長い夏の夜
「ついたぞ。歩。」
司は、となりの席で司に寄り掛かかる様にして寝ていた歩を起こした。
司もいつの間にか寝ていた。起きると、この電車も花火大会まで行く人でかなり混雑してきていた。それよりも、歩が横で寄り掛かって寝ていたことの方がビックリしたのだが。
駅からでて花火大会の会場へと向かって歩いた。毎年来ているのに、とても懐かしい気がした。
「あっ、かき氷だ。」
いかにもわざとらしい。でも、調子の良い詩織に引っ張られて屋台まで連れていかれる司がいた。
「おじさん、イチゴ2つ。」
詩織が元気よく注文した。
「俺はいらないよ。」
「何言ってんのこういうのは男が払うって相場でしょ。」
帰ろうとするのをとめられた。
仕方なく2人分払った。彰も歩の分を払ってるらしい。
「どうせなら、歩に買うんだった。」
独り言の様に言ったつもりなのに、スズムシの奏でる音にも掻き消されず詩織には聞こえていた。
「やっぱり、司は、歩のこと好きなんでしょう?」
「別に。」
ごまかそうとしたが、顔には嘘だってかいてあるのは自分でも分かる。
「で、いつ告るの?司くん。」
意地悪そうな笑みを浮かべて詩織が聞いてくる。
「いつかな。」
言葉を濁した。言葉が最後まで司の口からでてくる前に詩織は話し始めている。
「じゃ、あたしが一役買ってあげようか?うん。それがいいかな。」詩織は、勝手に納得している。
「何が良いの?」
後から追い付いた歩が会話に入ってきた。
「だから、司が、」
「あれだよ、ほら、経済史のレポートについて話してたんだ。」
慌てて詩織が言おうとしてたのを司が遮った。
歩の背後では、彰が詩織と俺のやりとりから察したのだろうか笑っていた。
そんなに焦る事はないだろう。だって、夏の夜は暑くて長いのだから。