自らの手で
ラプトドラの甲殻は決して厚くはない、だが武器といえば手にあるコンバットナイフと予備の小型ナイフしかないミラにとっては強固な装甲と言ってもいい。
そして厄介な事にラプトドラを宿主としているこの寄生植物の体液には腐食作用があるらしく、長時間の戦闘はこちらの刃物類を全滅させる事となる。
ミラとミイラ化したラプトドラは睨み合いを続けながらジリジリと距離を詰める。長いツタを使える分距離が離れているとミラに不利だ、接近戦ならば逆に長さが仇となる。
さっさとケリをつけようとばかりにミラはジャンプして背中にナイフを突き立てようとする。この戦いが長引けば長引くだけ後ろの地下室で戦っているラザァ達が危ない。
ラプトドラの口から飛び出してくるツタを躱し、背中から飛び出してくるツタを切り飛ばす。
なんとか背中に飛び乗ってナイフを突き立てようとする。しかしラプトドラは全身を激しく回転させ、こちらの思うようにはさせない。体を動かしているのが別の生き物のため普通ならありえない動きをして中々厄介だ。
「少しは大人しくしなさいよ!」
背中にしがみつくのに精一杯でとてもじゃないがナイフなんて振るえない。
そうこうしている間に一匹の犬のミイラが飛んできたかと思うとミラに体当たりをして壁まで吹き飛ばす。
「ぐっ!」
思いっきり肺をぶつけたのか息が苦しい。見ると目の前には解放されてこちらを探しているラプトドラと先ほどの犬が向かってきている。ナイフは5メートルほど先に落としてしまった。
'''こんなところで死んでたまるか'''
目がより赤くなるのを感じる。それ以外に見た目が変化しているのかは知らないがより龍化しているのだろう。
こちらの手元に武器が無いのを知ってか知らないでか悠々と距離を詰めてきた犬が口からたくさんツタを伸ばしながら飛びかかってきた。
「遅いのよ!」
ミラはその横顔をグーで殴りつけ大きく吹き飛ばした。犬の頭はセミの抜け殻のように粉々になり、中から千切れたツタが覗く。
「私が死ぬ理由はもう決めてあるんだから、こんなところで死ぬ訳にはいかないの!」
嫌いな力だけれど、自らの体に流れる古龍の血が武器などいらないと告げている。
「その間抜けヅラを叩きのめして中にいる気持ち悪い奴らも八つ裂きにしてやるわ。」
宣戦布告をして再び飛びかかる。首に飛びつくと暴れる機会を与えないように口から伸びるツタを素手で引きちぎる。
苦しそうにもがくラプトドラなんか御構い無しに首に両手を回すときつく締め上げ、そして大きく捻った。
ブチッ…
繊維がちぎれるような嫌な音がする。
ブチッ…ブチッ…
ブチッブチッブチッ!
千切られた首が、頭が音を立てて地面に落ちる。束になって切られたツタからシャワーのように体液が噴き出した。ラプトドラはそのまま体勢を崩すと大きな音を立て横倒しになった。
'''恐らくトドメはさせてない、本体はラプトドラの頭ではなくて他のところにあるに違いない。'''
ここで油断したため先ほどの魔獣との戦いの時には酷い目にあったのだ。
ミラはすかさず落ちていたナイフを拾い上げ、首の傷口から思いっきり胴体へ向けて突き刺す。
ラプトドラの腐りかけの体と、大量のツタを潰す嫌な感触が手のひら、手首、そして腕から伝わってくる。ビチャビチャヌチャヌチャという嫌な音が響く。
恐らく急所にかすりでもしたのだろう。頭を切り落とされた時とは比べ物にならない暴れ方をする。必死にミラを引き剥がそうと背中からツタが伸びてくるが指令系統が混乱しているのか狙いが定まっていない。
「これで終わりね…」
進めるところまでナイフを突き刺すと、今度はそれを一気に引き抜き再び突き刺した。
ラプトドラの、正確には寄生しているツタの怪物の動きが激しくなったかと思うと次第に弱々しくなり、ついには動かなくなった。
ツタが完全に動きを止めたのを確認するとナイフを引き抜いた。既に刃先はボロボロで鈍器として使うくらいしかできなさそうだ。
そのままよろよろと立ち上がる。ミラが地下室を飛び出してラプトドラとタイマンしてたのは数分からせいぜい10分といったところか。一刻も早く地下室に戻ってラザァ達を助けなければ…
ミラは未だに痛む背中を無視して暗く、屍の散らかる廊下を走り出した。
たどり着いてミラが見たものは、地面に散らばる大量のツタとミイラ、未だに健在の超大型ツタ魔獣、もうほとんど残っていない焚き火、そして血まみれであちこち怪我しながら折れたナイフを持っているラザァとガレンだった。




