プロローグ
「最低なオチだ……」
なんてことを読者に言わせる、また、思わせるような物語は、意外と世間に出回っているものだと、私は思う。表紙描いてあるキャラに惹かれ、ワクワクさせるような煽り文句の帯に惹かれ、店員さん一押しの販促ポップに惹かれて手を出したのは良いものの、オチのガッカリ感と来たら……みたいな物語。オチまでの過程が面白ければそういった物語は許されるのかもしれないけど、お金を返してほしいという気持ちになってしまうのは正直否めない感じ。
はたまたオチが最低でなくても、文章が稚拙すぎであったり、先の展開が読めすぎたりするのも人によっては最低だと思うのかもしれない。自分が面白かったと思える話を読んだ、見たあとだとなおさら強く。
最低だと言われるような物語に対して、私が勝手に考えた一つの答え。そこまでひねったわけでもない答えを言うのなら、物語の良し悪しを決められるのは色んな読み手であって、感じ方も各々で別々ってこと。
十人十色、人それぞれ。便利な言葉だよ、個性って。
通じて、言い訳をするならこれ以上の答えはないと思う。
あなたと私は感じ方、考え方が異なるのだから、一つの作品に対して好みが別れるのは当然のこと。私はあなたが好きな作品を頭ごなしに否定はしない、だから、あなたも私が好きな作品を頭ごなしに否定はしてほしくない。
などと言う言い訳。
とりわけ一番に最低と言われそうな物語で思いつくのは、おそらく読者が腑に落ちない、納得いかない「オチ」じゃないかなと。私の中では。夢、空想、妄想etc...
ただ納得できないオチと言っても色々種類はあるもので、作者が意図して書かれたものから、設定を回収しきれなくなって投げっぱなしの意味も込めて書かれたものなどあるはず。後者の場合も意外と作者は「回収する気なんてなくて、わざと投げっぱなしにしたんだからね!」なんて思っている可能性もないとは言い切れない。風呂敷を広げておいて、閉じ方が分からないのも問題だろうけど。
もう一つ、私の周りの判断で最低だと言われるものがある。それは、深夜アニメになったりするような、美少女キャラが表紙を飾っている作品、または女の子がメインを飾っている作品。これはあくまでも私の意見じゃないからね。私が知っている人の中でそういう人がいるってだけだからね。
今の世間に媚びるようなキャラクターやストーリーが多く出回っているのは、時代がそういった物語を望んでいるのならあって当たり前だと思う。けれど、たとえ極一部の人間しか読まない、知らない物語でも、そんなものを知らない人にとっては「女の子が表紙を飾っている、理解できない気持ち悪いもの」程度に蔑まれて、それを好きな人が「最低」だと言われたりするのが現実――近年は特に「萌え」というジャンルが特化している気がするのも、私の気のせいではないはず。時代や読み手がそういった類を求めているのなら、提供する側だってそれに応えるのは必然でなければならない、という風潮ができあがってしまっているのも、このジャンルが成功しつつ退廃していると言わざるを得ないのかもしれない。あ、ちなみに、この退廃は大敗とかかってるんだよ? なんて、自分で言ったら格好つかないか。
えっと……オホン。だからと言って、私はそんな物語が悪いとは言いません。というか、おこぼれを頂戴していた身としては言えないのです。やっぱり、可愛い女の子の絵が表紙を飾っていたら買うもんね。内容とは関係なく。
どんな物語だろうと、読み手が面白いと思っていれば許される。可愛いキャラクターがキャッキャウフフするだけでも、主人公とヒロインの関係に終始ドキドキできたり、終盤に驚かされるような大ドン返しが良ければ特に。
要はインパクトの問題。知らない人が気持ち悪がる媚びてるようなキャラクターが表紙を飾っていても、その物語を手に取った人にしてみれば可愛い女の子がこちらを向いているだけでも、心に響く「何か」を感じ取っただけのこと。
作品の内容を判断して「最低」とするのか、作品の外側を見て「最低」とするのかは、それこそやっぱり人それぞれ。
あぁ、それと最後にもう一つ。誰も、何も、報われることのない作品。普通が普通のままで終わるという意味の報われないではなく、文字通りの報われない物語。ハッピーエンドを匂わせていたのに、やるせない気持ちにさせる物語も最低と言っていいのかもしれない。
とまあ、前置きはこれくらいにして、私が本当の本当にしたい話はここから。
警告しておきますが、私がこれから紡ぐ物語は人に言わせれば「胸糞が悪くなる」ような話であることを先に述べておきます。あんな話の振りをしていながら、これといって可愛くもなく、インパクトもない友人たちが出てくる、面白くもない話なのでご注意を。
ただ……この物語の結末はきっと、最低だと言われても良いぐらいのオチだと思う。あくまでも個人的な見解で。
最低のオチとはなにか。
感じる結果は人それぞれ。
ハッピーエンドじゃなかったり、主人公が死ぬデッドエンドだったり、理不尽なバッドエンドだったとしても、それを「最低」だと判断するのは読み手側であって、経験した私じゃないから。
ちょっとだけ手先が器用で、ちょっとだけオタクで、ちょっと変わった友人たちと妹を持った、いたって普通の女子高生、自称コスプレマイスターの異名を得ている葉月響の悲劇的な物語。救いもなにもない、自分の身の回りでは起きるはずないと思っていた事件が起きて、それに居合わせただけで巻き込まれた私たちの物語。後世に長く語り継がれるぐらいの、たくさんの命が無くなった物語。そんな、物語。
あの日の事件、事故から来月で丸一年。鮮烈で悲惨な出来事を絶対に忘れないためにも、少しでも多くの人に真実を伝えるためにも、私は私の心の整理がついた今日、こうやって日記に書いておこうと思ったから。
……いや、整理がついたなんて、嘘に決まってる。いつまで経っても整理なんてつくわけないし、つけられるはずもない。忘れられないし、忘れさせたくないからこそ、一年という節目にこうやって記録として残しておこうと思い立ち、書くだけのこと。あれを「そんなこともあったね」なんていう軽い言葉で、希薄なことにされたくないから。どんな人よりも間近で見ていた私だから、デジカメデータと、拙い文章で私が起こったことを残すたったそれだけの、記録。
普通の日記のように、その日起きたことと私の感想を箇条書きにするのは味気ないので、日記をベースにしたあの日の出来事を物語にしてみようと思った。少なからず、この物語を読んでいる読者にインパクトは残るような結末で。
プロローグの時点で私の語りばかりではきっと飽きてしまうので、そろそろ先に進めたほうがいいのかも。
最後に……これは私の日記でもあり、作品でもあるということを明記しておきます。万人に最低な結末だと言われも仕方のない、日常と非日常の物語。
では、始めます――