2人のパイリア探索 その2
時は昼下がり、場所はパズーム国の大都市、パイリア城を取り囲むように栄えるパイリアだ。
ラザァとミラはパイリア城の独身寮を出て街中へ向かっている最中である。独身寮はパイリア城から山の方へ少し離れたところにあるため町の中心部からは少し離れている。自然やら野生動物が割と好きなラザァとしては独身寮の立地には大満足である。
隣を歩くミラはなんだかんだで楽しそうだ。初めは案内は面倒臭いとかグダグダ言っていたのだがいざ外に出ると機嫌が良くなりラザァよりも歩くのが速いくらいだ。
もっとインドアなイメージだったのだが、ヒルブスから解放されたことの影響なのかもしれない。
ラザァは自分で勝手に納得して心の中で頭を縦にふる。もっともミラのこの上機嫌の理由は他にあるのだがラザァが知る由もなかった。
それにしても
薄着のミラと狭い空間に2人きりという状況を脱すれば少し落ち着くかと思っていたのだが誤算だった。目の前を歩くミラは現在そのきれいで長い銀髪をポニーテールにしているため白いうなじが丸見えだ。それに日差しが暑いのか時々シャツでパタパタと仰いでいるのも中々な破壊力がある。
ラザァが勝手に悩んでいるとミラが突然立ち止まり振り返った。
「どうかした?」
「えっ!?何が?」
「ラザァってばさっきから浮かない顔で私の方を見ていることが多いから。」
ミラが小首を傾げてラザァを見る。小首を傾げた事で前髪が動き、隠れていた片目もあらわになる。その整った顔で凝視されるのは見事に逆効果だった。
「別になんでもないよ、暑いから少し元気ないだけかな。」
ラザァは顔を背けながら苦しい言い訳をする。でもこれなら顔が少し赤いのも誤魔化せるしとっさの言い訳にしては上出来だ。
「確かに暑いものね、倒れたりしないでよ。」
ミラは疑う様子もなく同意する。ミラもかなり一般常識や人間関係には疎いから想像もしなかったのだろう。
「うん、引っ越し初日からミラに担がれて帰宅なんて真っ平御免だ。」
「私が運ぶ前提なのね…」
軽口を言い合える関係になってることに軽く感動しつつラザァは街中目指して歩いて行った。
「この時間の市場は混んでるわね〜」
色々考えた結果初めに市場を回ることに決めた2人は早くも大混雑に巻き込まれていた。獣人や人間がごった煮状態で人種のなんとやらも真っ青だ。
「ちょっと!ミラ歩くの早いよ!」
「ラザァが遅いのよ!」
「あっ!2人とも!こっち!こっち!!」
ラザァとミラがくだらない事で言い合ってると隣の方から元気な女の子の声がした。2人の共通の知人など片方の手の指だけで足りるほどしかいない。
エリシャ ウィズ
通称エリーがラザァ達を見ながら手を大きく振っていた。肩ほどまでの金髪が太陽によく映えている。おしゃれな今時の女の子といった風貌のエリーは街中で見ると恐ろしいまでに風景に馴染む。カフェなんかバックにするともはや絵画にしたいくらいだ。
「あっ!エリー!」
ラザァも手を振る。エリーはこちらへ歩いてきていた。
「2人揃ってお出かけ?私が知らないうちに随分と仲良くなったじゃない!」
エリーがこのこのーとラザァを突っついてくる。ミラも人混みをかき分けながらやってきた。
「あっ!ミラ私が選んだ服着てくれてるんだ!ありがとっ!」
「ええっ、まあね…」
ミラの今日の服装はエリーが選んだものらしい。どうりで今風な見た目だと思った。
「そっか〜あのミラがね〜」
エリーはミラとラザァを交互に見ながらしみじみとつぶやく。
「ラザァ!今後もミラをよろしくね!」
「う、うんっ…って何が!?」
「エリー?早く行こうよー」
ラザァ達がイマイチ噛み合わない会話をしているとエリーの背後から声がした。見るとミラやエリーと同い年くらいの女の子が2人、手にアイスクリームのようなお菓子を持ちながら立っていた。
「あっ!ごめんね!ちょっと待ってて!」
