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Schneiden Welt  作者: たる
第三幕
88/109

逃亡

パァン!!!!!





乾いた破裂音が静かなカフェの店内に響き渡った。


そしてその僅か後、本当に僅かな時間の後に弾丸が標的を粉々に吹き飛ばす音がする。テーブルの上のエリーのコップが粉々になり、茶色い液体がしぶきを上げる。


思い切り腕を伸ばしてエリーを屈ませたラザァの腕を弾丸がかすめ、割れたガラスが顔をかすめる。


「えっ!!!ちょっとラザァ!?」


何が何だかわかっていないふうのエリーが素っ頓狂な声を上げるが構っている暇は無い。なんとかしてエリーをこの刺客から逃がさなければ。


ラザァもさっきまで城にいたので最低限装備が義務付けられている小型拳銃は持っているが、一般人がたくさんいるこの場でドンパチやるわけにはいかない。エリーを逃すにしろこの敵とやり合うにしろ場所を変えなければ。


「走って!!!こっちだ!!!」


エリーの手を引き走り出す。


撃鉄を起こす音からして連射は得意では無いはずだ。態勢を低くして素早く移動してテーブルやらソファーやらの死角を利用して逃げる。


エリーが後ろにいることを手のぬくもりから感じて後ろは振り向かない。店内には客の悲鳴と銃声、そしてガラスが割れる音が断続的に響いている。


「ねえ、ラザァ!?」


「今は黙ってて!!」


一般的な店の構造ならば裏口があるはずだ、そこを目指してカフェを脱出しあわよくば逃げ切る。もし無理でも人気の無い場所で迎え撃ち助けが来るのを待つ事もできる。


とにかくこの場を離れない事には始まらない。


裏口が見えた、裏口にたどり着くまでには数メートル遮蔽物が無い空間を通過しなければならない、格好の的になるわけだ。


'''奴は何発発砲した?それによっては……'''


ラザァが待つ瞬間はまだ少し先、後ろを振り返り震えている女の子の肩をしっかりと掴む。


「えっ!?」


「エリー、よく聞いて、なんとしても君を無事に帰すと約束するからエリーも僕の言う事を聞くって約束して。」


「ええと……」


エリーが言い淀んでる間に新たに2発の銃声とガラスが割れる音がする。ラザァが待ち望んでいた瞬間だ。


「走って!!」


そう言ってエリーの腕を引く。それも身を低くする事なく全力疾走の態勢で走る。


横目に黒マントの男がこちらに銃口を向け引き金をひくのが見える。


カチ


冷たい金属と金属が触れる音だけが響き、銃声など聞こえない。


弾切れだ。


男は舌打ちをして弾倉を銃身から抜き、新たに装填しようとするがその時には裏口のドアは開け放たれ、2人が路地裏に駆け出した後だった。


男はもう一度舌打ちをして弾倉を装填すると店内を見渡す。


店の窓や電球が軒並み割れているため凄惨な光景ではあるが直接被弾した人間はいなく、ガラスの破片で怪我をした人間が数人程度だ。


「そうかあの一緒にいた男が3カ月前の……」







その僅か数分後、銃声を聞きつけて駆けつけたパイリアの衛兵は裏口のドアを大げさに吹き飛ばして店内に入るとただただ困惑している客や店員を目の当たりにすることとなる。


「誰も出て行ってない!?」


「はい……狙われていたらしいカップルが裏口から出てからは一度も店のドアが開いた音はしてません……怯えていて物音には敏感になっていたので間違いありません……」


店内に残っていた人達の証言はこぞってこんな感じだ。「誰もドアを開けていない。」と。


カフェには入り口と店員用の裏口の2つしか出入り口はなくそのどちらにもドアが付いている。窓が割れているがどちらも人間が通れるような大きさでは無いし、通ろうとするとそれこそ大きな音がなり、怪我をするだろう。


「それに……」


事情を説明してくれていた客の一人がおどおどと口を開く。


「ん?」


「奴は……犯人は店内に入る時も誰にも見られていないんです……あんなに全身真っ黒な人が入ってきたら誰かしらが気がつくと思います。なのに誰も奴が入ってきた事に気がついていません。気がついた時にはそこに立っていて銃を撃ってました。」


そう言って指差した先には狙われていたカップルの座っていたテーブルと砕けたコップ類が散らばっていた。血痕が無い事にとりあえず安堵の息を漏らす。


「誰かここに座っていたカップルを知らないか?」


標的に手掛かりがあるかもしれない。


「女の子の方はよく見かけるんですが男の子の方は多分初めていらっしゃる方ですね。」


若い店員が答える。


今わかっている事を要約するとこうだ。


「犯人は誰にも見られる事なく店内に侵入して発砲した挙句、誰にも見られる事なく店内から消えた……ってことか。」


推理小説のようになってきた、これは自分一人の手に負える事件では無い。衛兵は城にいる上司にすみやかに連絡するべく電話を取り出した。






連絡を済ませ、犯人がまだ店内に潜伏している可能性を考慮して全員の手荷物を検査したが拳銃はおろか、黒い衣類1つすら出てくる事は無かった。


謎の襲撃者は正真正銘誰にも見られる事無く店から消えて見せたのだ。

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