犯人の手掛かり(1章)
「ラザァか?入ってくれ。」
「失礼します。」
久しぶりに入ったダルクの部屋は相変わらず本の山でどこで仕事をしているのか謎なレイアウトになっていた。どこに何の本があるか覚えているのだろうか?
「これで全員か。」
聞き慣れた声の方を見るとなんだかんだでこの世界に来た初日からの付き合いの衛兵ガレン レスフォードがいた。隣にはバッファローの見た目の獣人アズノフ ネイクもいる。
「2人も来てたんだね。」
やはりこのメンバーが集められたということは……
「私が呼んだ、さっそくだが本題に入るぞ。」
ダルクが奥からお盆に載せた空の弾倉を持ってきて全員から見える位置に置く。
「知っての通り一昨日パイリア城執務官のサージェ ウェイが何者かに襲撃された。そしてこれはウェルキン ホービス護衛官が現場から回収した犯人の使用したと見られる弾倉だ。」
ラザァも詳しくはないがパイリアで手に入る廉価品では無い、明らかに見ないデザインだ。
「調べて……どうだったんだ?手掛かりはあったのか?」
アズノフがダルクの方を見る。
「ああ、すぐにわかったよ、間違えることも無いくらい明らかにな。」
ダルクはそこで言葉を切り、3人を見てゆっくりと言葉を紡いだ。
「この弾倉はシヴァニア製、シヴァニアでしか製造されていない型だ。」
3ヶ月前に止まった何かが再び動き出した。
「ということは今回の犯行はシヴァニアによるパイリアへの攻撃という事か?」
しばらくの沈黙の後、はじめに口を開いたのはガレンだった。
「武器だけ外国から輸入した他国の犯行、またはパイリア内部での私怨という可能性もあるにはあるが……まあ、その線が1番濃厚だろうな。3ヶ月前の事もあることだし。」
ダルクがやんわりと肯定する。
「3ヶ月前の事件に関係があるとしたら……やはり前回の首謀者のイワン バザロフが今回も黒幕なのかな……」
ラザァにとっては敵の国の名前よりもイワン バザロフという個人が関わっているのかどうかの方が重要だった。かつて戦い、言葉を交わしたあの男の事が。
「3ヶ月前に奴の死体が見つかっていない以上その線も視野に入れなければなるまい。前科持ちの上にシヴァニア内での人望の大きさを考えれば奴ほどの適任もいないだろうしな。」
そう言うとダルクは机の上の本の山をどけるとそこに地図を広げる。
「知っての通りパイリアは今人手不足だ、休日はないものと思え。奴らの目的が不明な以上要人警護と施設警備に力を入れるくらいしか対策は取れないがな。」
地図には軍やパイリア城の重要施設、要人の会談に使われる事の多い宿の位置が記されていた。
'''バザロフに再び出会ったら僕は何を言うべきなのかな?'''
あの男に、信念のために戦い、自分の腕を切り落としてでも命を落としてでも戦おうとしたあの男にあった時に何と声をかけるのか。
本当に再びパイリアに攻撃を仕掛けようとしているのならば止めるのは前提だ。もしその後、ラザァとバザロフが生きて顔をあわせることがあればその時は何と声をかけるのが正しいのだろうか。
ダルクには悪いがラザァは1人思考の海に沈んで行った。
'''居場所
3ヶ月前の事件であいつが言っていた言葉、3ヶ月前に僕が失った物、いや、あの親戚の家に引き取られた時に失ったと言うべきか?
今回も彼は、もっとも本当に黒幕がバザロフならばの話だが、居場所を取り戻すために戦っているのだろうか?
この3ヶ月、僕だって何も考えずに生活していた訳じゃない。僕が異民なのに割と偉い立場になっていてそれを快く思わない人がたくさんいることだって知っている。
パイリアは居場所と言えるのかな?パイリアを自分の居場所だと言う権利が僕にはあるのかな?2ヶ月前に出会った若き女農家メルデアさんは自分の村が好きだと言っていたが僕はパイリアを好きと言えるのかな?
この騒動が終わったらじっくり考えよう。パイリア市民に認めてもらうのもついでにしっかりと考えないと。'''
「シヴァニアの残党だかなんだか知らんけどこのタイミングは勘弁してほしいよなー」
「馬鹿かよ、このタイミングだから攻めてきたんだろ?そんなのもわかんねえのかよ。」
「んなことわかってるよこの牛野郎!」
ダルクの部屋を出て城の廊下を歩いているとガレンとアズノフが通常営業を始めた。
'''とにかく今はパイリア内の安全確保に専念しよう。'''
「おいラザァ」
無言で色々考えていると喧嘩を止めたガレンがこちらを見ていた。
「このあと何か用事あるか?」
「うん、実は人と会う約束をね。」
そう答えるとガレンは途端にニヤニヤする。
「なんだミラとデートかよ。なら仕方ないな。」
「あはは……」
てきとうに相づちを打ってヒューヒューと冷やかしてくるガレン達を先に行かせると安堵のため息をつく。
「ごめんねガレン、今回はミラじゃないんだ。」
今から会う約束をしている相手はエリー、それもミラ抜きという何やら不穏な条件付きでも会合だ。
ラザァはどこか後ろめたい気持ちを胸にパイリア城を出る道を急いだ。




