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Schneiden Welt  作者: たる
第二幕
61/109

ミイラ

「そんな…」


ラザァは目の前の光景に息を呑むしかなかった。


目の前にいる人、それはさっきまで壁に寄りかかりツタに絡まれて餓死していたミイラのように全身茶色く変色し、干物のように干からびているのだ。そして片方の目と口からは大量のツタが伸びている。


そんな状態の人間が歩き、そしてラザァ達の方へ向かってきている。


ザスッ…ザスッ…


さっきまでの足音がすぐ目の前から聞こえる。


「そんな…どう見ても死んでる…よね?」


「あんな状態で生きているなら乾物店は商売上がったりね。」


だが目の前のミイラは歩みを止めない、ゆっくりと確実にラザァ達を目掛けて歩いてくる。


「とりあえず逃げた方が良さそうだね。」


「ええ」


ミラはようやくラザァから離れるとそろりそろりを後ろに下がり始める。ラザァもミイラと反対側へ駈け出す準備を始める。足元が悪いので迂闊に動くとツタに足を取られそうだ。


「ねえラザァ、いいもの落ちてたからこれを1発お見舞いしてから…」


ミラは足元から太い木の枝を持ち上げ後ろにいるラザァの方を向く。ラザァが今まさに回れ右して駆け出そうとしている方向を向く。


「ラザァ!そっちはダメ!」


そう叫ぶが速いか、ミラは手にしていた枝を物凄い勢いでラザァの方へ投げる。枝はブーメランよろしく回転し暗闇に消えたかと思うとグシュッという何かに刺さる嫌な音が聞こえた。


ザスッ…ザスッ…ザスッ…


「まさか…」


ザスッ…ザスッ…ザスッ…ザスッ…


「そのまさかよ、まずいわ…」


ザスッ…ザスッ…ザスッ…ザスッ…


ミラは足元からさらに木の枝やら石を拾い上げ左右を交互に睨む。


ザスッ…ザスッ…ザスッ…ザスッ…


「囲まれたみたいね…」


ザスッ…ザスッ…ザスッ…ザスッ…


さっきまでラザァ達の前にいたミイラの後ろから1人、また2人とミイラが姿を表す。それとほぼ同時に反対側からもミイラの大群が姿を見せ始めた。先頭には顔に木の枝が刺さっているミイラもいる。


ザスッ…ザスッ…ザスッ…ザスッ…ザスッ…ザスッ…ザスッ…ザスッ…ザスッ…ザスッ…ザスッ…ザスッ…ザスッ…ザスッ…ザスッ…


感情がこもっていない機械的な足音を響かせながら。


「さすがの私も干物と戦った事は無いわね…」


「だろうね…」


ミイラの数は左右合わせて20ほどだろうか、ミラとラザァは背中合わせでくっついている。


ミイラは着ている服装から元は旅人だったものが大多数なのだろう。そして肌のあちこちから苔やキノコを見せ、みんな口や耳からツタを生やしている。


「ねえ、ラザァ」


「何、ミラ?」


「大丈夫?」


「大丈夫って何が?状況は全然大丈夫じゃないけど。」


見るからに話が通じなさそうな奴らに取り囲まれてるのだ、これが大丈夫じゃないと言わずしてなんと言うのか。


「これからあいつらと戦うことになるけどあいつら人の形しているよ。その…ラザァ優しいからさ、躊躇なく戦えないってなら無理しないで。これくらい私1人でなんとかするからさ。」


背中合わせなので顔は見えないがミラなりの思いやりなのだろう。こうして言葉にしてくるのは珍しいがミラだって優しい性格をしているのだから。


「いや、大丈夫だよ。ミラだけに押し付けないよ。それに人の形って言ってもここまで干からびてるなら大丈夫。」


実を言うと干物だろうが燻製だろうが人型は人型なので大分やりにくいのだがそこは強がっておく。


「…そっか、了解!それなら何気に初の私達の共闘になるわけね!」


心なしかどこか嬉しそうなミラはそう言うと持っていた石を目の前のミイラの顔面にぶつけて吹き飛ばすと木の枝でさらに1人に飛び掛かった。


「やっぱミラすごいなあ…」


久しぶりに見るがやはりミラの動きは人外だ。特に目が赤く染まっている状態は手がつけられない。


「僕も頑張らないとね。」


ラザァはナイフで掴みかかろうとしてきたミイラの腕を渾身の力で切り飛ばした。硬そうな見た目に反して腕はあっさり切断され吹き飛んだ。そして


「血?」


ラザァの顔にベトリと液体がかかる。ミイラなのに血?こんなに干からびてるのに?


