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Schneiden Welt  作者: たる
第2.5幕
78/109

とある夏の日の買い物(後編)

「ねえ。」


「何?」


ちょうどエリーが会計に行っていて店の前のベンチでミラと2人きりなので聞きたかった事を聞いてみることにした。


「エリーにその…希少種の事ってやっぱり話してないんだよね?」


「…うん。」


ミラの顔が一気に曇る。バザロフの事件が終わった時からの気になっていたことだ。最近はレレイクの事があったため後回しになっていたのだがこうしてパイリアで日常を過ごしていると嫌でも気にかかる。


現状ラザァが知る限りミラの秘密を知っているのはラザァ、ヘレナ、オードルト、ガレン、ダルク、エリダだ。城の上層部がどの程度掴んでいるのかは未知数である。


つまりミラと1番付き合いの長い親友のエリーはミラが古龍と人間のハーフで希少種という事実を知らないのだ。


「ヘレナにはあんなに簡単に打ち明けたのに?」


単純な疑問をぶつけるとミラはガバッとこちらを向き、鼻がぶつかりそうなくらいまで顔を近づける。


「言えるわけないでしょ!付き合いが長いからこそよ!」


どんどん顔を近づけるミラに圧倒される。


「今まで普通に接してた人が実は人外の怪物だったなんて知らされたら今まで通りに接するなんて無理よ…言えるわけないわ…」


「そうかなあ…前にも言ったけど僕はそうは思わないけど…」


一気にテンションが低くなって落ち込んだミラに声をかけて、ラザァは以前、それもミラと出会って1日やそこらで恥ずかしい例え話をした事を思い出して顔を赤くした。


ミラはラザァと違い恥ずかしい思い出しはなかったらしく普通に口を開く。


「みんながみんなラザァみたいにアホじゃないのよ…というかラザァみたいなお人好しなんてそうそういないわよ。」


「アホなのかお人好しなのかはっきりして欲しいですミラさん…」


その時、顔を超至近距離に近づけていたミラとラザァの横でドサリという何かが地面に落ちる音がした。2人同時に見るとそこには買い物袋を落としたエリーがいた。


「ごめん!私邪魔だったよね!?まさか2人が人前でキスするほど進んでいたなんて気がつかなくて…」


「「エリーちょっと待って!!」」





「な〜んだ、よく考えたらこの奥手そうな2人でそんなことありえないんだよね。」


ミラとラザァの2人がかりの説明で一応納得したらしいエリー、さりげなく人を奥手だのヘタレだの言うのも忘れない。


「別にキスしてたわけじゃないのはわかったけど、そんなに顔近づけてなんの話してたの?」


「それは…」


「ラザァがエリーの買い物が遅いって言ってたのをなだめてたの。」


「あっ!ミラずるい!」


言葉に詰まったラザァを尻目にミラがいけしゃあしゃあと嘘をつく。エリーも悪ノリしてラザァをポカポカ殴ってきた。まあこれで話題が綺麗にそれたので良かったのかもしれない。





その後は3人で街中をふらふらした後、エリー一押しの喫茶店で一息つく事になった。


エリーが推すだけあり喫茶店は綺麗でお洒落だが価格も手ごろでこういう店にあまり縁のないラザァも再び来ようと思うほどだった。


「ラザァ今日は荷物持ちありがとうね!コーヒーは私のおごりよ!」


注文はなんでも良いと言ったミラとラザァの前にはコーヒーが、なにやら呪文のような言葉を店員に話したエリーの前にはクリームのようなものが浮かんだ茶色い液体が置かれていた。


「ありがとう。」


コーヒーの味の方も確かだった。


「やっぱりミラはスタイル抜群だし顔も可愛いしそんなに綺麗な髪を持っているんだからもっとお洒落したらいいのに。」


謎の甘そうな液体を飲んでエリーがミラを眺め言う。ラザァもお洒落などには無頓着な自覚があるがその意見には大いに賛成だ。


「はいはい、そのうちね。」


「それ絶対やらないやつだよ…」


適当極まりない答えをしたミラに思わず突っ込んでしまう。ミラは気にした様子もなく無視を決め込んでいた。


「そういえば海っていつ行くの?カルザル島?がどうとか言ってたけどどこかわからないけど。」


せっかく水着を買ったのだ、無駄にしないように海に行きたい。もっともこの2人と行くといろんな意味で落ち着かなそうだが。


「あっ!」


「わっ!何!?」


突如エリーが素っ頓狂な声を上げる。


「今の時期は確か巨大な水生古龍の接近でカルザル島に渡れないんだった…」


「確か2ヶ月くらいね。」


ミラがコーヒーをすすりながら澄まし顔で言った。どうやらミラがエリーの水着購入に大人しく従っていたのはどうせ着なくて済みそうなことを見越していたらしい。とんだ策士だ。


「ごめんねラザァ…なんか無駄に買い物しちゃったかも…」


エリーがキャラに合わないテンションの低い声を出す。


「別にいいよ、それに2ヶ月経った後でも海に入れるくらい暑いかもしれないしさ!」


ラザァのフォローを聞いてミラが「しまった!」という顔をする。


「そうね!どうせカルザル島は一年中暑いものね!」


ラザァの言葉で元気付けられたエリーが再び元気になり、反比例するようにミラがため息をつく。


巨大な水生古龍という名前くらいでは驚かなくなっている自分に驚いたラザァであった。






「ごめんねラザァ。」


エリーと別れて2人で独身寮に向かっていた時のミラが突然謝ってきた。


「えっ、何が?」


「突然荷物持ちさせられたり、私とその…そんな関係だと勘違いされたり。」


俯いていてよく顔が見えないがこういう時は大体ミラの自己嫌悪からくる発言なのだ。


「別に気にしてないよ。」


「…そう。」


また2人の間に無言の時間が流れた。


「みんなで海に行くの、僕は楽しみだから。」


特に考えずに口にした内容はそんなものだった。


「何よいきなり。」


「別に、今思っただけだよ。ミラと一緒に街中を歩くのはよくあったけどパイリアの外に遊びに行くのはなかったからさ。あ、レレイクは別ね。」


ラザァの受け答えが子供っぽかったせいなのか、一呼吸遅れてミラがクスリと笑う。つられてラザァも笑った。


「そうね。一緒にどこか遊びに行きたいわね。」


こっちを見ないで前を向きながら言う。


やはり平和な日常ほど愛すべきものはない。そう思ったラザァだった。







だがこの世界の運命の歯車はラザァに、ミラにいつまでも平和な日常など許しはしなかった。


第2.5幕「とある夏の日の買い物」〜Fin〜


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