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Schneiden Welt  作者: たる
第三幕
94/109

暗がりの廃墟

ラザァとエリーが潜んでいるフロアは出口は入ってきたドアの1つだけ。窓は複数あるが、階が高いせいか割れているものは少なく厨房の環境の小さいものが割れている程度で人が通れる大きさの窓はすべて閉まっていた。窓からここに入るには少なくとも窓を割らなければならず物音を立てずに進入は不可能だ。


出入り口のドアをしっかりと閉め部屋を見渡したラザァの選択は籠城だ。


不安定な精神状態のエリーを連れて逃げ回る事はリスクが伴う事と援軍が来る事、そして逃げ込んだフロアが思いの外迎撃に適している構造だからだ。


飲食店のテーブルがあるスペースにテーブルやらイスやらを倒して遮蔽物を何個も作る。ドアも閉めてあるので開けようとすれば物音で気がつく。事前に中を覗けず、中に入ってすぐにこの複雑な遮蔽物の配置を把握するのは至難の技だろう。その隙にこちらは隠れながら狙撃できる。窓はすべて内側から鍵を掛けて店内の本棚やらを立てかけて少しでも進入しにくくした。


この状況で作る事ができる最大限のこちらに有利な戦場だ。


もっとも奴が室内にテレポートできるならば有利でもなんでもないのだが今はそれにかけるしかない。厨房から包丁やら生地を延ばす棒やら武器になりそうなものを掻き集め広げる。


「エリー、これ持ってて。」


「こんなんでなんとかなると思えないけどね……まあ無いよりましか。」


エリーには扱いやすそうな小振りのフルーツナイフを渡した。ラザァも拳銃に弾を込め直し腰にナイフを刺す。


できるだけ武装をした2人はテーブルの陰に身を潜め物音に集中した。







「ねえラザァ。」


「……何?」


エリーがボソボソと呟く。


「あなたってやっぱミラに信用されているわよね。」


「なんだよいきなりだなあ。」


「だってあのミラよ、会ってまだそんなに経ってないラザァにあんな表情見せて……」


そのエリーの声に滲む寂しそうな響き、それは自分よりも付き合いの浅いラザァの方がミラから信用されていると考えての物なのか。


「多分だけど……ミラがあの男、アルバード ヒルブスから解放された時にずっと一緒にいたからってだけで別に僕の事を特別に信用しているとかそういうのじゃあ無いと思うんだけどなあ……」


「ラザァそれ本気で言ってる?」


見るとエリーが実に冷ややかな目を向けてきていた。


「えっ?それどういう……」





がちゃり





さっきまで2人の話し声しか聞こえなかった空間に突如乾いた音が響く。


'''音の出所は……'''


'''ここじゃない……'''


音は確かに聞こえた、だがそれはラザァとエリーのいる店内でも、ましてや出口の外でもない。背後だ。


厨房だ。


'''なぜだ!?厨房には換気用の小さな窓しかない、そこから人が入るのなど不可能だ。他に出入り口はない、わざわざ戸棚や水道の裏に隠し扉がないか調べたくらいなのだから確実だ。では何故……


「見てくる。僕が逃げてって叫んだらすぐに外に向かって走るんだよ。」


再び震えているエリーの肩を優しく叩きながら極めて冷静に、怖がらせないように言う。


「大丈夫だよ、さっきさわった食器棚から何か落ちただけかもしれないから。」


落ち着かせようと楽観が過ぎる推測を述べてみる。


「そうね……案外小鳥が窓から入ってきただけかもしれないものね……」


口調に反して全然平気そうではないエリーもなんとか自分に言い聞かせる。


「そんな可愛い進入者だといいね。」


ラザァは不安ではあるがエリーに背を向け、拳銃を構え厨房へのドアへと向かう。


耳をすませば小さな物音は続いている。これでラザァの楽観推論の目は潰れたことになる。


なんとかドアの前にたどり着き耳をつける。足元に散らばっているガラス片を踏み潰すようなパキパキという小さな音は依然として続いていた。


ゴクリと喉がなる。もし奴が、あの漆黒の追跡者がそこにいたならば、いよいよ奴がテレポート能力を持っている事も視野に入れねばなるまい。


ラザァは撃鉄をゆっくりと起こしドアノブに手をかけ、一息つくと一気にドアを開けた。


がちゃっ!


室内を見渡し、拳銃を構える。そして目がとらえた。


絶望の色、黒。


さっきからラザァとエリーを追い回し、音もなく姿を表す漆黒の追跡者。そして暗殺者を。


奴はこちらに背を向けていたがドアが開くとこちらを向いた。


全身真っ黒でフードを目深にかぶってはいるが口元はかすかに見える。エリーやミラほど顔が白っぽくなく、間違いなくこの国パズーム人ではない。


その口元がニヤリと吊りあがりと同時に奴の手が腰に伸びる。


「くそっ!」


ラザァは素早くバックステップして厨房を出るとドアを閉め、拳銃を構えた。ドアが開いた瞬間に発砲する算段だ。


「ラザァ……?」


「エリー逃げて!!!」


恐る恐る口を開いたエリーにやり過ぎなくらい怒鳴っていた。額を嫌な汗が伝う。


ドアの向こうでは今も何か音が響いていた。

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