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Schneiden Welt  作者: たる
第三幕
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暗闇の銃声(序章)

若き護衛官ウェルキン ホービスは今日は普段の職場である異民保護対策局を離れ、今朝から昔の上司の職場にお邪魔していた。


今の異民保護対策局での仕事はそれなりに楽しい。そこまで仕事があるわけではないが同僚とも上手くやっているし、何より局長のラザァ フラナガンやお手伝いさんのヘレナ ユスティアのような同世代とは公私ともに仲良くしてもらっている。恵まれている職場だろう。


そんなウェルキンが昔の上司に呼び出された理由は1つだ。現在東にあるユデンという国に威嚇として行軍しており軍の大半が出払っているパイリアでは護衛の兵が不足しているため、昔の上司であるサージェ ウェイの護衛の助っ人としてという訳だ。ラザァも「ここにいてもやることがそんなに無いから行っておいで。」と笑顔で送り出してくれた。


サージェ ウェイはいわゆる文人で軍とは関係無い。城の高官であるビクトル グレゴールがユデンへの行軍に加わっているため必然的にサージェがパイリアでの仕事を多くこなしている。


今日は一日中パイリア城から少し離れた場所にある水産管理局で打ち合わせがあり、サージェやウェルキンが城に帰ろうと水産管理局を出た時には既に日が落ちていた。打ち合わせの内容は巨大水生古龍が再び沿岸から深海に戻って行ったため今後激増する水産物の輸入ルートについてだ。


今は城への近道のパトラ区、つまり高い建物が密集している地区へと来ている。


ウェルキンを含む6人の護衛官はサージェとその秘書の女性を取り囲むように警戒を怠らなかった。3ヶ月前の事件以来パイリア内での要人警護にもより力が入れられるようになったからだ。


'''私が今の異民保護対策局に勤めるようになったきっかけも3ヶ月前のあの事件だったな。'''


3ヶ月前の事件は一般市民の目に触れることなく起こり、鎮圧されたので一部の人間にしか知られていないが人々の心に大きな傷を残した。パズームという国家が、そしてその中でも大都市であるパイリアの戦争が残した負の遺産は依然としてくすぶり続けていると思い知らされたのだ。東のユデン、北のシヴァニア、プロアニアなんかはその代表格だ。


ウェルキンがぼんやり思い出に浸っていたその時のことだ。パァンという乾いた音と同時に目の前の護衛官が地面に崩れ落ちた。地面に赤黒いシミが広がる。


'''銃声!'''


秘書の女性が悲鳴を上げる。銃声は立て続けに響いた。


「上だ!」


護衛官の1人が隣の建物の屋上に人影を見つけたらしく発砲する。


「ウェイ様をお守りしろ!」


発砲を続けながら護衛官が叫ぶ。見るともう1人護衛官が撃たれて地面に転がっていた。2人の護衛官がサージェと秘書をかばうように物陰に誘導する。


ウェルキンは未だ銃撃戦の続いている護衛官にその場を任せると、敵がいる建物に突入した。


一般的な集合住宅らしく、時間が時間だけに廊下や階段に人影は無い。ウェルキンは全速力で上の階を目指した。屋上に到着するまで銃撃戦が長引いていれば背後をつける。


'''頼む!持ちこたえてくれ!'''


階段を何段も飛ばしながら駆け上がる。銃撃戦は基本的に高い位置に陣取った方が有利だ。なんとか…


「動くな!」


屋上へのドアを蹴破り銃を構える。


そこにはマントに身を包んだ人影があった。ウェルキンと同じくらいか、そこまで大柄というわけではない。


「動けば…」


ウェルキンが言い終わる前に敵は無言で発砲してきた。


横に躱してこちらからも発砲する。もちろん急所は外すようにだ。


敵もそれを躱すと分が悪いと見たのか、隣の建物の屋上に乗り移ったかと思うとそのまま夜の闇に消えていった。


敵がさっきまでいたところに駆け寄り下を覗き込む。見ると銃撃戦をしていた仲間の護衛官が腕を押さえて倒れているが命に別条は無さそうだ。


ウェルキンは下に逃げられた旨を伝えると、あたりに手掛かりが無いか見渡す。正直なところ襲撃の目的が見えない。サージェは暗殺を狙われるほど重要なポストに就いているとは言い難いからだ。


見渡すとそれは案外すぐに見つかった。


さっきまで敵が立っていた位置に空の弾倉が落ちていたのだ。市販の大量生産されているものかもしれないが、それでも犯人特定の手掛かりになりそうだ。


ウェルキンはそれを持ち上げ、あまり見かけないデザインに心の中でガッツポーズをする。


'''これだけ珍しそうな物なら何かしら特定できるかもしれない。'''


犯人特定がすぐに出来そうな予感とともにカバンにそれをしまい、下に降りる階段へと向かった。

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