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Schneiden Welt  作者: たる
第一幕
8/109

忍び寄る影

喫茶店を出た3人は市場を通り過ぎ、城から離れた物静かな地区へ来ていた。


「市場とか城近くだと宿屋も高級なところが多いからね、それと治安を考えるとこのあたりになるかなー」


エリーがいるとやはり心強い。


「色々考えたけどもう少しあるいたとこにあるディアスさんの宿屋が1番良さそうね、道が少し複雑だからそこまで案内するわ。」


そこまで言ったところでエリーのポケットからレトロな音楽が流れ出した、彼女はポケットから一昔前の見た目の携帯電話を取り出すと耳にあてがう。


「パパ?うん、うん、わかった、すぐ行くわ。」


電話を切るとエリーは肩をすくめて首を横に振った。


「ごめんね、家の用事入ってすぐ行かないといけなくなっちゃった、悪いけどミラがラザァをディアスさんのところまで連れて行ってくれない?」


手を合わせ頭を下げてミラへ頼み込んでいる。


「別にそれくらいならいいわよ。早くお父さんのところに行ってあげたら?」


意外なことにもミラはあっさりと了解した。てっきりもっと嫌がると思っていた。


「ありがとう!今度何か奢るわ!ラザァもそういうことだからまたどこかで会いましょう!」


そういうとエリーはラザァに別れを惜しませる間もなく城の方向へと走り去っていった。


あんなに親切な人間にもう会える気がしないが不思議とエリーとはまたどこかで再会できる気がした。ラザァが帰るまでの何日なのかわからないがその間はパイリアに滞在するのは決まっているし案外すぐに会えるかもしれない。


「さあ、暗くなる前にさっさと行くわよ。」


ミラは言い終わらないうちにスタスタと歩き出していた。


そんなミラの後ろ姿を眺めていて立ち止まっているラザァに気付いてミラも立ち止まって振り返った。


「何?」


「いや、もっと嫌がるかなと思ってたからさ、案内してくれるのがなんか意外で。」


「別にそんなの大した手間じゃないし、それにエリーの頼みだもの。」


「仲良さそうだもんね、昔からの友達なの?」


友達と聞いてミラが寂しそうな嬉しそうな複雑な表情をした気がする。


「別に昔馴染みとかそんなのでは無いわ、ただ私には他に友人と呼べるような人がいないもの。それにエリーは私と違って家族も学校の友人もいる、エリーにはそっちを大切にして欲しい。そのためならあんたの道案内くらいいくらでもするわ。」


表情も変えずにミラは重い話をなんでも無いことのように語り出した。私と違って?それが文字通りならミラは孤児でかつ学校に通っていないとかそういうことなのだろうか。


「いいからさっさと行くわよ、暗くなるとさすがに安全は保障できないわ。」


ミラも自分で話し過ぎたと感じたのか話を自ら打ち切って再び歩き出した。下手に聞いて変な空気になるのも嫌なのでラザァも深くは追求せずについて行った。


「ねえ」


「何?」


「エリーってもしかしてお嬢様とかだったりする?」


無言も何か嫌なのでラザァはずっと思っていた事を聞いてみた。


「ええ、なんでわかったの?」


ミラは驚いた顔をして尋ねてきた。


「ただの勘、たたずまいとか色々見てなんとなく思っただけだよ。」


「へえ、凄いのね。そうよエリーは軍の偉い人の一人娘なの。軍でもお城専属の特別な部署の人らしいわね。明日から何か大きな仕事あるとかでエリーの家の周りに軍とか警察の車がたくさん停まってたわ。」


パイリアに入る前に聞いた父親が城で働いているとはそういうことだったのか、まさかただのお掃除さんとかでは無いと思っていたが城にお付きの軍人で偉いとなればそれなりの地位の家柄か何かなのだろう。衛兵に詳しかったのも逆に当然とも言える。


「だからお金持ちっぽい雰囲気出てたんだ、納得したよ。」


「お金持ちならあんな怪しい古道具屋に行くかしら?」


ミラは面白かったのかクスッと本日初めてラザァへ笑顔を見せた。今まではどこか警戒してるように目つきがきつかったがその笑顔はとても無邪気な年相応な女の子のものだった。


「確かにそうだね。」


ラザァもあの怪しい老人と親しげだったエリーを思い出しながらつられて笑った。


「詳しくは私も知らないけどそれなりの裕福な暮らしなのは間違いないわ、そのせいで本人は苦労している事もあるんだけどね。」


そう言うとミラはまた普段の暗い顔に戻った。


「苦労?」


「だって考えてみてよ、裕福な家庭のお城の警備のお偉いさんの一人娘よ、どう考えても誘拐を狙われるじゃない。さっきの電話も用事とか言って親がはやく家に帰らせるための口実だと思う。」


「そういうことか、、、ミラが森で自分の立場がどうとか言ってたのはそういうことだったんだ。」


「ちょっと!何しっかりと覚えているのよ!でも確かに正しいわ。事実昔からの脅迫文とか犯行声明とか送りつけられたりしていたらしいし。そのたびに父親が部下を使って阻止してきたから全部未遂に終わってるのだけれど、、、」


「けれど?」


「最近エリーと歩いているとつけられてる気がするのよね、気のせいだといいのだけれど。」


そう言ってミラは思案顔になる。


「本当にエリーの事を大切に思ってるんだね。」


ラザァが何気なく言うとミラは顔を赤くして俯いてボソボソ小さく呟く。


「別に、当然のことだし、それに、、、」

そこまで言って急にミラはハッとしたように顔を上げると前のように目つきを鋭くした。そのまま歩きながらラザァの横に近いてくると顔の向きも変えないまま小声で話しかける。


「つけられているわ。」


「へっ?」


「エリーじゃなくて私達がよ!隠れているけど確かにつけられている。多分3人組。」


ラザァも気づかれないようにそっと後ろを見るが特に怪しい人影は無い、ミラの聴覚って人間離れし過ぎじゃないか?


