表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Schneiden Welt  作者: たる
第三幕
91/109

無音の追跡者

「エリー逃げて!!」


そう叫ぶと同時に目の前の黒マントの男に向けて発砲する。敵は物陰に隠れ難なく弾丸を躱す。


拳銃を構えたままにジリジリと後退し背後のエリーの様子を伺う。一本道のせいかエリーはすぐさまに近くにあった建物の裏口に入り込んだ。


'''確かあの建物は空き家になってるはずじゃあ……'''


敵が物陰から出そうな素振りを見せるたびに発砲して引っ込める。これが弾切れを狙う作戦だというのもわかって、だ。


エリーが逃げ込んだ建物の裏口の横までなんとか後退するともう一度物陰に発砲してから建物内部に入る。中は薄暗く埃が積もり、人が出入りしなくなって短くはない時間が流れた事を嫌でも痛感させた。


よくよく目をこらすと地面の埃に新しい足跡がある、エリーのものだ。足跡はほとんど物のないフロアを突っ切り、上へと伸びる階段へと続いていた。


聞き耳をたてる、路地から物音は聞こえない。


'''奴は何者だ?'''


'''店の中の時といい、何故接近に気がつけなかった?あんなに目立つ姿でしかも物音1つなく……'''


店にはドアがあり、開くたびに大きな鈴が鳴る仕組みになっているし、あんな見た目の人間が入ってきたならばいくらなんでも気がつく。


路地での事も不可解だ、路地には割れたガラスやらゴミが散乱しており足音を立てないでラザァ達に接近するなど不可能だ。何故奴はいきなりあんな近くに出現するのか。


扱える人間がほとんどいないためこの三ヶ月の間もあまり調べず放置してきたこの世界特有の怪異「魔法」なのだろうか?確かにワープの魔法などいくらでもありそうではある。


少なくともラザァの知識量的な問題で今この場で考えて結論が出る問題では無さそうだ。今はエリーを無事に逃がし、自分も逃げる。あわよくば敵の情報を得るくらいのことはしたい。この事もつい最近の事件、さらには3ヶ月前の事件と関わりがあるのかも知れないのだから。


ラザァはそこらへんに落ちていた千切れた電気のコードをドアノブにしっかり巻きつけ外から開かないようにするとエリーを追って階段を上り始めた。


もう人が使用しなくなって久しいのか、窓という窓は割れ、壁やら地面やらにヒビが入っている。階段も割れたガラスだらけでこれならば足音無しに登るのは不可能だろう。奴にこの理論は通じないのだろうが気休めにはなる。


エリーの足跡を追って階段を上る間も各階の様子を伺うのは忘れない。もしホームレスなどがいた場合、敵との戦闘の際に注意しなければならないからだ。


幸い建物のどこにも人は愚かネズミ一匹いる気配もなく、爆弾だろうがなんだろうが使っても大丈夫そうだ、もちろん持ち歩いてなどいないが。


エリーの足音が最上階の1つ前で止まり、フロアに続いている。パニックになって逃げ回ったはいいがここで冷静になり隠れたのか。足跡がある時点で冷静も何も無いのだが。


「エリー?」


用心しながらフロアに入り静かに声をかける。何か飲食店が入っていたのか、調理場のような区画とテーブルや椅子のたくさんある区画に分かれており、器具などもほとんど残ったままになっている。


「ラザァ……?」


1つのテーブルの下からそろりそろりと金髪の頭が姿を見せる。


「大丈夫!?」


やはりというかエリーは恐怖でガクガク震えている。ラザァは駆け寄ってなんとか落ち着かせたいのだが


「なんでついてきたのよ!?」


パシッ!!!


気持ちのいい音が響くとほぼ同時にラザァの頬にじんわりとした痛みが広がった。


'''あれ!?'''


何故かラザァは引っ叩かれていた。


「私がパニックになって勝手にこんなとこに来ちゃったのになんでついてきてるのよ!?あなたまで袋の鼠になってるのよ!?」


そう言うとエリーがラザァの肩やら胸やらをポカポカ殴る。


「あー……そう言うことか……」


「あーそう言うことじゃないわよ!ミラの言う通り本当にアホね!」


エリーの両手は止まらない。


「ミラって何気に影で酷いこと言ってるなぁ……アホって……いや面と向かって言われた事もあるけどさ。」


情けない気持ちに囚われそうになるのをなんとか堪え、エリーの腕を掴んで猛攻をかわす。


「さっきエリーを守るって言った舌の根も乾か無いうちに見放すわけ無いじゃないか、なんとしても2人で生きて帰るつもりだよ。」


エリーはパイリア一市民、単なる学生でラザァはどういう因果か城勤めの一応のお偉いさんだ。それにそんな御託述べずとも1人の友人としてエリーは必ず守る。


今はガレンの部下の援軍を待つ以外に助けは来ない、いつも助けてくれるミラはこの事を知らない。なんとか自分だけでエリーと共に逃げるか奴を撃退しなければならないのだ。


そんな自分への宣誓をエリーへの言葉で代用した。


エリーは相変わらず涙目気味だが心なしか肩の震えは大人しくなり、言葉無くこちらをじっと見つめて来ていた。


依然として建物にはラザァ達以外の物音はしない、だが出口も入ってきた裏口含め一階にしかない。


ここでパイリア兵の到着を待つか、危険を冒して一階に降りて脱出を図るか、取るべき手段は2つに1つだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