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Schneiden Welt  作者: たる
第二幕
59/109

そしてまた夜

'''ラザァは私が守らないと'''


'''でもあまりしつこく警戒してたら面倒くさがられないかな?'''


'''でもこのラザァと2人きりでどことなく怪しい森の中の怪しい村にいるって状況、パイリア軍の面々が今どうしているかなんて知らないけど助けは期待しない方が良さそう'''


'''やっぱり私が彼を守らないと'''


'''私が彼にしてあげられることなんて身を挺して戦うことだけなのだから'''






「もう日が暮れるけど、どうするダルク?このまま進む?」


パイリア軍の野営地からミラとラザァが消えてすでに半日が経過していた。リーダーダルクの迅速な指示で一行は部隊を2つに分け、彼らが元いた野営地に戻ってくる可能性を考えその場に残る部隊と、ラザァ達を探すためにレレイクに進む部隊を編成した。


捜索部隊の先頭車両はダルクとエリダが乗っている。


レレイクは基本的に草木が生い茂っており車両は進行不可ではあるが、中に村がある関係で物資補給用の道路がある。進行ルートとしては最短ではないだろうが車両を使えるメリットの方が断然大きいと見ての判断だ。


日はすでに落ちかけており、暗闇でも進むか、一度野営を張り警戒体制を取るかの岐路に立っている。


「もう少しだけ進んでから野営だ。一刻も早く探したいのは山々だが暗闇で魔獣やら夜行性の蛇龍に襲撃されたら面倒だ。」


「了解。」


つい先月の事件でヒルブス邸の地下室で巨大な蛇龍ガラナンダの焼け焦げた死体を運び出したのが割とトラウマになりかけていたエリダもその意見には賛成だった。


「ラザァ達も2人だがラザァはかなり頭が回るし、ミラは戦闘能力がずば抜けているしそこまでは心配いらないだろ。2人がバラバラに行動しているなら問題だが…」


「そう?ラザァはともかくミラちゃんはラザァにべったりだから別行動してるとは思えないけど。」


そう言うとエリダはニヤニヤと笑う。


「お前なぁ、というかこないだはなんであんな質問させたんだよ…」


「あはは!柄じゃない柄じゃないって文句言ってたのに結局聞いてくれたんだ!てっきり聞かないと思って忘れてたわ。」


そう言われて先日のダルクのラザァへの恋愛絡みの質問が頭に浮かんでバツの悪そうな顔になるダルク。


「そう言われるとなんで聞いたんだ?無視しとくという選択肢もあったのに…」


「で、どうだった?あの2人」


「別に恋仲とかではないそうだ、どう思っているのかまではわからんがな。」


「なるほど、今後に期待、か…」


「あんまり茶化すなよ…って!!!!!!!」


「わっ!急ブレーキなんかして何が…!!」


そこまで言ってエリダは絶句した。目の前には巨大な岩が道をふさいでいたのだから。


いや、岩ではない。死体だ。


目の前には巨大な肉の塊が横たわっていた。腐敗が進んでいるため正確にはわからないが獣龍で間違いない。


獣龍は草食の大人しい種類から獰猛な肉食種まで様々な個体が観測されているがこの死体にある牙や爪を見る限り後者らしい。


「どういうこと?」


「…わからん、だがこれも例の異変の一環と見て間違いないだろう。」


獣龍の身体には無数の小さな刺し傷があり、鱗が剥がれて肉がむき出しになっている場所もあった。それに足元の土が掘り返されたように散らばっており、それに足をとられたことが容易に想像できた。


