日常の終わり
「ガレン達の連絡が?」
「うむ、2日前からの、定期的によこしてた連絡が途絶えたのじゃよ。部隊全員が連絡手段を持っておるのにこれはさすがに何かあったのじゃろうて。」
時はローレンスとの出会いの3日後、場所はパイリア城のオードルトの一室だ。
理由も告げられずにラザァはここに呼び出され、来てみれば部屋にはダルク ローレンスとユヤ オードルトが神妙な顔つきでいた。
そして告げられた内容はこうだ。
最近生態系に異常が見られるレレイクの調査を行っていたガレンとその部下達からの連絡が途絶えた。…っと
「遠くに行きすぎて電話出来ないだけとかではないんですよね?」
ラザァ自身もこの世界の通信機器にそこまで詳しいわけではないがお世辞にも発達しているとは言い難い。据え置き式の大きい電話ならともかく、持ち運び用の小型電話は音も悪いし街中でもたまに切れることがあるくらいだ。
あまりいないとされる魔法を使える人は念話といって頭の中で他人と会話ができるらしいが、魔法使い同士しかできないため一般的ではない。
「軍用のそれなりの電話じゃからの、それにレレイク程度ならいつも使えておるのじゃ。やはり何かあったと見るべきじゃろう。」
「数年前に通信機器を狂わせる虫の魔獣が現れた時も連絡が出来なくなりましたがあれはノイズが酷いけども通信自体はできましたからね。今回は別の要因かと。」
隣で話を聞いていたローレンスが口を開く。
「それで僕は何を…」
ラザァも報告を受けるだけに呼び出されたとは考えていなかった。何かしら指示のようなものがくるのではないかと。
「さすがはラザァじゃ、察しが良くて助かるの。」
オードルトがニヤリとする。
「私との実技の訓練はまだだったな、どうせならより実践的な環境で鍛えたい。」
口を開いたのはオードルトではなくローレンスだった。
「実技…」
「うん、それでだ。私がこのガレン レスフォード部隊の捜索の指揮を取ることになった。その道中に君を同行させて実技訓練も同時に行いたいのだがどうだろう?異民対策保護局の仕事が本格的に始まる前に済ませたいのだが。」
異民対策保護局とかそのまんまな名前だがわかりやすいし採用したい。それはさておきローレンスの提案はラザァにも魅力的だ。
好奇心旺盛とよく言われ、裏山の草木や昆虫を見るのが大好きな幼少期を過ごした身としてはパイリアを出て森に行くというのはなんとも言えない嬉しさだ。行方不明になってるガレンには悪いが。
ただし問題らしいのが1つだけある。
「是非とも行きたいんですが…」
「なんだい?」
「他に誰か一緒に行くのはダメですか?もちろん軍の仕事なんで簡単に着いていくわけにはいかないんでしょうけど…」
「ああ、あの娘か…」
ローレンスは少し考え込む。ミラの正体や生い立ちなどを城はどの程度把握しているのかラザァもわからないが。
「彼女1人なら問題ない、君もこちらには知人が少なく心細いだろうしな、それに彼女も。」
「ありがとうございます!」
意外とあっさりオーケーが出た。
「それじゃあ決まりじゃな、出発は明日の朝じゃ。」
2人のやり取りを見ていたオードルトが口を開く。そこでラザァはふと浮かんだ疑問を口にした。
「ところでレレイクにはどうやっていくんですか?」
「陸路だな。軍用の車を出す。」
「陸路で車ですか…」
ラザァはてっきり魔獣が引く車に乗るとか、龍の背中に乗るとかもっとファンタジックなものを想像していたのだが思いの外普通な移動方法だった。
「時間はかかるが、ある程度の人数を載せられる飛空挺が全て東の方へ出払ってるんだ。仕方ない。」
飛空挺がどんなものなのか気になるがローレンスの性格を考えて深く追求するのは避けておいた。
「わかりました、明日の朝ですね。それまでに荷造りしておきます。」
「うん、食料などは軍持ちだから大丈夫だ。」
そのあと少しばかり受け答えをした後ラザァはオードルトの部屋を出た。
ついにパイリアの外を深く探索できる時が来た!
はじめにこの世界へ来た時はすぐにミラとエリーに出会いパイリアに連れてこられ、バザロフのテロ事件に巻き込まれたのでパイリア外に出歩くのは実質はじめてのようなものだ。
ラザァの中ではガレンへの心配や、ミラに説明することよりも生まれながらにして持った好奇心が大きかった。
よくも悪くも、ここからラザァのパイリアでの平和だった日常は終わりを告げることになる。




