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弓張月の幻想   作者: 神龍 幸正
5/10

第4章

どうもこんにちは、猫神幸正です!

だいぶ投稿が遅れてしまい申し訳無いです。

扨、今回は第4章をお送りします。

感想などいただけると嬉しいです。

ブックマーク、評価の方もお待ちしております。

それでは、どうぞ。

この小説が、貴方に至福のひとときをご提供できる事を祈って。

第四章 学

 

 研究所内は迚も忙しく、誰も僕等の存在に気付いていない様であった。そのお陰で、エリアスの案内で研究所を自由に見学出来た。詳しく尋ねてみると、この施設内にこの様な研究室が幾つか存在しているという。エリアスらは、世界と世界を繋ぐ時間軸の擦れとその生まれ方、次元に於ける物理学的視点からの研究が主である。


「皆は初めましてかな。」

 研究室の広間にズラッと並んだ獣人の研究員達を凜とした瞳で見下ろし乍ら、エリアスは温厚に言った。半日程経った後、手帳の研究はもう済んだのか、慌ただしさが波の様に引いていった研究室の広間に、研究員全員が集められていた。研究員全員に、僕等のことを紹介するらしい。僕等はエリアスに手招きされ、研究員皆が見渡せる所へゆったりと歩いた。

「初めまして、和泉大人です。短い間ですが、お世話になります。」

 僕は、そうなることを心から祈り乍ら言った。

「神城重信です。どうぞ宜しくお願いします」

 シゲも、僕も同じ気持ちらしい。心配そうに歪んだ顔で丸分かりだ。だが、さーやんだけは丸っきり違う様で……。

「こんにちは、私は良田沙耶華です!」

 まるで日曜日、遊園地に連れて来て貰った子供の様な声調である。

「宜しくお願いします!」

 さーやんは最後の一言を思い出した様に付け加えた。

「扨、以上三名が狭間に吸い込まれてしまった者だ。何としても彩月郷から元の世界に戻してやろうと思う!此れを最優先事項に考えろ!以上、解散!」

 エリアスの低い声が凜と響いた。万の言の葉をぐつぐつ煮込んだ様な重さの籠った口上に、僕は改めて、彩月政府に逆らうことの危険度を認めたのであった。

 

 その夜——

 異世界の夜を経験するのは二度目だが、何だか現実の夜よりもしっとりと暗く感じた。研究所内もひんやりと冷たく、硝子窓に映った僕の顔からは、何の感情も読み取れなかった。昼間のあの喧騒が嘘の様に静まり返った研究室をザッと見渡してみると、疲れたのか転寝したり、或いは船を漕ぐ者が大半であった。

「あの手帳、結局何だったんだろう?」

 蛍光灯の下に吐かれた言葉は研究室の静寂に織り交ぜられ、溶けて消えた。

「さあな。ただ、石凪神社には関係あるかも、だな」

 シゲはよっこいせと立ち上がり乍らぼやいた。

「お姉ちゃんがこの場に居ればなぁ……何か情報があったかも知れないのにね」

 さーやんの言葉に同意しない訳も無く、僕とシゲは殆ど同じタイミングで相槌代わりに首肯した。

 すると——

「ああ、此処に居たのか。来てくれ、少し話がある」

 ガチャっと扉が開いて、エリアスがにこやかに入ってきた。表層こそ笑っているが、その瞳の深奥には学者の様な、ある種危な気なものが宿っていた。

 僕等はエリアスに着いて部屋を出、廊下を少し進んで右に折れると、重厚感のある木のドアがあり、そのドアの前でエリアスは立ち止まった。ドアには金の文字で『会議室』と刻印されており、厳格で聡明な雰囲気を漂わせていた。

 中に入ると、電気が点いておらず、室内は真っ暗闇であった。エリアスが先に入り、パチンと電気のスイッチを点けた。眩んだ目の網膜に、閃光と点滅する星が飛び交った。それが落ち着いてから、僕は部屋を見渡した。深い翡翠色のカーペットが敷かれ、無駄にだだっ広い。長い机はピカピカに磨き上げられ、真っ白な蛍光灯をくっきりと反射している。ふかふかとした椅子が十五程並べられ、厳かな空気がそこにはあった。

