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Schneiden Welt  作者: たる
第二幕
64/109

地下の再会

「はやく…逃げ…」


増え続けるツタでミラの顔が見えなくなる。ミラが古龍の血を継いでいて常人よりはるかに高い身体能力を有しているからまだ声を出せるだけで、普通の人間ならばとっくに押しつぶされているころなのだろう。


「くそっ!くそっ!」


ラザァも躍起になってナイフを振るがツタは減る気配が無い。伸びる速度が速すぎるのだ。


ガチッ


ナイフが根元からポッキリと折れていた。ツタの汁に僅かながら腐食作用でもあったらしい。もう使い物にならなそうだ。


腰に手をやるが予備の刃物などありはしない。


頭の中が真っ白になった。


その時だ。


ラザァの横を何か光るものが駆け抜けたかと思うと目の前のツタの塊がビックリして暴れる家畜のようにバタバタと蠢きだす。


見るとツタの塊に一本の木の枝が刺さっていてその先端から煙が上がっていた。いわゆる火矢だ。


ツタは見るからに動転したようにのたうちまわり火を完全に消そうとする。今までの刃物による攻撃よりもはるかに効いている。火自体はかなり小さいのにこの悶え様だ、弱点なのだろう。そのせいでツタの締め付けがゆるんでいる。今ならばツタを切らずとも掻き分ける事もできそうだ。


ラザァはその隙を逃さずに気持ち悪いがツタの塊を掻き分けて進んだ。ツタも何者かが進入してきたのはわかっているのかもしれないが突然の火を消すので精一杯らしくこちらを攻撃はしてこなかった。


やがて塊の中心に見慣れた銀色を見つける。気を失っただけと信じたいが目を固く閉じて動かない。


ラザァはその華奢で柔らかい体を抱き抱えるとまとわりつくツタを払いながら急いで脱出する。


見るとツタの火は既に消え、相手は落ち着きを取り戻そうとしていた。


'''ミラを抱いたままだと逃げ切れない…'''


その時2発目の火矢が飛んできたかと思うと今度はツタの端ではなく塊部分の中心に命中する。


ツタは再び動転したようにのたうちまわり、周囲の植物を引っ叩いたりしている。


「くたばれこの雑草野郎!」


暗がりから現れた大きな人影が火の点いた松明を悶えるツタの塊に投げつけるとすぐに燃え広がり、やがて動かなくなった。


「おい、大丈夫!?って…ラザァ!?」


大男は相手が完全に動かなくなったのを確認するとこちらを向き、そして素っ頓狂な声を上げた。久しぶりに聞くその低い声で。


「って…ガレン!?」


皮肉なことにも探していた行方不明人物ガレン レスフォードにラザァとミラは助けられる形となったのだ。








「とりあえず骨は折れていないらしいな。気を失ってるだけだし安静にしていればそのうち目をさますだろ。」


ミラを一通り診察したガレンがポーチから膨らむ毛布(ポケットに入るサイズなのに紐を引くと布団サイズになる、どういう訳なのかわからないのでパイリアに帰ったらじっくり研究したい。)を取り出してその上にミラを寝かせる。


ミラも全身締め上げられて痛々しいあざが残ってはいたが出血などは一切なく、今は表情も穏やかに寝息を立てていた。


あれだけ強くて大人っぽくてもやはり体自体は年頃の女の子なのだ。ラザァは抱き抱えた時のミラの小ささと軽さを未だに腕に感じていた。


そして自分1人の力ではミラ1人すらも救えなかった事が重く心にのしかかっていた。ミラは森でラザァと対等な関係になりたいと言っていたが置いていかれているのはラザァの方だ。


「さて、どうしてお前らがいるのか話を聞かせてもらおうかな?」


焚き火の準備の終えたガレンがこちらに向き直り、2人を交互に見る。


「どうしてって…ガレンを探しに…」


「それならば何故2人だけだ?パイリア軍の他の奴はどうしていない?」


バツの悪そうなラザァの言葉をガレンは厳しい口調で遮る。目つきも険しいが父親が子供に向けるような優しさを持っている厳しさだ。


「ごめんなさい、色々あって単独行動に…」


ラザァもこれには反省していたので素直に謝った。行方不明の人物を探し出したと思ったら説教されているのにどこか不思議な感じがしないでもないが、ラザァとミラの単独行動は全面的に2人に非がある。


