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Schneiden Welt  作者: たる
第二幕
57/109

行き先

ダルク ローレンス率いるパイリア軍の捜索隊は騒然としていた。それもそのはず、最近何やら話題の事欠かないラザァがいなくなったからだ。よく見ればラザァにべったりの謎多き少女ミラの姿も見えない。


''' 2人の性格を考えるに何かしらの理由で感情的になったミラをラザァが追いかけて行ったと考えるのが妥当か。'''


リーダー ダルクの頭の中は部下たちよりもずっと落ち着いていた。短い期間ではあるが師弟のようにラザァと信頼関係を築き、パイリアを守る軍のトップ層としてミラを調べていたが故の分析であった。


ラザァはああ見えてかなり頭が回る。一月ほど前の爆弾テロ事件の時も頭脳戦のみでテロリスト達と渡り合ったと聞いている。そのラザァが自分やエリダにも声をかけずに追いかけて行ったのだ、きっとそれ相応の理由があるのだろう。


ダルクもラザァの単独行動自体にはそこまで腹を立てたりはしていなかった。ラザァが軍人ならば厳罰ものではあるが彼は違う。


だが問題は恐らく彼らが向かった先が異変が起きていると言われている目的地、レレイクだということだ。寄せられた数少ない情報とダルクの知恵、経験を合わせて考えるとレレイクにはこれまでには確実になかった何か大変な事が起きている。龍でもあるミラはともかくラザァはまだそこまで強いとは言えない。敵が人間ならば問題ないが敵が人間でなければラザァの得意技の心理戦や頭脳戦も役には立つまい。


もうすぐ付近を探索させている兵が戻ってくる。もしそこでラザァ達の手がかりがなければその時は…


'''悪い方向に予定変更して早めにレレイクに突入しよう。'''


ダルクは握りこぶしをつくり、その時を待った。







「ねえミラ?」


「何?」


「本当にこっちの方向で合ってるの?」


「ええ、例の村は丁度レレイクの中心にあるの。」


何やら不穏な空気の漂うレレイクの中をラザァとミラは進んでいた。目的地はレレイクの中で唯一人が住んでいるという小さな名も無き村だ。案外ガレン達がいるのではないかという期待と通信機器を求めて目指しているところなのだが案内役のミラがあまりにも早足なのでラザァとしてはやや不安の残る行進である。


「それならいいんだけど…でも森の風景が変わるって…そんなことこの世界でもあることなの?」


当たり前だがラザァの故郷、というか世界全体ではあるはずもない出来事だ。


「んー、別に起きないことではないわね。森の木々にだって意思はあるんだし気まぐれで枝の向きを変えたりなんかはよくあることよ。それに木々を統率している存在がいる場合とかもね。」


そんなさも当然と言った口調で答えられても困る…


「じゃあ今回のこの僕らを帰そうとしない森はどうな意思が働いてるのさ?」


森は明らかに森から出る方向に進んでいるときのみ風景を変えている。木を伐採でもしなければ出る事は難しそうだった。


「それがわかれば苦労しないわよ。それなら相手の意図に乗っかって進んで見れば何かしら状況は変わるでしょ。」


「恐れ知らずだね…」


「いざとなれば木を焼き払ってでも出ましょう。」


「本当にやりかねない口調だから怖いよ…」


そう言えばミラは龍の姿の時は火を吐けるんだった。ヒルブスの地下牢の檻を一撃で大破させる威力もあるわけだし森ごと焼き払うもの容易そうなのが怖い。


「その時はラザァを背中に乗せてあげるわよ。」


嫌に真剣な顔で考え込んでいるラザァにミラが冗談めいた口調で話しかけカラカラと笑う。


「お手柔らかに頼むよ…ってあれ?」


「んっ?どうかした?」


「よく考えたらミラが龍の姿で空飛べば出られるんじゃない!?さすがに木も上まで伸びてはこないよね!?」


なんでこんなことに気がつかなかったのか。そりゃあミラが自分の龍の姿をよく思っていないのは十分承知であるが、森の中で遭難して最悪のたれ死ぬ事を考えればやむを得まい。


ラザァは期待の顔でミラを見た。


ミラはどこがバツが悪そうに頭を掻きながら小さな声で話し出す。


「えーと、そのことなんだけれどね?実は私、自分の意思で変身する事が出来ないのよ…すっっっごく頭にきて正気を失いかけた時とか命を危険を感じた時しか変身できないの…」


「…そうだったのか…」


これで1つ可能性が消えた。確かにラザァはミラが変身する瞬間を一度も見ていないのではっきりとはわからないが何かきっかけがなければ変身できないのだろう。昔路地裏で刺客と一戦交えた時にもミラは自分で気がつかないうちに目が赤く染まっていたし自分の意思で制御できないのは本当らしい。


「その…ごめんね。」


ミラはもじもじしながら上目遣いで謝る。普段の気が強いイメージからは大分違うのでドキリとした。


「別にミラが謝ることじゃないよ。っとなるとやっぱ奥に進んで村に行ってみるしか方法は無さそうだね。」


「…そうね。もうそろそろだと思うんだけれど。」


気を取り直してスタスタと進む。前に行ってた通り、ミラがいると魔獣が寄ってこないのは本当らしく、スイスイと進むことが出来た。


「そう言えば希少種って生まれつき自由自在に変身できる訳じゃあないんだね。」


もっと便利な感じかと思っていた。


「ええ、希少種として生まれたら大体親が大人の希少種探してきてコツとか教えてもらう事が多いらしいわね。私の場合は孤児院の近くに希少種がいなかったらしいし、あいつの家に来てからはそんな待遇受けるはずもなかったしね。」


「そっか、その…先生がいないのは辛いかもだけど、もしレレイクの事がひと段落したら練習とかしてみない?僕の剣の練習の間とかにさ。」


ラザァとしてもなぜかどこへでも付いて来るミラがラザァの下手くそな剣の練習を退屈そうに見ているのは気を使うのでその間にでもと思った次第だ。


見るとミラは意外だったのかポカーンとしている。


「ええっと!まあ、そういうことなら別にいいわよ。ただ眺めているのも退屈だし!」


「なら決まりだね!」


そう言うとラザァはつい故郷の時の癖でハイタッチしようとして見事に空振りをする。


ミラはジト目で「って、何してるの?」とか言ってる。


「これは僕の故郷では…」


「あっ!」


解説をしようとした矢先にミラの大声に遮られる。


見るとさっきまで見渡す限り木しかなかったのが目の前が開けていた。

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