静寂
「ねぇ、2人っきりになったんだから聞かせてよね。」
「何を?」俺は、わざとらしく聞き返した。
「歩についての想いに決まってるでしょ。」
何でよりによって詩織と2人になったかというと、彰が2組に別れようって提案したからだ。
そこまでは、良かったのだが彰が俺と歩で組ませようとする前に、詩織がじゃんけんで勝った方、負けた方で組もうなんて言い出した。
それでも、確率は二分の一なのだが。。どうやら、司は運にも見放されたらしいって事がこれでハッキリした。
「どういう所が好きなん?」
詩織はしつこく聞いてくる。人の事にいちいち口をだしたがるのだ。
「別に好きなんて言ってないでしょ。」
そう答えてみたが
「ほら、夏休み前の経済基礎でノートとらなかったの歩をぼーっと見てたからでしょ。いっしょに出てたのに目がおかしな方ずっとみてたしね。それで、教授に板書消されたんでしょ?別にいいんだよあたしは歩にこの事言っても。」
「分かった、わかった。」
「答えになってないじゃない。そんな事だと嫌われるよ。」
まったく余計なお世話である。
「あっ、クレープ食べてないね。」
「これも俺の奢りかよ。」
司がぶっきらぼうに言うと
「正解。」
まったく俺の財布の中は気にしていないらしい。
二人でクレープを食べながら歩いていると、
「優しい所かな。」
「えっ。」
「だからさっきの質問の答えだよ。」
司が言うと
「おお、素直に認めたね。」
時計を見ると10時を指そうとしていた。
「10時に駅前に集合だから戻るか。」
俺が提案して駅の方に歩きだした時、いきなり手を引っ張られた。
「ねえ、あたしじゃ付き合うのダメなの?」
一瞬、何を言ってるか分からなかった。
「あたし、優しくする。司の事好きなんだよ。」
突然でビックリした。
言葉を失うってこういう事なんだって司は思った。
「ゴメン。急にこんなの言われても困るよね。でも、歩と付き合うならいいかな。でも、あたし、司のこと。」
詩織の頬から涙がつたっていた。
詩織が泣くのを見るのは健が亡くなった時以来だった。
自分が原因で泣くなんて夢にも思わなかった。
「もう、何も言わなくていいよ。」
なぜか司は、そっと詩織を抱きよせた。
祭の後の静寂と詩織の髪の香りが、心地良かった。
詩織がこんな風に想っていたなんて、全然気付いてやれなかった。