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Schneiden Welt  作者: たる
第三幕
82/109

小さなお願い事

「わかった、また何かあったら連絡して。」


「ウェルキンがなんだって?」


ラザァが電話を切るとベッドの上からミラが心配そうにこちらを見ていた。


「サージェ ウェイ執務官が何者かに襲撃された。執務官とウェルキンは無事だけど護衛官が2人殺されて1人が怪我をしたらしい。」


「えっ!?それで犯人は!?」


「犯人は逃走したから不明、現場に残っていた弾倉から何者か調べてみるって。」


ウェルキンから聞いた内容をそのまま告げる。ウェルキンはこれからウェイ執務官を連れて城に戻って怪我した護衛官の手当てと弾倉の調査をするので異民保護対策局に戻れないとの事だった。


「城の執務官を狙うってことはやっぱパイリアを狙う外部の犯行かな?」


「私怨の可能性もあるからなんとも言えないけどやっぱそうなのかな〜」


パイリアを狙うと聞くとやはりラザァの脳内には3ヶ月前のあの事件の事が思い浮かぶ、そしてあの男の事も…


イワン バザロフはあの後も結局見つからなかった。川に落ちてそのまま水生魔獣に食べられたか、あるいは生き延びてどこかに潜んでいるのか。いずれにしろ死体も目撃情報も無い以上生きているのか死んでいるのかもわからない状態だ。


バザロフは自分の国のためにパイリアを攻撃しようとした。自分の居場所を取り戻すために勝てないとわかっている戦いをしかけた。


今回のパイリアの執務官襲撃も関係があるのだろうか?パズームという国がパイリアという都市が過去にしていた戦争の報復なのか?そういえば今パイリアに軍が少ないのも過去のしがらみ関係でユデンに行軍しているせいだ。


ただの襲撃事件では終わるとは思えなかった。何か大きな陰謀が背後で動いているような…


そんなラザァの脳内の泥沼を終わらす声がした。


「ねえラザァ。」


気がつくとミラがベッドから降りてラザァの目の前にちょこんと座っていた。


「ん、何?」


「明日って時間ある?少し手伝って欲しい事があるんだけど。」


「午後からなら時間あるけどどうしたの?」


突然異民がこの世界に飛ばされてこなければ暇なはずだ。午後からとか言ったが正直終日暇と言ってもいい。


「いいから!あんたにしか頼めない事なのよ!」


「明日仕事が終わったら私の部屋に来てね。」


一方的に話を打ち切るとミラは部屋を出て行ってしまった。


「いつにもましてよくわからない奴だなぁ…」


ミラがその場の思いつきで行動したり感情的になるのはいつもの事なのだが。


ミラが明日何にラザァを付き合わせるのかも非常に気になるところではあるが、差し迫って危険な匂いのするのはウェルキンの電話の内容、パイリアの執務官襲撃未遂事件だ。


犯人の残した弾倉の分析がすまない事にはなんとも言えないがただの私怨による犯行とは思えない。それならば護衛官がいないプライベートを狙う方が確実だ。護衛官にも恨みがあったのか、あるいは…


'''人目につく場所で殺す必要があった。見せつけるかのように…'''


なんのために見せつけるのか、例えばパイリアへの復讐のために死体を晒すなど…


どうしても3ヶ月前のことと結びつけてしまう。


'''もしかして本当にあの男、バザロフが生きていて再度パイリアに攻撃を仕掛けようとしているのか?'''


だとしたならばラザァも気が気では無い。どんな形であれ一度面と向かって話した相手が再び過ちを犯そうとしているのだ。黙っている事なんて出来ない。


再び思考の海に溺れ始めたラザァの耳にさっきも聞いた音が飛び込んできた。電話の着信音だ。


「誰だろ?ってミラ!?」


珍しい相手だ。ミラは電話とかの類があまり好きではなく、番号もラザァとヘレナとエリーの3人しか知らないと言っていた。そのミラが、しかもさっきまで部屋にいたのに…


「もしもし?どうしたの?」


恐る恐る電話に出る。気まぐれにしても何かありそうで嫌な予感がする。


「明日の事なんだけど、その…ヨランダのお墓詣りについてきてくれない?水汲んだりとか人出欲しいし…こんなこと頼めるのあんたしかいないし…」


電話からモゴモゴ聞こえてきたのはそんな内容だった。確かにこれはラザァが適役だろう。ヨランダという存在はすなわちミラが人外だと示す存在だ。エリーには頼めない。それに力仕事ならヘレナを誘うのは酷だ。ガレンとは一応上手くやっているようだが今でも多少ぎこちないため、気兼ねなく誘えるラザァになったという訳だろう。


「なるほどね、確かに僕が適役みたいだね。それならさっき言ってくれれば良かったのに。」


ミラの気まぐれはいつもの事なので部屋を出てから突如気が変わったのかもしれない。


「別に目の前で電話してるの見てたまには電話してみたくなっただけだから…それじゃ明日はよろしくね。おやすみ。」


「うん、おやすみ。」


そう言って電話を切った。


こういう可愛い気まぐればかりなら良いのだが…


さっさと寝ることにした。

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