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弓張月の幻想   作者: 神龍 幸正
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序章

どうも、皆さんこんにちは。

神龍幸正こと、猫神刹奈です。

今回から、「弓張月の幻想」を連載していこうかと思います。まだ書き慣れず、読みにくい所はあるかと思いますが、どうぞ暖かい目で見守ってやってください。

序章

 

 僕は、また見知らぬ路地裏を駆けていた。高く、淀んだ白の壁には、蔦が激しく絡まっている。壁に挟まれた細い石造りの道は薄暗く、僅かに届いた日光が、僕の頰に仄かな光となって優しく触れた。壁と石の隙間から生えた雑草はしっとりと湿り、一歩踏み出す度、蔦の葉がカサカサと腕に擦れた。

この道を走るのは、もう何度目だろうか。所々苔の生えた石造りの道は、昔読んだファンタジー小説の世界を思わせた。

複雑に入り組んだ道を右へ左へ何度も曲がって行くと、一つ、何の変哲も無い真っ白のドアがある。僕は、その重そうなドアを見る度に、強い好奇心と開けてみたいという衝動に駆られるのだ。しかしそれと同時に、嫌な予感と言うべきだろうか、寒気、悪寒が身体を一直線に走るのが解った。だが、そんなやめておこうという自制心はいとも簡単に好奇心と冒険心に負け、少し躊躇い乍ら、その多少錆付いたノブに手を掛けた——


「……なさい」

遥か遠くから響き渡る様な霞みがかった声に、僕は、刺々しいストレスを感じた。

「……きなさい」

僕はこれで、ちらっと薄眼を開けた。部屋の長いカーテンが風を孕んでひらひらと舞っている。何も変わらぬ、いつも通りの朝。僕は正直がっかりしていた。まただ。折角あの重そうなドアを開けようとしていたのに。

「起きなさい!」

この言葉で、僕は仰け反るように跳ね起きた。びっしょりかいた寝汗で、パジャマが背中にペッタリと不快にくっついてくる。朝の燦燦とした陽光が透き通ったカーテンを貫いて、部屋一杯に踊り上がった。

普通ならば気持ちの良い朝と感じるだろうが、平日の高校生にとっては、最早地獄でしかないのだ。

「一体いつまで寝てる気なの!電車に乗り遅れるわよ!」

母の針の様な鋭い叱声が飛び、葦の葉の如く乱れあった。部屋の空気は細かく振動し、微細な粒子一粒一粒が僕の耳元へと声を届けた。

叫ぶや否や母は嵐の如く部屋を出て行き、僕は少しホッとしていた。

だがそんな虚心坦懐も束の間、何気なく部屋の時計に目をやると、その針の指し示す数字に狼狽し、殆ど転げ落ちる様にベッドから身体を投げ出すと、大慌てで両手両足をもたつかせ乍ら高校の制服に着替え、リュックを鷲掴みにして部屋を出た。

丁寧に掃除されたツルツルの廊下に足を滑らせ乍ら、バタバタ慌ただしく階段を一段飛ばしで駆け降り、居間へ飛び込んだ。父はもう既に出掛けた様で、空の食器だけが残っていた。母はキッチンを悠々と闊歩し、ジュウジュウとウインナーの焼ける馥郁たる香りに食欲を唆られた。

妹は中学の制服をしゃんと着て、澄まし顔で食パンを齧っていた。

「お兄ちゃん今日も寝坊?また電車に乗り遅れるよ?」

妹は力なく苦笑して言った。

兄としては、この妹は結構可愛いと思う。だが最近、「また部屋こんなに散らかして!ちゃんと片付けなさい!」とか、「休日だからってゴロゴロとゲームばっかり!」とか、やたらと言動が母に似てきている。

 友人は「しっかりしてる妹だね」と言うが、こっちからしてみれば家に母が二人いる様で、あんまり好ましいことではない。

僕は食パンにバターを塗りたくって齧り付き、ネクタイも緩いままリュックを背負い、すぐさま家を飛び出した。妹はやれやれといった様子で、見送りの代わりに小さく首を振った。

