遅い初恋
'''出会った時からこの人は良い人だと確信していた、だがそれはあくまで友人としての好意だったと思う。それは間違いない。
それに私の親友であるところのミラは間違いなくラザァに異性としての好意を寄せていた。本人はどうやら自覚していないようだが。
ラザァもラザァで草食系というかそこらへんに淡白な事もあり全く進展しない2人の仲。もどかしくじれったいそんな初々しい2人。
そんな2人を見守って時にはからかうのがここ最近の楽しみだった。
私はミラの過去について詳しくは知らないが普通の人生を歩んでいないのは明らかだ。思えば私がミラと初めて会ったのはパイリアのとある路地で泣いているミラに声をかけた時。それからは突き放されるような態度をとられつつも放っておかない彼女に接し続けようやく今の関係を築いた。そして彼女が周りの人間と距離を取りたがるのはずっと続いていた。
そんな彼女がようやく他人と接するようになって嬉しかったのは本音だ。どことなく良い雰囲気のお似合いな2人を見てミラがようやく幸せを掴めると喜びもした。その感情の裏側に自分の感情を隠しながら。
いまこのタイミングでとはいわゆる吊り橋効果ってやつなのかもしれない、だが今はっきりと自覚してしまった。
'''私はラザァが好きだ。'''
今までも学校の男の子から告白された事はあったがなんとなく断り続けてきた。あまり興味がなかったし、本気で好きになれる人に出会えてなかったから。
そんな私がここまで心惹かれている存在、ラザァ。
16歳の初恋とはあまりに遅過ぎると自分でも思うが、どうやらそれはこの目の前にいる別の世界からやってきた男の子にしてしまったらしい。
そして
そして、この瞬間から私の親友ミラとは恋敵という関係になってしまったようだ。
どうしよう。
どうすればいいのかわからない、本気で恋をしたこと、本気で人を好きになった事など初めてなのにさらに恋敵までいるなんて、そしてその恋敵が親友だなんて。
どうすればいいの?'''
「エリー大丈夫?」
「わっ!!!」
気がつくとすぐ目の前にラザァの顔があり、心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
場所は未だにパイリア軍の護送用の装甲車両の中、私は家まで衛兵に送ってもらうところで緊張していたらそれを察してくれたラザァが同行してくれてることを思い出した。
「そんなに驚かなくても……」
「いきなり顔近づけて声かけられたら誰でも驚くわよ……」
「ずっと声をかけ続けてたのに気がついていなかったの!?」
「あ、それは……」
いつもだったならば軽口を言い合って明るく会話を続けられるのに、自分の気持ちに気がついてしまったばかりに言葉が出てこない。今までどんな話をしていたか思い出せない。
恋をするとはこういう感覚なのか、恋愛小説は好きで色々な種類の小説を読んできてわかっているつもりではあったが実際自分の立場になってみると勝手が違う。
思えばラザァには愛想良くは接してきていたが出会った当初から随分と馴れ馴れしかった気がするし呆れられていないだろうか?この3ヶ月も同性の友達に接するような気安さで話しかけていたので女の子として見てもらえているだろうか?
それにラザァの周りにはミラという同性から見てもとても魅力的な女の子がいて、しかもラザァに好意を抱いている。ミラは綺麗な銀髪と透き通るような蒼い目、女の子なら誰もが羨む抜群のスタイルの持ち主だ、並大抵の男なら一目惚れする。ミラの周りに男の影が無いのはミラの他人を寄せ付けない性格と、アルバード ヒルブスの家に出入りしていた事による悪い噂のせいであってラザァにとっては気にかけもしない事だろう。
つまりラザァが少しでもミラに好意を抱いてしまえば2人は見事に両想いで私の入り込む隙間なんて……
ラザァがどうとか以前に私は親友とラザァを巡って戦うことになることを許せるのか。
わからない。
いくら考えたって結論は出そうにない、考えるのはやめよう。
はやくミラに会いたいな、良くも悪くも何かわかるかもしれない。
そんな現実逃避みたいな思考回路で私は現状を結論付けた。
エリシャ ウィズ、16歳の遅い初恋の物語の始まりだ。




