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Schneiden Welt  作者: たる
第二幕
67/109

風の吹くその先で

「そっち頼む!」


「了解!」


そう言ってミラは目の前の人間のミイラに回し蹴りをお見舞いする。ミラの後ろではラザァが先端に火をつけた角材を振るい、天井から襲いかかろうとしているトカゲのような魔獣をはたき落としている。全体の指示を出しているガレンは大きなイノシシ(もちろんツタに寄生されている)の口に松明を突っ込んでいた。


「さっきはよくもっ!」


ミラのナイフがまた1人のミイラを葬り去る。その背後に回ったミイラはしっかりとラザァの角材の餌食にされた。


現在ラザァ、ミラ、ガレンの3人は風が吹き込んでくる方向へと地下道を進んでいたところだ。途中途中でこうしてツタに寄生された人間や魔獣に遭遇するが、ミラとガレンの仲が大幅に改善された影響かかっちりした連携で撃退している。


ただし敵の最大の弱点である火を維持するための松明と燃料用の油の小瓶も限りがある。厳しい状況は未だに変わらない。今ラザァが使っている角材はそこらへんで拾った物だがそう毎回都合良く落ちているわけではないのだ。


ラザァはナイフで目の前に来た犬のミイラを斬りつける。火器はできるだけ温存しておく。





「風が強くなってきたな、出口も案外すぐそこじゃないか?」


さっき敵の軍団を撃退してからは特に何かに遭遇する事なく進んでいる。怖いくらいに順調だった。


「ねえ、ガレン。」


「ん?」


「あいつらって地上にいたっけ?」


ラザァの頭の片隅に引っかかっていた事は恐らくこれだ。


「少なくとも俺は見ていないぞ、それに恐らくだがあの植物は日向では生きれない種類だと思う。'''あの世界'''のものだという仮説が当たっていればの話だがな。」


また'''あの世界'''か…


「それがどうかしたの?ラザァ。」


隣を歩くミラがこちらを覗いてくる。ちなみに現在は目の色は再び青に戻っている。


「2人ともそもそも何で僕らがレレイクに来たか思い出してよ。」


「行方不明のこいつを探すためでしょ?」


ミラが怪訝な顔でガレンを指差す。


「目の前で指差してこいつ呼ばわりかよ…」


ガレンはミラを見ながら小さくため息をつく。


「違うよ、もっと前、そもそもレレイクの生態系に異常が発生、もっと言うとレレイクに今までに無い強力な生き物が出現したらしいからって事だったよね。」


「そういえば…」


ガレンが手をポンと叩く。大丈夫なのかこの人は。


「でもあのミイラ達は地上に出れない、ここにいるミイラや魔獣、あのツタの犠牲になったのは恐らく村長グレスリーに捕まったやつだけだ。」


「何が言いたい?」


ガレンが今までより真面目な顔つきになる。ミラもラザァの態度を見て真剣に話を聞こうとラザァの口が開くのを待っている。


「あの村に尋ねてきた旅人、紛れ込んだ生き物を減らすだけでこの大きな森の生態系に影響があると思う?」


「あっ…」


ミラがこちらの言おうとしている事を悟ったのか思わず声をもらす。ラザァの言おうとしていた事を完全に理解したらしいガレンが引き継いでくれた。


「あのツタの化け物と関係があるかはまた別の問題だが、地上の敵を殺して回る奴が別にいるという事だな?」


「うん、それにそいつはこの地下に根城を持っていると思う。」


ガレンの推理にラザァはあと少し独自の解釈を追加していた。地上の敵を殺している謎の何かは地下に住んでいるという。


「根拠は?」


ガレンの言葉にゆっくりと口を開く。ミラは何が何なのかさっぱりといった風で首をかしげていた。


「僕だってそんなに強く確信しているわけじゃない、ただここに来る途中で何度も地面が内側から掘り返されたような跡を見た、まるで何かが飛び出したみたいに。そしてその近くに魔獣の死体がある事も多かった。ただそれだけだよ。」


