気持ち(2章)
「良かった!無事だったのね!!」
一通り現場検証を終えてラザァとパイリア兵士が廃墟から出てくると路地でパイリア兵士に囲まれていたエリーが今にも泣きそうな顔で駆け寄って来た。
「うん、なんとかね。」
「あいつは?」
「逃げられた。」
「そっか……」
そこまで言うとエリーはうつむきながらラザァの胸を叩く。
「私のために時間稼ぎでラザァが死んじゃったらって思ったら私……」
俯いているのでエリーの表情はこちらからはよく見えない。だがその震える声からは大体どんな顔か察する事が出来た。
「衛兵に家まで送ってもらえるんだよね?」
なんとなく気まずいので話題をそらした。エリーは未だに俯きがちながらもコクリと頷く。敵の謎の能力と戦闘技術を考えれば完璧に安全とは言い難いがそれでも現役軍人に護衛してもらえるのは心強い。
「ねえ、ラザァはこの後どうするの?ラザァは関係ないもんね!?一緒に戻るんだよね!?」
彼女はラザァのシャツを掴みながら涙目で見つめてきた。
「敵についてわかったかもしれない、これからガレン達と合流して事件解決に協力するつもりだよ……」
上目遣いにドキリとしながらもなんとか冷静に告げる。それにラザァは無関係ではないと何を隠そう敵の口から聞いたのだ。放っておく事はできないし、先ほど思い付いた可能性をガレンやダルク、何よりミラに話さなければならない。
「そんな……なんでそこまでするのよ……」
エリーは再び俯き、消え入りそうな声で呟く。
「心配してくれてありがとうね、僕は大丈夫だから。」
「ウィズさん、護衛用の輸送車が来ました。こちらです。」
話し込んでいるところにフル装備の衛兵がやってきてエリーに声をかける。見ると防弾と見られる分厚い装甲の小型バスのような車が到着して、周りを同じようなフル装備の衛兵が固めていた。
「止めても無駄なんでしょ?自分の身の安全を考えろって怒っても無駄なんでしょ?」
「こればっかりはエリーの頼みでも聞けないかな。」
さらなる被害が出る前にラザァの手で決着をつけるのだ。
その時ポケットの中のラザァの電話が鳴ったと思えば相手はガレンだった。
「エリー少しごめん、何?ガレン?」
「良かった無事だったか、エリーは?」
「エリーも無事だよ、今から護衛用の輸送車でエリーの家まで送ってもらうところ。」
「そうかそれは良かった。敵はどうした?」
「残念だけど逃げられちゃった、でも敵についてわかったかもしれない。」
「何だ?」
「電話で話すには少しややこしいし確証もないから城に戻ってから話すよ、ダルクとかミラも呼んでおいてくれるかな?」
「ああわかった。気をつけて戻ってこいよ。」
「うん、それじゃあまた。」
そう言って電話を切って振り向くとエリーは車に乗らずに律儀にこちらを見ていた。確かに輸送車のフル装備の衛兵は威圧感があり慣れなければ入りにくいのだろう。
「そうだエリー。」
そんな彼女に声をかける。
「さっきの生きて返すって言葉まだまだ有効だから輸送車に僕も乗るから、だからそんなにガチガチに緊張しなくてもいいよ。」
そう言って出来るだけ普段通りに輸送車に乗り込んで隣の席をポンポン叩いた。
「ミラごめん、多分私も……」
顔を少し赤らめたエリーの口から漏れたそんな言葉はラザァには聞こえていなかった。




