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Schneiden Welt  作者: たる
第三幕
80/109

残暑厳しき城下町

レレイクでの一件から早くも2ヶ月、パイリアは依然として残暑が続き寒村の出のラザァとしては過ごしにくい日々が続いていた。それでも日が沈めば幾分かは涼しくなり、一時期の真夏のように寝れない熱帯夜はなくなっていた。冷房なんて無くても窓を全開にして風を通せば十分に寝れる。


「ねえねえ。」


そんな涼しくなりつつある夕飯後、パイリア城に勤める人用の独身寮の自分の部屋214号室の床に転がりぼんやりしていると視界の斜め上、要はベッドの上から声がした。


なんてことはない、この世界に来てからというもの腐れ縁の銀髪青眼の少女ミラだ。苗字は無い。


異民保護対策局での仕事が終わると、といってもラザァの方がミラよりも遅いのだが律儀にミラはラザァを待って2人で独身寮まで歩いて帰ってきている。そのまま男性用と女性用独身寮を分ける道路上で別れる事もあるのだがなんだかんだでミラがラザァの部屋までついて来ることが多いのだ。ちなみにだがラザァがミラの部屋に行ったことは無い。


今日も「今日はヘレナがいないから女性用独身寮にいても暇だ。」とかなんだとか言いながらラザァの部屋までついてきてそのまま2人で夕飯を食べ、2人でダラダラしていた。何故押しかけてきたミラがベッドを独占して家主のラザァが床に転がっているのかは理解に苦しむが面倒臭いので放置している。


「何?」


ワンテンポ置いてから聞き返す。なんとなくだが嫌な予感がする。


「そういえば水生巨大古龍がカルザル島沿岸から深海に戻って行ったらしいわよ。」


「ふーん、やっと魚の値段が安くなるんだね。あっ!明日の晩御飯は焼き魚に…」


「いやそうじゃなくて!」


ミラがベッドの上からガバッと身を起こす。


「忘れたの!?エリーとの約束!?」


「あー…あれね…」


2ヶ月弱前、エリーとミラの買い物の荷物持ちをさせられた際にカルザル島に渡って海水浴をしようと約束をして水着まで買ったのだ。もっともカルザル島がどんなところなのか調べてもいないのだが。


「暑いからなんでも面倒になってあんまり考えてなかったや…ミラは?」


「同じく…」


最近エリーと話していないので本人も忘れているかもしれない。折角水着まで買ったが流れるならそれはそれでいいと思っていた。


「というかラザァも割と乗り気じゃなかった?遊びに行きたいとかなんとか…」


ミラは再びベッドに突っ伏して話す。布団に顔を押し付けているのかモゴモゴしている。


「確かにあの時はミラと遊びに行きたいって言ったけどこうも暑いとどうしても元気が…」


我ながら言い分がおっさん臭い。


そこまで言って当時の事を思い出す。ミラの神秘的に美しい水着姿を。


'''あの紫は似合い過ぎてたなあ…ミラの正体を知ってると尚更…'''


そこで上からのジト目に気がつく。


「ラザァ今いやらしい想像してない?」


ミラのブリザード級に冷たい声だ。


「いやいやまさか。」


努めて冷静に否定する。ミラはジト目を維持しつつも「ふーん。」とか言いながらまたベッドに倒れ込んでいた。


確かにあの姿のミラと一緒にいるとラザァも落ち着かなさそうだしナンパなんかも凄そうだ。やはり毎日一緒にいて気を遣わなくて済んでるのはミラのサバサバした性格とおしゃれに無頓着な点によるところが大きい。


「やっぱりミラは今のままがいいよ。」


「何よいきなり…」


他愛も無い会話をして再び2人の間に無音の空間が出来る。それも意外と居心地が良い。無言でも気まずく無いというのは親密な証だというのはラザァの持論だ。何より平和な事を実感させる。


この2ヶ月ほどは殺人級の気温を除けば平和そのものだった。その間にパイリア付近で保護した異民を異民保護対策局の3階の客人用の部屋に泊めて次の月食やら落雷を待って元の世界に送り返す。送り返す作業は城の魔導官の役目だが。


他の仕事としては異民が出現しやすい地点に定期的にパイリア兵士を見回りに行くように軍のお偉いさんと交渉したりした。


仕事はあれど爆弾テロが起こる事も地下に植物の怪物が生える事もなかったので平和だった。


'''何か変わった事と言えば…'''


「そういえば今日はウェルキンが城の護衛官の助っ人でいなかったなあ…」


パイリア軍は現在東にある国ユデン付近で威嚇のための軍事演習をしている。ユデンも北のシヴァニア、プロアニアと同じくパズームとは実質敵対関係にある。軍事力ではユデンよりパズームが勝るので力の差を見せつけて相手のやる気を削ぎ、戦争を未然に防ぐというオードルトの案だ。


そのためパイリア内の兵士の数がかなり少なく、ウェルキンが助っ人で城に行っていたのだ。なんでも昔の上司の護衛任務だとか。


「おかげで街中に兵士が少なくてせいせいするわね。」


そんな時だ、ベッドの枕元に置いていたラザァの電話が鳴る。


ラザァの電話番号を知っているのは仕事関係を除けばミラ、エリーくらいか、最もミラも仕事関係に含まれると言えばそうだ。


「誰だろうこんな時間に…」


嫌な予感がする。この時間に異民を保護したならば迎えに行って手続きをしなければならない。


ベッドの上のミラが電話を取り上げてラザァに投げてよこす。


「今話題のウェルキンよ。」


「ウェルキンが?日付が変わるまでは仕事で連絡が取れないって言ってたんだけどな…」


奇妙に思いながら通話ボタンを押した。

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