「気をつけてねー!」

玄関を出た瞬間、母の声が背後から追いかけてきた。

革靴の足音を響かせながら、アスファルトを只管走る。あまり人の息の混ざっていない清澄な朝の町。太陽はその定められた軌道をゆっくりと滑り始め、電線に止まっていた雀たちは、僕の足音に驚いたのか、チュンチュンと捨て台詞を残してパタパタと飛び去って行った。

六月末のこの時期、まだ最高の暑さとはいかないものの、暑いことに変わりあるかと言われるとそういう訳でもない。

中学の頃は駅をあまり利用していなかった為、駅は所詮他人事でしかなかったが、高校に入学してからというもの、駅が家から近くて有難いと思うようになった。

駅までの道を走り乍ら、僕はあの白いドアについて考えていた。

いつもそうだ。あの複雑極まりない細い道(まるで迷路だ)を抜け、白いドアの前まで来、ドアノブに手をかけるところまでしかここ最近の夢は見せてくれないのだ。全く不思議な夢である。

さて、駅に着くまでの数分間、読者様に向けて自己紹介したいと思う。

僕は和泉大人。地元高校の二年生だ。吹奏楽部に所属していて、担当はフルート。屡々フルート片手に学校をぶらつくからか、後輩からは『フルート先輩』などと呼ばれている。誕生日は五月の三十一日で、去年の誕生日に貰ったものは有難いのか有難くないのか、大学受験の参考書であった(僕も世の高校生と同じで、現実を直視したくないのだ)。

 駅に近付くにつれ、町の喧騒はどんどんそのボリュームを上げていく。流星の様にスーッと尾を引いて、その儚さは現代社会に圧迫され息苦しくもがいている現実を見ている様だった。鏡を徹底的に磨き上げた様に真っ白な陽光は、素早く、そして正確に瞳孔を射った。

時間ギリギリで駅の改札を抜けると、いつも乗っている電車をホームに認めた。燦々と散り行く斜陽を横目に、僕はサッと電車に飛び乗った。間一髪とはまさにこのこと、あと十秒遅かったら確実に次の電車まで八分、待ち惚けを食らっただろう。

今朝は英単語の小テストがあるから、いつもより多少早く出る必要があったのだ。

どうにかこうにか電車に乗り、僕は内心ほっと胸を撫で下ろした。ただ小テストに関しては昨日の夜殆ど勉強できていない為、どうせ今更勉強したところで何も変わらないというある種諦めの様なものを感じ、観念の臍を固めたという顔つきで、切れては走る味気ない窓の風景をのんびりと眺めているだけであった。

リュックの奥にしまう様に放り込まれている英単語帳など取り出す気になれる訳もなく、心のどこかに虚空の穴が開いた様に、ポカンと突っ立っている。なんだかとても阿呆らしく思えてきて、僕は賞味期限の切れたパンを噛み躙る様な惘々とした目の視線を使い込んだローファーに移し、とっぷりとため息をついた。

外は突き抜けそうなほど清々しく晴れ渡っているというのに、世間の歯車は暗鬱に、抵抗するかの様にギシギシと音を立てて回り始める。本当にかったるそうだ。

僕の朝は、大体こんな感じだ。眠い目を擦り乍ら高校へ向かうのはありったけの意志が必要で、毎朝意志を総動員するのに苦労している。

いつも通り。何にもない平和な朝。いつも通りの日常。あの日も、そうなる……筈だった。

そう。夢はいつか、良い意味でも悪い意味でも現実になると知ったのは、紛れも無いその日であった。


序章、如何でしたでしょうか?

色々読みにくかったり、変な部分はあるかと思います。これからも小説投稿頑張っていきますので、応援よろしくお願いします。

この小説を読んでくれた、そこの貴方に感謝を込めて。


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