「大方そんな事だと思ったよ、で、軍のメンバーは誰だ?まさかあの牛野郎じゃあないよな?」


「ダルク ローレンスさんとエリダだよ。アズノフは来てない。」


ラザァのアズノフが来ていない事を告げる言葉にガレンは何故か寂しそうな顔をする。


「そうか、ダルクなら心強いな。ダルク達はお前らがこの村に来てる事を知っているか?」


「ううん、僕らがレレイクに向かった事まではわかってると思うけどその中での行動までは…まあ他に目印もないしいずれここに来るとは思うけれど…」


「あの爺さんを見抜ければいいんだが…」


ガレンは険しい顔になり腕組みをする。


「グレスリー?」


脳裏にあの村長の顔が思い浮かぶ。


「ああ、なんでか知らないがあの爺さん、村に来て泊まっていく客を地下に落として植物の肥料にしていやがる。」


ガレンは「くそっ!」と叫ぶと壁を殴った。そのあまりの感情のこもり方にガレンの部下も犠牲になった事を悟る。


「あいつらってなんなの?死体を動かす寄生植物だなんて聞いた事ないよ。」


「ラザァ、微妙に違うから訂正だ。あいつらは'''死体を動かす'''じゃない、'''生きた生き物に寄生して栄養を吸い取って殺し、ついでに死体を動かす'''んだ。」


ガレンの言葉を理解するのに時間がかかった。


つまりはあの植物はなんらかの方法で生きた生物に寄生し、体液やらを吸い取ってミイラのようにしてその後絞りかすのようになった体を動かして次の宿主を探していたという事だ。さっきガレンが来なければミラとラザァもミイラの仲間入りをしていたことになる。


「そんな事って…」


「現実にあるんだな、わかっている事は緑のツタはほぼ無限に生えてくる事、オレンジのツタが弱点、そして紫のツタが宿主に種を植え付ける奴。苦手なものは炎だ。」


そう言ってガレンは脇に置いていた弓矢を見せる。銃よりも火矢が効果あると気がついてその場で作ったのだろう。


「自分で作ったんだね。」


「ああ、あいつらの強さは宿主に依存する事もわかっている。人間や犬に寄生した個体はそこまで成長しないから手でも倒せるレベルなんだが…」


「さっきの大きな魔獣のこと?」


「そうだ、あんなデカい生き物に寄生してる奴は成長してツタの数もすごい事になってる、そういう奴は刃物じゃあキリがないからこいつを使ってるんだ。」


確かにラザァがいくら切りつけても倒せなかった敵を火矢2発と松明で殺す事が出来た。火が苦手なのは本当らしい。


「ガレンはいつからここに?」


見ると服装の汚れ方からしてついさっきここに来た、という訳でもないだろう。


「3日ほど前からだ。その間に随分と味方もやられた。今は敵が少ない小部屋に篭って時々出歩いては出口を探している。その最中にお前らを見つけた訳だ。」


「出口は見つかりそう?」


1番重要なところを聞く。


「まだ見つかってはいないがな、風の流れはある。どこかしら地上に繋がっているのは確かだ。もう大分絞り込んだし今日明日にも見つけるつもりだ。」


そう言うとガレンは足元の枯葉を持ち上げると真上に放り投げる。僅かながらその葉は流れてもとあった場所から離れた位置に着地した。風が吹いているならば必ずどこかに出口があるはずだ。


「そっか…それならミラが起きたら移動しよう。」


状況は決して良いとは言えず、むしろ悪いがそれでもラザァはなんとかなるような前向きな気持ちになりつつあった。


その自信の源は図らずとも前回の事件を共に乗り切った、あの最終決戦の場となった地下を出てすぐの橋の上にいた3人が再び揃ったからかもしれない。

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