「ま、好きなとこ座って」

 エリアスはニコリともせず早口に言った。僕等は一瞬どう動くか迷った後、結局最も手近な椅子に腰掛けた。

「ちょっと面白いことが分かってね、その報告と、今後の相談も兼ねて君達を呼んだ訳だが」

 エリアスは一つ一つの言葉を吟味する様にその唇に乗せた。そして白衣のポケットからあの古びた手帳を慎重に取り出すと、埃一つ無い机の上に置いた。

「この手帳、調べてみた結果、俺の曾祖父の所有だったことが分かった」

 衝撃の事実とは正にこのことである。僕は些か驚愕してシゲとさーやんの様子を伺ったが、二人の顔には全く同じ衝撃の色が漂っていた。

 驚愕と衝撃が電流の様に迸り、重々しい空気と沈黙を生み出した。

「……それは何を意味するんですか?」

 さーやんの小さな一声が、ずんと重く伸し掛かって来る静寂を切り裂いた。

「そうだな、もしかすると……もしかしてしまうかも知れない」

 エリアスは独り言の様にそう呟いて、真面目くさった顔で何処迄も深い思考を巡らせた。

「扨、君達の今後に関してだが、最終的な目標は、彩月郷を出て、元の世界に戻ること。政府に見つかってはいけない理由を説明しておくよ。」

 僕はねっとりした生唾を咽喉の奥へと呑み込んだ。

「率直に言ってしまえば、政府が法律で、此れを禁じているからなんだ。

 何故禁じられているのか、それは、世界と世界を移動するということは、捻じ曲げられた次元と次元の中に飛び込むことになる。此れは、少なからず彩月郷に影響を及ぼす。」

「……即ち、その影響がパラレルワールドに及ばない様にするのも、彩月郷の役割である、と言う訳ですか?」

 シゲは僕が見たこともない程真剣な目をしていた。

 ……まったく、これほど真面目に勉強に取り組んでいたら、成績も上がるだろうになぁ。僕は、つくづくそう思った。

「御名答だ神城君。だが、厄介なのはその影響が何処にどの様に出るかが分からない、と言うことなんだ。だから我々としても、影響を此処に留めるのが精一杯の状態なんだ。時々、影響がパラレルワールドに出てしまうこともあるけどね」

 エリアスは疲れた様に言うと、深く溜息を吐いた。

「その影響って、具体的にはどう言ったものなんですか?」

 僕は率直に思ったことを訊いた。

「……そうだな、最も多いのは、建造物の崩落だな。君達の世界でも偶にある様だけど、その内何回かは、こっちの次元の擦れによる影響もある。まぁ何にせよ、政府に嗅ぎ付けられる前に次元の狭間にもう一度飛び込むんだな。それじゃ、話は以上だ。何か質問は?」

 エリアスは優しい笑顔で言った。

「あの、次元の狭間っていつ何処に現れるものですか?それが分からないと帰れないんですけど……」

 シゲは恐らく僕もさーやんも考えていたであろうことをそっくりそのまま尋ねた。

「うーん、それはまだ分からないんだ。言わなかったっけ?不定期に現れるって。だから、偶然見つけるしかない」

 エリアスは無情に言い放った。だが、低い声調こそ無情だが、その瞳は畏怖と勇気に満ちていた。

「——って、思うじゃん?」

 エリアスは悪戯っぽく笑みを浮かべ、目を細めた。

「そうじゃないんですか?」

 さーやんは切羽詰まった様に訊いた。

「いやまぁ、事実そうなんだけど、それじゃ余りにも帰れる確率は低過ぎる。でも次元の狭間が無いと帰れない。

 じゃあ発想を変えてみよう。見つけようとするから駄目なんだ。見つからないなら、作って仕舞えばいいと思わないかい?」

 エリアスの悪戯っぽい笑みは、段々と虚無的に歪んで行った。

「そんなこと出来るんですか?本当に?」

 僕等が藁にも縋る思いでエリアスを頼っていたことは紛れも無く確かだが、此れに関しては余り信じられた話ではない。

 さーやんが放ったこの言葉の最後、『本当に?』は喜びではなく、疑いの色が渦巻いている。

「お、その口調ってことは疑ってるな?

 だが本当だ。俺の言葉に嘘は無い。信じて欲しい。」

 確かに、エリアスの真剣な眼差しからは嘘は感じられなかった。何より、今はエリアスを信じる以外にこの世界を抜け出す方法はないのだ。

「……どうやって次元の狭間を作るんですか?」

 僕は半信半疑のまま、そう尋ねた。

「方法は幾つかあるが、最も安全且つ静かな方法で作り出す。だが、政府に見つかる確率は……五分五分ってとこだな」

 エリアスは苦々しげに言うと、表情を曇らせた。

「要約して言えば、君達の世界の時空とパラレルワールドの時空に直接影響を与えて、わざと次元の狭間を生むって言う方法だ。そんなこと出来るのかと思うかも知れんが、こちらにもちょっとしたコネがあってね。そっちでやってもらう。あとは……君達次第だ。

 この案、乗るか、否か。」

 エリアスの恐ろしく真っ直ぐな瞳が、矢の様に僕等を射抜いた。煌々と照る蛍光灯の下、微細な粒子が宙を舞う。手を伸ばせば届きそうな夜の闇が、大きな窓硝子にねっとりと張り付いていた。

「宜しくお願いします。」

 僕は厳かに早口の低音で講じ、頭を垂れた。

如何でしたでしょうか?

なかなかいいネタが思い浮かばず、表現に四苦八苦している今日この頃です(笑)

遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます!

弓張月の幻想を読んで下さった皆様、これからも小説投稿頑張りますので、応援宜しくお願い致します!

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