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8.チュートリアル

 突如飛ばされた《 真っ白な空間 》に、目の前に突如現れた二人の美少女 。

 大抵のことでは動じない俺でも、これほど非現実的な光景をすぐに受け入れるのはさすがに難しかった。

 何が起こったのか把握するためにも、とりあえず目の前の二人の美少女をよく観察してみることにする。


 二人は、メイド服のような変わった衣装に身を包んでいた。おそらく双子なのだろうか──とてもよく似た顔立ちはまるで絵画か彫像のように整っており、現実離れした美しさを醸し出している。

 鏡に写したかのようにそっくりな二人だが、その見分けは簡単についた。髪の毛の色が全く違っていたのだ。一人は朝日を溶かしたような色の金髪。もう一人は月の光を映し出したかのような銀髪。


「えーと、あなたたちは……」

「質問を受け付けました、回答します。私の名前は《 プリン・アラモード 》。ネクストを司る管理権限保持者ですわ」

「そして私は《 エクレア・シュークリーム 》。ゲートやマギナに関する管理権限保持者ですの」

「……はぁ、こんにちわ」


 ずいぶん変わった名前だな。

 ちなみに金髪で語尾が『ですわ』のほうがプリン・アラモードで、銀髪で語尾が『ですの』のほうがエクレア・シュークリームだ。

 ちなみに言ってる言葉の意味はよくわからない。おまけに無表情のまま話してくるからなんともやりにくい。もうちょっと感情を込めてくれないかなぁ。


 それにしてもこの二人、なんだろうか──どこかで見覚えがある。容姿になんとなく既視感デジャヴがあるのだ。


 どこでこんな美少女に会ったのだろうか。必死に頭を働かせて眠っていた記憶を呼び起こす。


 ──金髪と銀髪の双子の美少女。

 ──プリンとエクレア。

 ──ネクストを司る管理なんとか。

 それらのキーワードが合わさったとき、俺の脳裏で記憶がスパークする。


 分かった! 思い出したぞ!

 俺は、確かに知っている。

 この二人を見たのは──《 プリ・エレ教会 》だ!


 ああ、そうだ。なんですぐ気づかなかったんだろうか。

 この二人は、教会が崇める双子の女神像にそっくり・・・・じゃないか!

 ってことは、まさか──。


「あのー、もしかしてあなたがたは、双子の女神プリ様とエレ様だったりします?」

「質問を受け付けました、回答します。答えは肯定。あなたがたが私たちのことをそう呼んでいることは認識していますわ」

「ただ、私たちの名前は《 プリン・アラモード 》と《 エクレア・シュークリーム 》ですの」


 やはりそうだ、この二人は″双子の女神 ″その人だったのだ!

 いやー、まさか本物の女神様に会う日が来るとは夢にも思わなかったよ。

 ってかさ、なんでまた俺は双子の女神様の前に居たりするわけ? もしかして俺、死んじゃった?


「あ、あのー、ここはいったいどこなんですかね? もしかして、死後の世界だったりします?」

「質問を受け付けました、回答します。答えは否。ここは”チュートリアル”ですわ」


 女神様と知って思わず敬語で尋ねたものの、顔色一つ変えずに返された答えは″ノー″。しかもここは″チュートリアル″という場所らしい。だからそれがどこか分かんないから聞いてるっちゅうねん。


「さっきもそう言ってましたけど、その──チュートリアルってなんなんですかね?」

「質問を受け付けました、回答します。チュートリアルとは、これから旅立つための基本的な項目を履修したことを確認する場ですの」


 基本的な項目? 履修を確認? ダメだ、さっぱり意味がわからない。こりゃこれ以上聞くだけ無駄だな。

 まぁでも、とりあえず俺は死んだって訳ではなさそうだ。実際折れた腕はまだズクズクと鈍い痛みを発してる。夢なり死後なら痛みは感じないはずだし。


 ふと気がつくと、二人の女神が俺の全身を上から下まで舐めるようにじっとりと観察していた。

 こいつら、俺の身体に興味があるのか? と思ってたら、これまで微動だにしなかった女神たちの表情がわずかに歪む。


「それにしても汚いですわね」

「怪我もしてますの」

「先に綺麗にしますわ」

「ついでに怪我も直しますの」


 汚い上に怪我してて悪かったな! ってか急にこんなところに呼び出したのはあんたらのほうだろうが。

 あまりにも理不尽な物言いに少し腹を立てていると、金髪の女神プリンが右手を、銀髪の女神エクレアが左手を上げる。

 女神の手に現れたのは、青い色をしたカード──あれは魔術マギナカードだ! こいつら、何かの魔術を使おうとしてやがる!


