襲撃(2章)
第2章
ラザァは朝目覚めて見慣れない天井といつもより硬いベッドに違和感を感じた。
そして昨日1日の出来事を思い出し、今はパイリアという異世界の城下町にいることを思い出した。昨日は色々なことがありすぎて疲れていたのだろうか起きた時には既に日は高く昇りきっていた。
昨日ミラと別れた後宿屋に入ると話と違い店主はカウンターにいたので話しかけると何も言わずに料金表を見せられたので1番安い部屋を指差したら無言で鍵を渡され、、、と言った具合で特に問題もなく部屋を借りることが出来たのでそのままシャワーを浴びてすぐに寝たのだ。
このホテルにも食堂はあるらしいのだが今の時間は閉まってるので鞄から昨日エリーに選んでもらって買ったパンを食べることにした。
硬くて味も無いが安くて日持ちするので旅人には重宝されているらしい。ジャムとかも欲しいが贅沢は言えない。
食べ物の質は格段に落ちたが自然とあの親戚の家で朝食を食べる時よりも悲しさは感じなかった。それに本気で帰りたいと思っているのか自分でもわからないのが本音だ。
空気のように扱われていたあの家での生活よりも危険極まりないが2人の女の子と過ごした昨日1日の方が充実していたと感じているのだ。
あんまり考えると自分を見失いそうな気がしたので無心で硬いパンを食べると昨日は飲み物も何か買ってたのを思い出し部屋の隅にある鞄に近づいた。
鞄に手をかけた瞬間に背後の扉からパァンという乾いた破裂音が響きドアノブが激しく揺れた。
ラザァにはそれが何の音が一瞬でわかってしまった、銃声だ。そしてその狙いはラザァの部屋のドアらしい。
そうこうしてる間にも二発目、三発目の銃声が鳴り響いた。ドアノブのガタガタ具合を見る限り長くは持たないだろう。ラザァはとっさに手元の鞄に持てるだけ部屋の使えそうなものを詰めると窓を開けた。二階だがよく見ると隣に伝って下に降りれそうなパイプがある。
ラザァが窓から飛び出しパイプを伝って下に降りてすぐに部屋の中でドアが吹き飛ぶ音がして銃声が連続して鳴り響いた。男達の苛立った怒鳴り声を背にラザァは路地を駆け出していた。窓から降りだして発砲してきたらしく、ラザァのすぐ横のゴミ箱が吹き飛んだ。
ラザァはできるだけ角を曲がり銃の餌食にならないように直線が長い路地を避けて走り続けた。追っ手との距離はそれなりに稼げたらしいがいつまでも怒鳴り声が止まない上にかなりの人数がいるらしい。時々威嚇のように空中へ発砲してるところを見ると諦める気は無いらしい。
そうこうしてる間に大きな屋敷の裏の路地へと差し掛かった、大きな屋敷の裏の路地ということは当然直線距離は長い、しかも別れ道は無く突っ切る以外に逃げ道はなさそうだ。
ラザァは覚悟を決めて全力で走り出した、中間地点に来たあたりで背後から「こっちだ!ヒルブス邸の裏だ!」と怒鳴り声がした。かなり近い。このままだと逃げ切れないと思った時に横の壁の下に丁度人1人が通り抜けられそうな穴を見つけた。となりの豪邸の庭に続いているのだろう。今はそれに賭けるしかないと思いラザァはそこへ飛び込んだ。
細身なラザァはギリギリそこを通り抜けると外の様子を伺った。しばらくしてさっきまでラザァのいた路地に複数の足音が響きわたり、やがて路地を突っ切っていったのがわかった。塀の穴には気付かずにラザァは向こうへ行ったと思ったらしい。
ようやく胸を撫で下ろし、裾の泥を払っていると背後からつい昨日も聞いた声がした。
「あんた、何してるの?」
振り返ると昨日出会ったばかりの銀髪青眼の少女ミラが驚愕の表情で立っていた。昨日と同じような銀色のワンピースに上からベージュのジャケットを羽織っていて肩掛けの小さな鞄を持っている、街中にでも出かけるような服装だ。
しかし、ラザァは昨日と何か決定的に違うところがある気がしてミラのその格好をよく見て違和感の正体に気がついた。目の下がまるでさっきまで泣いていたかのように赤く腫れていた。
「ミラこそその目、、、」
「なんでも無いわよ!!!」
ラザァが指摘し終わる前にミラは目をゴシゴシこすって全力で否定してきた。
「で、あんたはなんでここに入ってきてるわけ?」
こすったせいで余計目元が赤くなっているが何も無かったかのようにミラが問い詰めてきた。どうしても触れて欲しく無いらしい。
「それは、、、」
ラザァはミラに今朝いきなり襲撃を受けたこと、逃げてたら塀の穴を見つけそこから入って逃げた事を説明した。
「あんたもだったのね。」
ミラは特に驚くこと無く聞いてそのまま納得したように頷いた。
「あんたもってことはミラも襲われたの!?」
「襲われてはいないんだけど、昨日あんたと別れた後またつけられたのよ。その時も走って逃げ切ったんだけど。きっとエリーを最近追い回してるやつが昨日3人でいるとこを見て私達を利用してエリーを誘き出そうとか考えたんじゃ無いかしら。」
「それじゃあエリーも危ないんじゃ、、、」
「昨日は夜普通に電話したし無事帰れたはずよ、今日は外出しないって言ってたし大丈夫だと思うわ。それよりあんた、ちょっと手伝ってくれない?」
何か思いついたような表情のミラが尋ねてきた。
「手伝うって何を?」
「エリーを追い回してる奴らを一網打尽にするのよ。」
そう言うとミラは悪そうに笑った。
第9話目です。
バイトあったので少し遅めの投稿です。
ここから2章なので物語が動いていきます。
それでは今回もよろしくお願いします。