現代乙女の悩み
「珍しいですね。エリーさんがこうやって誘ってくるの。」
「え?そう?」
「はい、前はよくありましたけど…あの事件からはミラさんが一緒の事が多かったのでこうして2人でというのは久しぶりです。」
「確かに、ミラがあんなにあっさりとヘレナと仲良くなるなんて驚いたからつい3人で…って事が多かったものね。」
「ああ、なるほど…」
とある夜、場所はパイリアのとある喫茶店。会話の主は明るい肩につかないくらいの金髪に緑の目の少女通称エリーことエリシャ ウィズと茶色く軽くウェーブのかかった髪に茶色い目のヘレナ ユスティアだ。
エリーの方はホットパンツにシャツのラフな服装だが服の端やらに細工をしたり、小さなアクセサリーをあわせておりお洒落のセンスを感じさせる今時の女の子といった装いだ。
ヘレナはパイリア城での侍女が着るような地味な服にジャケットを羽織っただけのシンプルな装い。大人しそうな雰囲気と合わせてなんとも存在感がない。
そんな2人が喫茶店で話しているのはエリーが2人で行こうと呼び出したからだ。ヘレナの仕事終わりを待ってこの時間である。
「そう言えばどうしてミラさんは誘わなかったんですか?」
ヘレナはブラックコーヒーを飲みながら何気なく尋ねる。
この質問は微妙に緊張感を含んでいた。何故ならミラの正体をエリーは知らない。ミラと知り合って日が浅いヘレナとしてはどことなくエリーに後ろめたい気持ちがあるのでどうしてもこの手の話題に敏感になる。
「別に気分よ、気分。それに最近はミラをラザァのことでからかってもつまらないし。」
エリーもコーヒーを一口飲んで気怠げに答える。どうやらミラの正体に関する話題は無いらしくてヘレナは一安心する。
「あはは、でもエリーさんはミラさんをからかい過ぎですよ。別にあの2人はそうゆう関係じゃないですし。」
まあヘレナとしてもあの3人の会話は見ていて楽しいので止めろとは言わないのだが。
「そこよ!ラザァはなに考えてるのかイマイチわからないしヘタレだし…ミラはミラだし…」
「散々な言われようですね…」
「そうよ!あんなに見せつけるくらいならさっさとくっついちゃいなさいよ!」
そう言うとエリーは鼻息荒くコーヒーを一気に飲む。
「ラザァはなに考えてるのかわからないけどミラは絶対にラザァにほの字よ。」
「エリーさん言い方が古いです…」
「だってミラってラザァと接するときだけ別人じゃない!それに…」
「それに?」
さっきまで機関銃よろしくまくし立てていたエリーがここでようやく一息つく。
「あの2人の間に何か強い連帯感みたいな物を感じるのよね…共通点があるというか…何か大きな秘密を共有しているみたいな…」
その言葉にヘレナはどきりとする。それもそのはず、エリーの言葉が見事に正解にたどり着いているからだ。
ラザァとミラ
本来ならば出会うことすらなかったあの2人は2人なりに思うところもあるのだろうが、ラザァがミラの正体を知っており、ラザァがそれを受け入れているという点で大きく繋がっているのは間違いない。そしてその繋がりの強さの原因のミラの正体というのが問題過ぎるほどに問題だ。
ミラの意向でエリーにはミラの正体を教えないことにしている。ミラ曰く言うなら自分の口からだそうだ。
「あはは…なんなんでしょうね。」
雑だとは思うがのらりくらりとかわす。これは本人達の問題なのだ。ヘレナの付け入る隙などありはしない…
「出会ってまだ3カ月やそこらなのに…でも今時の恋愛ってやっぱそれくらいスピーディーなのかな…」
「そういうエリーさんはどうなんですか?エリーさんなら引く手数多でしょう?」
ヘレナは女の子としては恋話などはそれほど得意では無い。その苦手な話題を出してでもここはミラから注意を逸らすべきだと思ったのだ。
「別にー、今は友達と騒いでる方が楽しいというか…ミラを見ていた方が楽しいというか…」
「え…エリーさんってもしかして…」
ワンテンポ遅れてエリーがヘレナの言わんとしていることに気がついたのか顔を赤くして否定する。
「違うわよ!ミラをいじってる方が楽しいってことよ!」
「それはそれで色々と問題な気がしますけど…」
「あーあ、恋しようと思わせてくれるような出会いとかないかなー?それなら考えるんだけどなー」
「そんなこと言ってるうちはまだまだ先になりそうですね…」
なんとか話題を逸らすことには成功したようだ。ミラが自分のことを打ち明けられるようになるまでこの苦労は続くのだろうか。
'''ラザァさん頼みますよ!あの人は1人だと臆病なんですから!'''
ミラの背中を押す係を勝手に脳内で決めていると目の前に輝く2つの目に気がつく。
「そういうヘレナはどうなのよ?」
見ると真正面のエリーが獲物を狩る肉食獣の目でこちらを見ている。
ヘレナは慣れない戦いに臨むべく気合を入れるようにコーヒーを一気に飲み干した。




