変わる関係
「ああ、目を覚ましたのか。」
暗がりから姿を見せたガレンがミラを一瞥してぶっきらぼうに言う。やはりこの2人は…
「とっ、ところでガレン、出口は見つかりそ…」
「あのっ!」
空気を読んだつもりのラザァの無理がある話題転換は当人のミラの言葉に遮られた。ガレンの目が今度はしっかりとミラを見据え、次の言葉を待つ。
ガレンは促すわけでもなくただ無言でミラの言葉を待った。
「あの…ありがとうね…私達を助けてくれたんでしょ?」
ミラが伏し目がちに呟く。色白なので顔が赤くなっているのがよくわかる。本当に不器用な女の子だ。
「そ、そうか…どういたしまして。」
ガレンもどもっているしミラといい勝負かもしれない。
ミラもそれなりに前に進んでいるのだろう。やけに攻撃的になることさえなければこのまま…
「でも、あんた達衛兵があの男の事をずっと見て見ぬ振りをしていたことは今でも恨んでる。」
ラザァは頭を抱えた。
ミラは無言のままのガレンを見つめながら言葉を続けた。
「あんた達にもそれなりの事情があったんだろうとは思う。それでも絶対に許さない、あんた達がぐずぐずしているから奪われた命だってたくさんあった。」
ミラは批難の声を弱めない。
「それで城の中の裏切り者を見抜けなくてエリーの誘拐まで許した事も絶対に許さない。事件後に下っ端から渡された形式通りの謝罪文なんて破り捨てたわ。」
「あんた達がもし、もし本当に心から申し訳ないと思ってるいるのなら今ここで私の、半分古龍ではなくパイリアの一市民の声を聞きなさい。」
ミラはその青い目でしっかりとガレンの顔を見据えている。ガレンはそれを見返していた。逃げることなく。
ここでミラの顔がラザァを見る。
「パイリアの衛兵ならここにいるラザァ フラナガンの身元を安全にパイリアまで送り届けなさい。」
「えっ?」
「はなからそうするつもりだ。」
「へっ?」
「私も協力するわ。」
「ちょっと、さっきから何を…」
「ラザァうるさい!」
「すみません!!」
理不尽にラザァを黙らせてミラは目の前にズカズカやってきてラザァの顔に顔を思いっきり近づける。何回も思っていることだが顔が整っているとどんな表情でもそれなりに見えるのが羨ましい。ラザァはドキドキする心臓の音を悟られないようにするのに精一杯だった。
「ラザァはもっと自分のことを知るべきよ!あなたは異民初の城勤務、それも結構偉い立場なんでしょ?それがこんなとこで化け物の肥料にされていいわけないじゃない!」
ミラはラザァの肩に手をかけてガタガタ揺すってくる。顔が揺れるたびにミラの顔にくっつきそうで気が気ではない。
「それにあなたがいなくなったら私はどうすればいいのよ!?また…また…またひとりに…」
そこまで言ってミラはハッとしたように口をつぐむ。再び顔が赤くなっている。かきあげられていた前髪を前に降ろして顔を隠す。
「その…あんたが死んだら私は無職になっちゃうの…だから勝手に死なないでってことよ。」
「そ、そうだね…」
ようやく肩から手を離してくれたミラの後ろ姿に声をかける。
「わかればいいのよ、わかれば。」
「ごめんね、従業員の気持ちに気がついてあげられなくって。」
「間違っちゃいないけどなんかムカつく言い方ね…」
ミラがブスッと拗ねた顔をする。
「おいお前ら、いちゃついてるとこ悪いが焚き火も消えそうなことだし松明に移して移動するぞ。」
ガレンが2人の間にニュッと顔を出す。
「そうだね。周りに焚べれそうな枯れ木ももうないしね。」
「いっ、いちゃ…」
見ると焚き火は本当に消えかけていた。ここで火をなんとか保つよりは残りの火で松明に火をつけ移動する方が良さそうだ。ラザァは隅に置いておいた松明を2人に手渡す。ガレンはミラが気を失っていた時に作った簡易弓矢をそれぞれ手渡す。ヤジりには布を巻いており、火矢にすることができる。
「風から方角はわかるし、それじゃあ行こうか!」
「ああ。」
ラザァは枯葉を使って風向きをもう一度確認して歩き出そうとすると未だに何かブツブツ言ってるミラに気がつく。
「ミラ?行こうよ。」
「なんでそんな平気な顔してるのよ…わかったわよ!わかった!」
ミラは何か小声で言ったと思ったら急に大声を出すとドカドカと2人よりも先頭を歩き始めた。
行方不明のガレンと合流して後はここを脱出するだけ、敵の弱点も出口の方角もわかっている。
この3人が集まったことでの前向きな気分は間違っていなかったのだ。
ラザァはミラに続いた。