「いい?次の曲がり角を曲がったらすぐに私についてダッシュよ、ついてきてね。」


何が何だか状況の理解が追いつかないうちに曲がり角へ差し掛かった、曲がり切って後ろからラザァ達が見えなくなった瞬間ミラは走り出していた。


そのミラの足が驚くほど速くラザァは大分差をつけられたがなんとかついていき、ミラが曲がった路地裏に飛び込んだ。


ラザァが路地裏のゴミ箱の陰に隠れると同時に先ほどの曲がり角の方から大人の男の怒鳴り声が聞こえてきた、それも複数人だ。


「くそっ!気付いて逃げやがった!」


「異民の足ならそこまで遠くに行ってないだろう、探すぞ!」


ゴミ箱の陰から様子を伺っていると黒いローブに身を包んだ3人の男が怒鳴りあっている。しかもそのうちの1人は以前森で見たように獣の顔を持っていて体格も明らかに人間ではない。ローブの下の膨らみが嫌でも武器を想像させた。


後ろにいるミラが無言でラザァの服の裾を引っ張ったのでそのまま音を立てないように注意しながら見つからないように路地を抜け、さっきよりは人の多い通りに出た。


「ここなら人目もあるし襲ってこないでしょう、少し遠回りだけどこちらからでも宿は行けるし。」


「なんだったのさ、あいつら!」


突然追いかけられたラザァだが身に覚えが全く無い。


「言ったでしょ、異民ってだけで襲われる可能性があるって、それに古道具屋からつけててお金狙いだったかもね。いずれにしてもただのチンピラよ。」


あれだけ走ったのにミラは息一つ切れていない、こちらの世界の人はみんなこんなに強靭な体の持ち主なのだろうか?見た目は華奢な女の子のミラに体力で大幅に負けてラザァはすっかりしょげていた。


いつまでも落ち込んでいると既に歩き出しているミラに置いていかれそうなのでなんとかついていく。


「あいつらの中に熊の顔の男がいたけどあれって古道具屋の爺さんみたいな被り物、、、ではないよね?」


恐る恐る気になっていたことを聞いてみる。


「あれは獣人種ね、むしろ被り物なんか被ってるやつなんてあの爺さん以外いないわよ。」


「やっぱりこの世界だと普通にそういう人種もいるんだね。」


「パイリア人口の15%くらいは獣人と言われているわね。これでも普通の人間以外の種族だと1番多いのよ、悪魔とか魚人とか全部合わせても3%に満たないらしいし。」


悪魔と呼ばれる人種が普通に暮らしているというあまり知りたくない情報まで知ってしまった。魚人も中々気になるところだ。普通に歩けるのだろうか、というか地上で呼吸できるのか。


「あいつら体力なら人間の数倍はあるからせいぜい喧嘩にならないように気をつけることね。」


「喧嘩というか一方的に狙われてるんだけど、、、とりあえず出会わないようにしたいものだよ。」


人口の15%に出会わないようにするってほとんど出歩けない気もするが命には変えられない。


そうこうしている間に一つのレンガ造りの建物の前についた。看板には「ホテル ディアス」と書いてある。


「着いたわ、入ってすぐのところにカウンターがあるからそこで根気よく呼び続ければディアスさんが出てくると思うから。」


「随分変わった宿屋だね、、、」


「いい人だから悪いようにはならないと思う、もし変な対応されたらエリシャ ウィズの知り合いだって言えば問題なしよ。それじゃあね。」


そう言ってミラは手をひらひらさせながら立ち去ろうとしていた。


「ええっと、ミラ!」


何も言わないで別れるのはラザァ的に後味が悪いのでとりあえず名前を呼んで呼び止めた。


ミラはびっくりしたように体を振るせると顔を赤くして振り向いてきた。


「いきなり名前で呼ばないでよ!驚くでしょ!」


そういえば名前で呼ぶのは何気に初めてだったかな、いきなり女の子を下の名前で呼ぶのは少し抵抗があったがエリーが姓を教えてくれなかったためこう呼ぶしかない。


「ああごめん、それと、ええっと、ありがとうね。2人がいなかったら僕は多分今頃死んでいたと思う。本当にありがとう。それと初めて会った時秘密基地の屋根を壊してしまってごめんなさい!ずっと謝りたかったんだけど機会がなくて、、、」


感謝と謝罪を同時に受けてるミラは目に見えて慌ててて普段のクールな印象から程遠くなんだか可愛かった。


「別に、エリーがしたことだし私は何も、、、それと秘密基地?、、、あれのことか、別にあれくらいいいわよ。それじゃあ気をつけてね。」


そう言ってミラは小走りでかけて行ってあっという間に見えなくなった。


ここからは本当にラザァ1人でなんとかしなければならないのだ。そしてとりあえず女の子よりは足速くならないとダメかなとか考えていた。

8話目です、とりあえずこれで第1章は終わりの予定です。

第2章からラザァが事件に巻き込まれて、、、って感じになります。

それでは今回もよろしくお願いします!

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