「いきますわ。マギナカード、オープン」

 ──〈 魔術発動:Magina Rank C【 清潔フレッシュ 】 〉──


「やりますの。マギナカード、オープン」

 ──〈 魔術発動:Magina Rank SSS 【 完全治癒フル・リカバー 】 〉──


 現れた現象は突然だった。

 一陣の風のようなものが吹いたかと思うと、体中の汚れが風に溶けるように消え、俺の全身が綺麗になってゆく。

 続けて俺の全身を柔らかい光が包み込み、さきほど父親に打ちのめされてできた傷の痛みが徐々に和らいでいく。それは折れた腕も例外ではなく──って、もしかしてこれ、折れた腕が治ってない?

 気がつくと、俺の全身の傷は癒え、小綺麗な体になっていた。


 これは、夢なのか? 二人の女神が俺に対して使ったのがマギナカード、すなわち魔術であることは分かる。だけど″ランクC″はともかく″ランクSSS″など聞いたことがないぞ。俺の知る限りマギナカードのランクはSS〜Eの7ランクだったはずだ。

 しかもその効果は、骨折を含め全身の怪我を即治癒するほどのもの。まさに神級、とんでもない効力を持つ魔術だ。


 すごい。これだけの力を持ってるとは、さすがは″双子の女神様″だ。

 でもまさか、こんな形で俺を見捨てた・・・・・・存在かみさまに会うことになるとは思わなかったよ。


 ……って、ちょっと待てよ。二人は俺のことを『待っていた』と言った。ということは、別に俺は神に見捨てられたってわけじゃないのか?


「えーっと、双子の女神プリン様にエクレア様。一つ質問があるんですが、なんでまた俺はあなたがたにこんな場所に呼ばれたんですかね?」

「質問を受け付けました、回答します。あなたはなんらかの問題で、本来は完了しているべきチュートリアルを完了していませんでしたわ」

「ところが今回、あなたがチュートリアル完了の条件を満たしましたので、こうしてお呼びしましたの」


 どうやら俺は何らかの理由で″チュートリアル″というものが終わっていなかったらしい。ところが無意識のうちに何かをやって、その条件とやらを満たした。条件として思い当たる行動は──あれか、″ネクストカードを破ったこと″か。


「えーっと。それで、そのチュートリアルとやらが完了したらどうなるんです?」

「質問を受け付けました、回答します。チュートリアルが完了すれば、あなたに枷られたネクストの制約は解除されますわ」

「──は?」

「以降、あなたは保持する【 愚者フール 】のネクスト使用が可能になりますの」


 おい、ちょっと待て。今なんて言った? ネクストの制約が解除される、だと?

 慌てて双子の女神に確認しようと一歩前に踏み出した──そのとき、俺の全身を強烈な熱波が包み込んだ。


「がっ!」


 熱い、とにかく熱い。

 まるで全身の肉という肉が焼けているかのようだ。

 同時に、なにか強い力が体の奥から込み上げてくるのが分かる。


 ──いったい何が起きようとしている?


 何か強い衝動に襲われて、思わず右手を前に突き出す。具現化されたのは、先ほど自らの手で破り捨てたはずの【 愚者フール 】のカード。

 カードは、真っ二つにしたことが嘘のように元の姿に戻っていた。──青い炎を宿して。

 なんと青い色した炎が、具現化したカード全体を覆っているではないか。


 ──なっ、ネクストカードが、燃えている?


 青い炎が、まるで生き物のように蠢いてカードの表面を焼いていく。

 不思議と熱は感じない。実際、カード自身が焼けているわけではないようだ。その証拠として、炎が舐めたあとのカードの表面に、なにやら文字のようなものが浮き上がってくる。

 一体なんなんだ? 現れた文字に目を凝らし──俺は絶句した。


 現れたのは、五つの星。それと、『100』という数字。


 ぶるぶるとカードを持つ手が震える。

 何度も目をこすったり、炎が収まったのを確認して手で拭いてみたりするものの、カードに現れた数字や星が消えることは無い。


 あ、ありえない。

 こんなのありえない。聞いたことがない。

 だけど、見間違いようがない。


 この一年、何度も眺めてきた【 愚者フール 】のネクストカードが、炎を浴びて別のカードに変貌を遂げていたのだ。

 ゼルク・ナンバー『100』。【 愚者フール 】のゼルクネクストに。

 しかも100というナンバーは聞いたことがない。──《 未発見アンノウン 》だ。


 おいおいマジかよ。俺のネクストカードが、呪われていたはずの【 愚者フール 】が──五つ星ゼルクネクストに変貌しちゃったよ!


 しかもそれだけじゃない。五つ星ゼルクネクストになったということは、別のある事実をも示唆していた。

 そう。俺は──ゼルクネクストホルダー、すなわち″ナンバーズ″になってしまったのだ!