現状証拠を2つほど合わせたただけの推理、ただ森という特異な状況からあながち的外れでもないと考えていいはずだ。


そしてこの地下が怪物の巣窟になっているという事、地下に本拠地があってなおかつこんなに敵がうようよしているならば今まで異変の原因がつかめなかった事にも納得がいく。


「なるほど…案外いい線行ってるかも知れないな…」


ガレンが顎に手を当てて考え込んだその時だ。ミラが目にも止まらない速さで前に飛び出したかと思うと目の前の柱の陰にナイフを突き出す。


「やめろっ!俺は敵じゃない!人間だ!!」


ミラのナイフは1人の小男の喉元に突きつけられていた。


旅人用のマントに腰につけたポーチ、泥で汚れた顔、歳はガレンと同じくらいに見える。


「ラザァ、どうする?」


ミラがどうでもよさそうな口調で尋ねる。


「どうするも何も人間なら…」


とりあえず保護というには自分達の身の安全すら怪しいので語弊があるが一緒に行動するしかないだろう。そう思って近付いてラザァは息を呑んだ。


その小男の片目が干物のように萎んでいたのだ、よく見ると耳も…しかし小男は気にする様子が全く無い、まるで自分の体が死に絶えているのに気がついていないかのように…


「ガレン…これって…」


恐る恐るガレンの方を見る、ガレンは目を閉じて深呼吸をしていた。


「ああ、植えつけられている。もう'''手遅れ'''だ。」


今まであまり興味がなさそうにしていたミラもようやく男の顔に気がついたらしく、1度下ろしていたナイフを再び構える。


その動作が男を刺激したらしい。ガタガタと震え出して口から黄色い泡を吹き始めた。


「お前らもやっぱ敵なんだな!?そうなんだろ!?」


「いや、その…」


「うるさい!」


ラザァの差し出した手を男は払い退けると男は急に走り出した、よく見たら足も一部ミイラのようになっているため足取りがおぼつかない。


「追いかけようミラ!」


気がつくとラザァは走り出していた。


「追いかけるって…どうするつもりなのよ!?どうせ助からないのよ!」


そう言いつつもミラもラザァのすぐ横についてくる。


「それは…」


何か助ける手段があれば迷わずそれを選ぶ。だがあの既にミイラのように干からびた体は元に戻る事は無いだろう。


どうせ死ぬなら人間として今この場で一思いに殺す?確かにあの化け物に操られて人を襲うようになるよりはその方がいいだろう。だが自分に出来るのか?無抵抗の人を例えもう助からないとわかっていても殺す事が出来るのか?


内心で葛藤しているうちに2人は今までとは違う、大きく開けた空間に出た。そしてなんと天井には直径3メートル程の円があり、そこから月明かりが差し込んでいる。しかもご丁寧に階段付きだ。ガレンの目論見が見事に当たったのだ。


ラザァのそのつかの間の幸せな気分は隣にいるミラの様子の変化とともに終わりを告げた。


「ラザァ…多分あれが今回の全ての元凶よ…」


ミラは腰からナイフを二本抜く。綺麗な青い目がみるみる赤く染まっていく。


2人の目の前には先程の小男が立ち尽くしていた。そしてその前に'''それ'''はいた。


「なんだぁあれ…」


遅れてきたガレンの元気の無い声がする。


この円形の大きな部屋の中心には先程見つけた螺旋階段とその先に地上へ続く出口が見える。


奴はその螺旋階段に絡みつくような形でそこにいた。


部屋の床の3割ほどを覆い尽くす色とりどりで大量のツタと葉、よく見ると壁や天井も全てツタと葉に覆われている。螺旋階段の根元には赤い不気味な花まで咲いている。そしてそこから大蛇のようなひときわ太いツタが延びて螺旋階段に巻きついている。


「うわああああああああああああぁぁぁぁ!!!!!!」


小男が悲鳴を上げてその場に倒れこむと、螺旋階段に絡みつくツタがゆっくりと動き、その全身を晒した。


ツタの先端には巨大な赤いバラのような花が咲き、花の中心部、つまり本来めしべがある位置には巨大な裂け目が覗いていた。


'''ただの裂け目じゃない。'''


ラザァの背筋に冷たいものが走った瞬間、その裂け目が大きく開き、ヤスリのような歯と赤く光る口内を見せつけた。


'''顔だ。'''


「ああ…ああ…」


小男が何か口走りながら逃げ出そうとした瞬間、その体は宙に浮いていた。


地面から生えた直径30センチはあろうかというトゲまみれのツタが男の体を串刺しにしていた。男の口からどす黒い血が溢れる。


男の体はそのまま怪物の口まで運ばれ、そのまま赤い口の中に放り込まれた。


バキバキという骨が砕ける嫌な音と断末魔の叫びはほんの数秒で止み、あたりは再び静寂に包まれた。ツタがうごめく気持ちの悪い音だけが響いている。


目が無い怪物の顔がラザァ達3人の方を向きニターっと口を開ける。血と腐った肉の匂いがラザァの顔を撫でた。




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