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Schneiden Welt  作者: たる
第三幕
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意外な着信

「「……」」


墓石とその周りのゴミを拾い、雑草を抜き、綺麗に水で洗って花とお供え物をすると2人で並んで手を合わせた。


結局ラザァはヨランダと一度も会うことがなかったのだが。


「こうしてるとヨランダがもうこの世にいないんだってことを実感するの。」


隣でミラがゆっくりと口を開いた。


「私の居場所が1つなくなったんだって実感するの。」


「……」


僕は何も言えなかった。


「あんたには感謝してるわよ。それと…」


「私……近いうちにエリーに自分のことを話してみようかと思う……受け入れてくれるかわからないけど……それでも隠し事はもう嫌……」


ミラは消え入りそうな声で呟く。


「そっか……勇気出したんだね……」


「……うん」


僕にしてあげられることはこれくらいしかない。これは当人達の、ミラ達の問題だ。


もしミラが自分の正体をエリーに明かしたとしてエリーがどんな反応をするかは本人にしかわからない。受け入れて今まで通り接するかもしれないしあるいは……


「帰ろっか。」


「うん。」


バケツの中に一式を詰め込み霊園を後にした。







「そういえば例の事件ってどうなってるの?」


「うーん、まだよくわからないけど明日ダルクに話を聞きに行くことになってるからその時に詳しく聞いておくよ。」


実を言うと明日の午後に城に来るようにダルクに言われているのだ。


そしてこれはラザァの嫌な予感がより現実味を帯びてきたことを示すものだ。ただの襲撃事件ならば被害者の知り合いでもなく、事件捜査に関係の無い異民保護対策局のラザァを呼び出して説明などするはずがない。ではなんでラザァに声がかかったか、考えられる理由は1つだ。


'''3ヶ月前の事件と関係があるからだ……'''


それならばラザァが呼び出されるのも納得だ。3ヶ月前の事件ならばラザァがパイリア城の人間ではもっとも深く関わっており、何より首謀者のバザロフと会話までしている。


'''やはり彼は生きていたのか……そして再び……'''


3ヶ月前にバザロフの部下は全員死亡したはずだ、それならば今回の事件はバザロフ本人単独の犯行かあるいは再び部下を集めたか……


考えても結論は出なさそうだ。大人しく明日を待つしかないだろう。今のパイリアはこれ以上無いくらいに警戒レベルが引き上げられていて街中は兵士だらけだ。おかげでただでさえユデン行軍で人員の足りていない軍は大忙しだとガレンがボヤいていた。そんなパイリアで今晩のうちに新たな襲撃があるとも考えにくい。


「そっか、なら寮に戻って来たら話を聞かせてね。」


「また僕の部屋に居座ってるつもりなんだ……」


独身寮に引っ越した当初から割とミラは遊びに来ていたがここ最近は自分の部屋にいるよりもこっちに来ている時間の方が多いのでは無いか?


「あはは、居心地がいいからつい、ね。」


ミラも悪びれているかは微妙だが苦笑する。


「まあそう言われて悪い気はしないけどさ。」


「実はね、エリーに自分の正体を明かそうと思ったのはラザァのおかげなんだよ?」


ミラが階段の踊り場に差し掛かったところで立ち止まって僕を見上げてきた。真剣な雰囲気を悟ってこちらも足を止める。


「私って意気地なしだしずるいからさ、ラザァがいると思ったからエリーに話そうって思ったの。」


「僕がいるからって……それはどういう?」


「あなた優しいもの、私を受け入れてくれる。私の人間の部分も、そうじゃない部分も……」


一度そこで言葉を切る。


「もし、もしもエリーが私の正体を知って拒絶しても少なくとも1人は、ラザァは受け入れてくれてるって思ったら急に勇気が湧いてきて。」


「ずるいよね、代わりがいるから1人失ってもいいかななんて思ってるんだよ。」


ミラはそう言って笑った、とても悲しそうに。


「そんなことないよ、ミラがエリーの事を、そしてエリーがミラの事を大切に思っているのは僕も知ってる。真剣に向き合えば拒絶されるなんて無いよ。」


そんなこと言っても人の心なんて保証できない、自分も出会い方が違えば今こうしてミラと2人並んで歩いている光景などなかっただろう。


「そうかな……?前も言ったけど世の中ラザァみたいな人の方が少ないんだけどな……」


そう言ってミラは再び前を向いて歩き出す。


「そうかも知れない……でも、エリーの事を信じられない?」


「それは!!……」


「それならエリーを、ずっと前からの親友を信じるしか無いよ。」


「それもそうね……」


また無言の時間が訪れる。


結局寮に着いて道路の上で別れるまで2人は言葉をかわすことはなかった。


そしてその2人を話題のエリーが目撃していたことも2人は知らなかった。







「ん?電話?」


「誰だろう、ダルクからは明日の時間はもう聞いてるし……ってエリー?珍しいな。」


シャワーを浴びて服を着た直後、滅多に鳴らないラザァの電話が鳴り、番号はエリーのものだった。


夜はだいぶふけておりもう寝ようかという時間だ。学生のエリーとしては起きていること自体かなり珍しい時間帯だろう。


「どうしたのエリー?こんな遅くに?」


あくび交じりに電話に出る。どうせミラとの事をからかわれるかミラに電話が通じないからなんとかしろとかそんな内容だろう。


だが予想に反し、電話から聞こえてきた声はそんな気楽なものではなく、彼女としてはトーンの低い真面目な声だった。


「遅いのはごめん、そこにミラいる?」


「いや、いないけど……また電話通じないの?」


ミラは電話を携帯しないしほとんど見ないため持ってる意味があまりない。


「いや、いないならいいの。」


「どういうこと?ミラに聞かれるとまずい話?」


エリーがミラ抜きでラザァと話すのはかなり珍しい。


「ええ、ラザァ。明日2人だけで会える?ミラには絶対に内緒でよ。」

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