「違う…」


血じゃない、植物の汁だ!


見ると切断面から切り落とされたツタが飛び出している。これでこのミイラのカラクリがわかった。


「ミラ!こいつらの正体はツタだ!ツタが死体を動かしているんだ!!」


理由なんかわからないがこの壁に張り付いているツタが人間のミイラを動かしているのだ、そしてラザァ達をも仲間にしようと…


「死体の中は植物だらけだと思ったらそう言う事なの!?なんかわからないけど厄介そうね!」


見るとミラは回し蹴りで二体まとめて吹き飛ばしていた。別に相手の正体とか関係無いんじゃ…


こちらも負けじとナイフの柄でミイラを思いっきり殴る。植物に動かされているという得体の知れなさはあるが体自体は既に朽ち果てているのだ、そこまで耐久力が高い訳でもなくラザァの力でも十分に戦う事ができる。


三体ほどのミイラを倒したが動きは遅く、攻撃手段も掴みかかろうとしてくるだけなので負ける気はしなかった。ここに来るまでに出会ったイタチのような魔獣の方が数倍強い。見るとミラなんかあと2体というところまで敵を倒していた。


'''これならいける!'''


掴みかかろうとしてきたミイラを避けてよろけた体に蹴りを入れるとそのまま目の前のミイラの肩をナイフで切りつける。肩が避けて露わになったツタを的確にナイフで刺すとミイラは力を失い地面に崩れ落ちた。


その間にラザァに忍び寄っていたミイラが飛び掛ろうと身を屈めた時、ラザァがそれに気がついた時には銀色の髪をなびかせながらミラが跳び蹴りをお見舞いしミイラの頭を吹き飛ばしていた。


「もう全部やっつけたの!?」


「ええ、助けに来たわ。」


「随分と派手にやってたみたいだね…」


見るとミラ側には素手で倒したとは思えないほど損壊の激しいミイラの死体(既に死んでるので死体と呼ぶのかは微妙だが。)がたくさん転がっていた。


「こっちもさっさと片付けて脱出するわよ!もうこんなとここりごりよ!」







ミラが助けに来てからは文字通り高速で片がつき、ラザァ達は一息つこうと地面に座り込んでいた。


「人の死体を操る植物なんてこの世界ではよく見かけるものなの?」


半ばうんざりした口調で尋ねる。


「私も初めて知ったわよ、まあこんな森の奥深くの地下なんだしいても不思議じゃあないかもね。それにあっちの世界…この世界でもラザァの世界でもないところならわんさかいそうだけれども…」


「ああ、古龍と対立しているって場所のことか…」


「ええ…」


ダルクもちらっとしか話してくれなかったのでラザァもよくわからないがここで話すような話題でもないだろうし何か他に話題は…


「ねえラザァ、また何か聞こえない?ほらっ!」


カサッ…カサッ…


さっきの靴の音とは違う足音だ。靴ではない、もっと面積の小さい何か…


「まあさっきみたいのなら何体来ても大丈夫。」


音のする方を見るがまだ見えない。こちらに近づいてきているのはわかるのだが。


カサッ…カサッ…カサッ…


「さっきとは大分違うみたいね…」


ミラの声から元気がなくなる。


カサッ…カサッ…カサッ…


暗がりから姿を見せたそいつはつい先日ラザァと取っ組み合いをしてイタチのような魔獣そのものだった。ただ一点の違いを除いては。


背中から不気味にうごめくツタを生やしている一点を除いては。


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