 完全に予期せぬ事態に、言葉を失って茫然とネクストカードを見つめる俺に、二人の女神が感情のこもらない声で語りかけてくる。


「ウタルダス・レスターシュミットの覚醒を確認。チュートリアルは無事完了しましたわ」

「了解しました。続けて、【 愚者フール 】のアクティベート・ネクストを発現しますの」


 アクティベート・ネクスト?  なんだそれは。また新たな単語が出てきたぞ。

 今度は何が──と思ったとたん、俺の頭にドンッと強い衝撃が襲いかかってきた。まるで巨大なハンマーで殴られたかのような、容赦ない衝撃。

 続けて、耳の奥に不思議な声が聞こえてくる。


『【 愚者フール 】、第一段階ファーストステージ── 覚醒 』

『〈 Zeruch NEXT 【 全ては一に収束オール・フォー・ワン 】:自動発現アクティベート 〉』


 この声は──双子の女神様か? 女神様の声が頭の中に直接飛び込んできているのだ。


『このゼルクネクストの効果により、あなたはあらゆるゲート、マギナ等のカードを制約無くコスト『1』で開放することができますわ』

『ただし、あなたの保持コストは『5』ですの』


 この説明は……俺のゼルクネクストの説明? もしかして俺は、何かのネクストを発動したのか?


 まるでわからない。まったく付いていけない。

 狼狽える俺に、双子の女神が今度は直接口を開いて語りかけてくる。


「最後に、ネクストの制限によりこれまでロックされていた能力の解禁を行いますわ」

「まとめてゲートが開放されますので、利用の際は注意して欲しいですの」


 ま、まだ何かあるのかよっ! しかも今度はゲートが開放される?  いや俺はゲートからも拒絶されてたはずじゃ──。

 だが問いかける暇も無く、俺の体にふたたび異変が襲い掛かってくる。


 ── ゲート開放:Gate Rank A【 奥義(剣技)《 乾坤一擲 》 】

 体にずぅんと重みが加わり、なにかの力が宿ったのがわかる。なんだ、何が俺の体に宿った?


 ── ゲート開放:Gate Rank A【 奥義(剣技)《 一寸の見切り 》 】

 まただ、また俺の体になにかが降りてきやがったぞ!


 ── ゲート開放:Gate Rank B【 動体視力/大 】

 続けて両目に目に急に熱が走った。「あちっ!」あまりの熱さに、思わず両目を押さえる。


 ── ゲート開放:Gate Rank B【 剣技《攻》/大 】

 今度は全身を貫く電気のようなものが走り、何か言葉にならないものが体に宿るのを感じる。


 ── ゲート開放:Gate Rank B【 腕力強化/大 】

 最後は腕だ。両腕が燃えるように熱くなり、一気に筋肉が盛り上がっていく。



 ── ゲート開放:Gate Rank B【 忍耐/大 】

 ……コストオーバーのため、カード化されます。


 ── ゲート開放:Gate Rank B【 持久力/大 】

 ……コストオーバーのため、カード化されます。


 ── ゲート開放:Gate Rank C【 剣技《防》/中 】

 ……コストオーバーのため、カード化されます。


 ── ゲート開放:Gate Rank C【 格闘技/中 】

 ……コストオーバーのため、カード化されます。


 ── ゲート開放:Gate Rank D【 アクロバット/小 】

 ……コストオーバーのため、カード化されます。


 俺の目の前に5枚の赤色のカードが具現化して、パラパラと落ちていった。

 カードの名前はそれぞれ【 忍耐/大 】、【 持久力/大 】、【 格闘技/中 】、【 剣技《防》/中 】、【 アクロバット/小 】と書かれている。先ほど頭の中に聞こえてきた声のとおりの名称だ。


 もしや俺は、本当にゲートを入手したのか? あらゆるゲートから拒絶されてきたこの俺が?

 しかも、装備した5つとカード化した5つの、計10個ものゲートを?


 震える手を必死に抑えながら、目の前の5枚のカードを拾い上げる。カードから感じる独特の気配から、これが本物の《 ゲートカード 》であると分かる。


 信じられない。そんなの簡単に信じることなんてできない。

 だって俺は、今まであらゆるものに拒絶されてきた。様々なことにチャレンジして、ダメで、失望してきた。

 もはやゲートは手に入れることはできないものと半ば諦めていた。


 だけどこのカードは間違いなく本物だ。

 であれば、俺は本当に──。


「思ったよりゲートを入手できましたわね」

「これはなかなか期待できるかもしれませんの」

「ちょ、あの、女神様? これは一体なにが……」

「質問の受付はもう終了しましたわ」

「時間切れですの」

「へっ?」


 それまで無感情ではあるものの、聞いたことには丁寧に答えてくれていた女神様が、急に態度を変えてきた。もはや用無しとばかりに問答無用で質問を却下される。


「これでチュートリアルは全部終了。これからあなたを元の世界に戻しますわ」

「ウタルダス・レスターシュミット。あなたが《 英霊の宴 》に呼ばれるのを楽しみにしてますの」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! あんたたちは、あんたたちの目的は──」


 だけど俺が確認しようと質問をぶつけるよりも先に、二人の姿が歪み始め、景色も白から黒に一気に変化していく。


 最後に見えたのは、双子の女神がわずかに目を細めてこちらに手を振る姿。

 そのまま俺の視界は──来た時と同じようにぶっつりと切り替わった。

 

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