衛兵と少女と異世界の民
ラザァ達3人はパイリアへ入るための門の検閲の列に並んでいたところだった。
「やっぱりこういう街だと警備も厳重なんだね。」
街全体をレンガの高い壁で覆ってるし、城なんかもあるしきっと文化遺産とかもゴロゴロありそうだと勝手に想像しているラザァ。
「普段はここまでじゃあないんだけどね〜、今はなんでも政治的だか軍事的に重要な会議があるとかで街中も兵士がたくさんいるのよね、おかげで歩きにくいったら!」
エリーもうんざりした口調でやれやれと手をひらひらさせた。
ミラは前にいる衛兵を無言で見つめていた。
「ところでここで僕が捕まるってことはないよね?」
あんな話を聞いた後で検閲なんかされると嫌でも悪い想像をしてしまう、気になって思わず確認してしまった。
「それは大丈夫よ、衛兵は一部の人を除いて基本的には紳士というかそもそも異世界の人に偏見を持つような人は兵士に採用されないし。」
エリーがすらすらと答える。
「そういえば、、、」
ラザァがずっと感じていた疑問を口にする。
「エリーって街の話とか衛兵の事情に詳しいけど、、、」
「私のお父さんがパイリア城で働いてるんだ、だからそれなりに詳しいのよ。」
ラザァが質問を言い終わる前にもう答えてきた、よくされる質問なのかもしれない。
「へえーなるほどね。」
確かにそう考えると納得できるし、なんとなくエリーはいいところのお嬢さんらしい雰囲気を纏っている。
そうこうしているうちにラザァ達に検閲の順番が回ってきた。
「3人組か、パイリア市民か?」
検閲担当らしい衛兵がジロジロ見ながら言う。動いやすそうなカーキ色の軍服に腰には短い軍刀と拳銃、背中には小銃の軍人のイメージそのまんまないでたちだ。まだ若く20代も半ばくらいだろう。
「私とこの子はパイリア市民です市民証はこれです。それとこの人は異民、何か手続きが必要なんでしたよね?」
エリーとミラはポケットから何やらカードのような物を取り出して見せていた。
「異民ですね、城へあらかじめ連絡を入れるので名前をこちらの紙に、それと、、、」
衛兵は慣れていないのか手元の紙を慌てて見たりしている。
「腕輪をはめてもらうんだぞ、リード二等。」
門の横にある小部屋から低い声と共に大男が出てきた、短く刈り込まれた金髪に服の上からでもわかる筋肉、頬に大きな傷があり腕にもたくさんの傷がある40代くらいの男だ。
「レスフォード班長!すみません。」
二等と呼ばれた若い兵士が謝りながら鞄から番号の書かれた小さな腕輪を取り出してラザァに手渡してきた。
「帰還手続きの際に必要になりますのでくれぐれも無くさないでくださいね。それと、、、」
「リード!説明は俺がやるからお前はつっかえている後ろの検閲を頼む。」
「了解です!」
そう言うと若い兵士は後ろの馬車に走って行った。ラザァ達の前には代わりにレスフォードと呼ばれた中年の兵士がいる。
「あいつはまだ慣れてないんだ、すまないな。」
レスフォードが後ろの馬車を見ながら言った。
「いえ、別に大丈夫ですから。」
「異民なんだってな、念のため聞くが帰りたいんだよな?」
気さくに話しかけてくれるので見た目の割に威圧感などはなかった。
帰りたいかと聞かれてなんではいと即答しなかったのか自分でもよくわからなかった、無意識のうちにあの親戚の家の事を考えて帰りたくないと思ったのかもしれない、間を置いてから小さい声で「帰りたいです」と呟いた。
そのわずかな時間はこの衛兵に違和感を持たせるのに充分だったらしい。彼は小さく「なるほどな」と呟くと手元の紙になにやら走り書きしていた。
「手続きって言ってもそんなに面倒な事じゃあない。パイリア城の一階の異民対応窓口まで行って自分がこの世界に来た時の状況を詳しく話せば次の日食の時には帰してもらえる。」
「金はかからないから心配するな、帰るまでに通り魔にでも襲われる心配でもしてた方が有意義だ。」
そういってレスフォードはニヤリとした、笑えない話だ。エリーといいこの世界の人間の危険に対する意識が恐ろしい。
「ところでだな、、、」
真面目な口調でレスフォードはラザァの耳元に口を近づけた。
「お前、あの銀髪の娘とどういう繋がりだ?」
レスフォードがラザァにしか聞こえないような小声で聞いてきた。ミラとエリーは2人で何やら話して笑っているので聞こえていないのだろう。
「繋がりも何も、僕はもう1人の子に助けて貰ったみたいなものであの子とは特に関わりはないんですよ。」
ミラには出会い頭に殺されそうになったけど話すと色々と面倒そうなので伏せた。
「まあ、それならいいんだがな。あいつは有名というか、あまり関わりたくはない類の人間だからな、お前も気をつけた方がいい。」
レスフォードはミラを警戒の目で見ながらラザァに囁いた。
「有名?関わりたくないってのは?」
確かに目立つ見た目をしてはいるが関わりたくないというのは別の話だろう。含みのあるレスフォードの言い方に不安を覚える。
「確証があるわけじゃないから俺も確かな事は言えないんだすまん、でも注意は怠るなよ。それとちょっと待て。」
そう言うとレスフォードは紙に何か聞くと千切って折りたたんでラザァに持たせてきた。
「俺の連絡先だ、何かあったら連絡しろ。」
見るとガレン レスフォードという名前と電話番号が書かれていた。
「いいんですか?」
遠慮半分と親切すぎる事への疑い半分の質問だ。
「ああ、俺は異民が困ったり、ましてや何もしていないのに暴力をふるわれるのを見るのが大っ嫌いなんだよ。帰るまでの間に困った事があったり危険な目にあったら遠慮なく頼れ。」
そう言うとレスフォードは肩をバンバン叩いてくる、ものすごい力で正直痛いが心強かった。
「ありがとうございます!」
ラザァはガレン レスフォードに礼を言うと門の向こうで待っているエリーとその隣で腕組みしているミラの元へ走り出した。
少し遅れましたが6話目です。
もう1人のキーパーソンのガレンさん登場の回ですね。相変わらず文章力ないです。
次回あたりから本題に入りだすというか、敵キャラの影が見え始めます。
それでは今回もよろしくお願いします。