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Schneiden Welt  作者: たる
第二幕
62/109

夜中の会談

場所は大都市パイリアの中心パイリア城。その一室では真夜中だというのに未だに明かりが煌々とついていた。


部屋の主ユヤ オードルトは2つのカップに紅茶を注ぐと来客用のテーブルへと運ぶ。テーブルには白髪が混じり始めている髪を丁寧に撫でつけた落ち着いた雰囲気の中年男性が腰かけている。パイリア軍の部隊長キーフ トーラーだ。


「ダルク達はどうしているかのう。」


オードルトは紅茶をすすりながらなんでもないような口ぶりで呟く。


「レレイクの事ですか、まあ彼なら大丈夫でしょう。一緒にいるあの異民はわかりませんが。」


「ラザァはあれはあれでしっかりした聡明な子じゃよ。それに強力なガードマンも付き添ってる事じゃし大丈夫じゃろ。」


キーフの顔が僅かに曇る。


「ガードマン…か」


「それよりもキーフ、本題に入ろうぞ。」


オードルトはいつもの呑気な口調で話すが目からは先程までの柔らかさは消えており、仕事モードに入った事を思わせた。


「東のユデンのことですか。」


「うむ、先日のシヴァニアの元軍人の件と関係があるかどうかは不明じゃがユデンでの武器の出入りが活発になっておる。それが向けられる先がパズームならば真っ先に狙われるのはここパイリアじゃ。」


オードルトの言葉にキーフも顔をしかめる。キーフがまだ兵士としての下級だったころにパズームとユデンは戦争をしており、今も仲が良いとは言い難い。元々農耕民族のユデンは軍事大国のシヴァニアとさらに北のプロアニアほど過激ではないが虎視眈々と攻撃の機会をうかがっている。


「それで牽制のための行軍ですか…」


「うむ、先日の件で秘密兵器の大型焼夷爆弾は見送りじゃがこちらの軍事力を見せつけて牽制するのが結果的にはもっとも双方に無駄な血が流れんと思っての。」


オードルトはさらに言葉を続ける。


「ユデンとて馬鹿ではあるまい、軍事力ではこちらに分がある。それを目の当たりにすれば迂闊にちょっかいをかけてくる事もなかろうに。」


「ですが…」


キーフの頭には1つの嫌な予感が浮かんでいる。


「首謀者の問題かの?」


「ええ」


オードルトには既にお見通しだったらしい。キーフは言葉を繋ぐ。


「ユデンの不穏な動きがこちらを狙ったものだと仮定して、議長のおっしゃる牽制の行軍が意味を為すのは''''''その不穏な動きの首謀者がユデンの政治的な立場の者の場合''''''ですよね?」


「おぬしもやはり気になっておったか。」


つまりはこうだ、もし今回のユデンのパズームへの敵対行為を画作したものがユデンの政治的、軍事的な立場にある人間ならばオードルトの策は牽制として意味がある。国の代表が後腐れになりそうで勝ち目の薄い戦いを挑んでくるとは考えにくいからだ。


しかし


敵対行為の首謀者が国や軍に立場を持たない場合が問題なのだ。先日のバザロフ達もテロリストとは言え元は正規の軍人だ。そのような肩書きもなにも無いようなテロリストやらゴロツキが首謀者の場合はオードルトの策は牽制にはならず、むしろ挑発行為だろう。失う物も何もない彼らは攻撃を仕掛けてくるだろう。そしてそれはパズームに、パイリアに多大な被害を及ぼすだろう。死を恐れずに突っ込んでくる者、手負いの獣ほど恐ろしい者はいないからだ。


「ええ、一筋縄ではいかない気がしてまして…」


それに現在はガレン レスフォードの失踪とそれの捜索でパイリア軍のエース、ダルク ローレンスがパイリアを離れている。ただでさえ手薄になっているパイリアから軍を出すのは危険にも感じる。


「せめてグレゴール卿かアバートさんがいればいいのですがどちらもパイリアを遠く離れていますし。」


ビクトル グレゴールはパイリア城の高官で強力な魔法使いだ。異世界への門を単身で開く事が出来るほどでその力はオードルトに匹敵するとも言われている。軍人ではなくいわゆる文人でパイリアだけでなくパズーム全体の外交における重要人物だ。


ベルグフォース アバートはパイリア軍の最強の戦士と誰もが認める猛者だ。彼がそこまで尊敬されているのは何よりも'''あの世界'''、つまりこの世界でもラザァのいた世界でもない場所に入り、唯一生きて帰ってきたとされているからだ。古龍と何故か敵対し、この世界における宗教全ての共通の敵、つまりこの世界で語り継がれる全ての神の敵として描かれている世界に入ったことのある唯一の生存者だからだ。


本人がそのことになると口をつぐむため詳しい事はわからないが、ベルグフォースが'''あの世界'''から持ち帰った化け物(巨大なコウモリのような外見でイブナリバと名付けられた。)の牙はパイリア城に厳重に保管されている。


その強力な2人がどちらもパイリア不在なのだ。


「ビクトルはともかくベルは気まぐれじゃからの…」


オードルトも苦笑する。


「とりあえず行軍するにしてもダルク達の帰還を待ってからじゃの。ラザァやエリダもパイリア内部の治安維持には貢献してくれるじゃろうに。」


「随分と買ってますね。それでは…アルバード ヒルブスの処置についてですね…」


「うむ、頭を悩ませる事は尽きぬの…」


オードルトはそう言って空になったカップにおかわりを注ぐべく立ち上がった。


パイリアの夜はこうして更けていった。

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