしまった。
「リュウガから信頼されてるような子でしょう?借りに私が嫌な奴の家系の名前でもアルトはアルトとしてしっかり割り切れるわ。」
困ってしまっているサクロを察してかどんな名前でも問題ないというシルクに対して、サクロは折れて教えることにした。
『嫌な家系ってことはないんだけどね…
アルトの本当の名前は[アルター・ロード]。
母親の名前は[スロウ・ロード]で、父親も知っての通りあの人。
血縁は紛れもなく君の弟で、当然のことながら混ざってる…僕がアルトの名前や経緯を知ってたってことは本人には内緒にしてくれ。』
助けた冒険者は血の繋がった弟。その真実を告げられたシルクはサクロが口篭っていた理由を理解し、弟と似た苦笑をした。
「本当に貴方の言う通り、出会いは必然だったわけね。小さい頃から結構成長してて分からなかったわ。
あたしは父さんの仕事についていったせいで弟のことは母さんから聞いてたことしか知らなかったけど…
言われてみれば、遠慮しい性格とか父さんそっくりだわ。」
サクロの心配は無意味であった。小さい頃に覚えているアルトと照らし合わせて、ただ笑いながら思い出を振り返りながら話した。
「で、混ざってるってことは言ってるの?
私は元から人じゃない方が強かったから勇者職を選べなかった訳だけど…母さんの方の血筋のことは人と暮らすにあたっては得に何も言ってないの?」
『うん、アルトは人の方が強いから勇者を問題なく選べたんどけどね。
ただ混血に至っては本人は知らないし、父親の方が〔元勇者〕だったことも知らないからなんで選べるかも分かってない。
スロウさん曰く、{知らなくていい時は知らなくていい。しっかり向き合うべき時じゃないと、今の居場所を見失うから}らしいよ。
まぁ、その知るべき時にあんな事件が起こっちゃったからアルトは何も知らないままになってるんだけどね。』
会話の途中の母の言葉を聞き、母さんらしいと思ったシルク。そして運悪く何も知らない弟にどう接しようか考えていた。
『ま、アルト自身がこんな状態だからね。僕としてはもっと落ち着いたときに伝えればいいと思うけど…
明後日にはそっちにリュウガが向かうはずだから、その時相談してみれば?』
…ちょっと待って。今サクロは誰がここにくると言ったの?
『あぁ、さっき電話の内容を紙に書いて妹にも伝えててね。
リュウガも心配してたからアルトがここにいるって連絡入れてもらったら明後日には一度行くって言い出したらしくて、君もあいつに会うのは久しぶりだろ?
そろそろくっついてやれよ、あいつ酒飲むと仕事の不満とシルクに会いたいばっかりだからな。惚気聞く身になってくれよホントに。』
「余計な世話!そんなに会いたいなら勝手にしなさいって言っといて!」
捨て台詞を残すと勢いよく電話を切ったシルク、
顔はもちろん、耳まで赤く染めてうなだれてしまう。
「あ〜、もう…アクセサリーどこ置いたっけ…」
アルトのことで話すはずなのにもうシルクの頭の中はリュウガがくることでいっぱいになっていた。
そんなことを考えているとどこか遠慮しているような声が聞こえる。
「あの〜、すみません…」
シルクが声のする方を振り返るとアルトが申し訳なさそうにこちらを除いていた。
「…ご飯待たせてるの忘れてた。」
ようやく正気に戻り、軽く謝りながら一緒に広間に降りていった。
今回は会話partとなっていてキャラクターが喋っていることが多いです。
いつものような表現での書き方が思いつかなく、ちょっと迷走気味の文。
日常シーンはまだ続きますので、なんとか気張っていこうと思います。