エリダとダルクは車から降りて死体をよく観察する。先頭に続いて止まった後続車からも兵士が降りてくる。


「落とし穴?狩人にしては仕事が雑ね、こんなこと一体誰が?」


エリダの生きてきた短い人生において得られた記憶にはこんな耕したような落とし穴など存在しなかった。まともな狩人ならばもっと深く、わかりにくいように作る。


「わからん、だが嫌な予感がする。」


ダルクが見ていた傷口は紫に変色していた。


「予定変更だ!出来るだけ早くラザァ達とガレンを回収する!」


そう言うとダルクは車に乗り込みエンジンを吹かす。







「うーん…」


グレスリーに連れられて村で唯一の宿屋とされる大きな建物にきたラザァは受付にある宿泊記録を調べていたところだ。


「どう?名前あった?」


後ろからヒョイとミラが顔を覗かせる。


「ガレンの名前は無いなあ、何人か知ってる部下の人の名前も探したけれども無いし…」


宿泊名簿には村の寂れ方からは意外なくらいのたくさんの名前が書いてあったが、ラザァ達の目当ての見知った名前は1つもなかった。


「でもさ、軍人の身分を伏せたついでに本名も伏せて偽名で、ってこともありえるんじゃない?」


ミラの言葉にハッとする。そうだ、どうしてそんな単純なことに気がつかなかったのか、この村はどの国にも属さない完全中立の立場。そんなとこに国の軍が入り込むのにはどんな理由であれ良い顔はされないだろう。少しでも本人の情報、身分がバレる原因になりうるものは伏せたのだろう。


「グレスリーさん、よろしければ最も最近宿泊したこの団体の使用した部屋を見せてはいただきませんか?」


ラザァはグレスリーやついてきていた農家の女性にミラとの会話内容を悟られぬように問いかけた。もう既にここを出た後だとしても何か手がかりが残っているかもしれない。


「うむ、別に良いですぞ。女将さん、ここは私が案内しておくのでどうぞ店の事をなさってて下さい。」


グレスリーは特に気にする様子でもなく、立ち上がろうとしていた宿屋の女将を手で制止し、ラザァ達を手招きした。


目的の部屋は一階の端にあるらしく、三人はグイグイと廊下を進んでいく。途中から廊下の壁や床が新しくなり、後から増築したらしいことがわかる。


「その探していらっしゃる方々とはどういう関係で?」


グレスリーは振り向かずに問いかける。


「昔一緒に旅をしていた仲間達でして、レレイク周辺で待ち合わせをしていたのですが森に入ると連絡があったっきり音沙汰無しでして…」


なんとかそれっぽいことを並べる。変に突っ込まれるとガレン達の身分がバレて面倒になるかもしれない。


「そうですか…あっ、ここです。」


そうこうしている間に廊下の突き当たりに到着した。グレスリーは女将から受け取っていた鍵を取り出しドアを開ける。


部屋の中はいかにも安宿といった見た目で、ガレン達が雑魚寝しているのが目に浮かぶような何もない広い空間だった。最低限の家具が壁際にあるだけで他はただひたすら平面である。


「それでは用が済みましたら受付にいますので声をかけて下さい。」


グレスリーはそう言ってドアを閉めて部屋から出て行った。


「何か手がかりがあるかもって思ったんだけど…」


「手がかりどころか何もないわね…」


壁際の机を調べるが引き出しの中も空っぽで本当に手がかりなど何もない。地震対策なのか壁に机が固定されている以外はいたって普通の安宿である。


ミラも壁に寄せてある大量の布団をめくったりしているが収穫はなさそうだ。


「仕方ない、受付に戻ってとりあえず今晩はここに泊めさせてもらって明日に村を出てガレンを探そう。」


「なんか振り出しに戻った気分ね…まあ屋根付きの宿を確保出来ただけだいぶマシか…」


ミラはため息をつきながらスタスタとドアの方へ歩いて行きドアノブに手をかける。


「…ミラ?」


いつまでもドアを開けないミラに声をかける。


「開かない…」


「えっ!?」


「鍵がかけられているわ!」


ラザァも驚きドアノブに駆け寄りひねるがビクともしない。鍵をかけられているのは明白だった。


「なんか怪しいと思ってたらあの爺さんやっぱりなにかあるのね!」


「でもどうして…」


「理由なんて知らないけどさっさと蹴破ってでも出て問い詰めるわよ!」


そう言ってミラは跳び蹴りでもするつもりなのかドアの前に助走スペースを作る。


「ちょっとミラ!いくらなんでも…」


そこまで言ってラザァは息を飲んだ。飲んだという自主的な行動ではなく、飲まざるを得ないという方が正しいか。


ミラを少し落ち着かせようと言葉を紡いでいたラザァが言葉を失ったのはラザァの足元の床が突如消え、そのまま落下していたからである。


夜はどんどんふけていった。

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