エリーが振り向き、手をあわせる。
「もしかして、彼氏!?ごめんね!邪魔して!」
女の子2人はラザァを見て盛大に勘違いをしたらしく光の速さで人混みに紛れて見えなくなった。
「ちょっと!違うってば!ちょっとー!」
エリーはもう見えなくなったが人混みに向かって叫ぶ。
「ごめんね、僕のせいで友達に勘違いさせちゃって。」
手を虚空に伸ばしたままのエリーに恐る恐る声をかける。
「あれくらい別にいいわよ、女の子は恋の話とか大好きだから。あれっ?ミラったらまた消えた?」
「そういえば…」
ミラというとエリーの友達が出現した途端にどこかに隠れてしまった。対人関係は相変わらずのようだ。
「まあ、いつものことだしね。さっきの話だけど半分くらい本気だからね。ミラってあんな感じだからさ、そばで支えてあげてね。」
エリーがいつになく真剣な表情で見てくる。ミラのほぼ唯一といっていい親友としての心からのお願いなのだろう。ラザァは無言で首を縦に振る。
エリーは満足そうに微笑むと「じゃあね!」と手を振りながら友達2人を追いかけて行った。
「あっ!いたいた。」
ラザァはしばらく歩いて市場を抜けたところにあるテーブルや椅子が並ぶ恐らく食事をするための広場で1人で退屈そうに座っているミラを見つけると隣に座る。
ミラはラザァをちらりと見ただけで無言だった。ラザァもミラのこういう一面は理解しているつもりなのであえて口に出すことはしなかった。
ミラを縛り付けていたアルバード ヒルブスは現在逮捕され、パイリア城に幽閉されている。だがミラの根本的な悩みの種は何1つ解決していない。
ミラには古龍の血が流れており、自在に龍に変身することができる希少種と呼ばれる存在だ。普通の獣人と人間のハーフでさえ珍しいとされるのだ、希少種は普通は過剰に祭り上げられるか忌み嫌われる事が多く、どちらにしろ本人が精神的に参ってしまい人目を避けて暮らさざるを得ないというのが現状だ。
ミラはそれに加えて古龍だ。
ラザァもバザロフの一件が解決してから数日の間に色々とこの世界について学んだのだが、確かにミラは特異中の特異な存在だ。
まず龍と人間の混血など長い歴史を調べても一度も存在したという記録がなかった。ましてや龍の中でもかなり珍しいとされる古龍種だ。ミラが受けてきた眼差しとそれによって他人に不信感を抱くようになってしまった事など容易に想像できる。
恐らくラザァと出会う前、エリーしか心を開いている人間がいない時からもこうして生きてきたのだろう。常に他人の目線に怯えながら。
ミラのその凍てついた心は恐らくだがとても脆い。ミラを支えるというのは想像以上に難しい仕事らしい。
「その服ってエリーが選んだんだね。そういえば初めて会った時に来ていた銀色の服もエリーが選んだやつ?」
髪色と同じだったので印象に残っている。
「あれは違うわ、魔法具の一種よ。」
「魔法具?」
確かこの世界でも魔法は珍しい存在だったはずだ。実用的なレベルの魔法を使えるのは全人口の1割に満たないと聞いた。
「あれはなんて名前なのか忘れちゃったけれど希少種専用の魔法具よ。変身した後の体毛とか鱗から作られる服の事なんだけど。変身した後の身体に自在に取り込まれることによって、変身から戻っても服が全て破けて裸になるって事態を防げるのよ。」
「なるほど。」
確かにミラも変身していた時は体長6メートルを超えてきた。普通の服なら変身したら全て破けてしまうだろう。それを防ぐための特殊な服らしい。
「パイリアだと1店だけ魔法具をオーダー出来る店があるわね。私のは物心ついた時から持ってるから誰が作ってくれたのかわからないけれど。」
「変身しなくて済むならそれに越したことはないけどね。」
ミラが変身しなければならないなんて余程身に危険が迫った時だろう。
「…そうね。」
ミラは顔を上げ、ラザァを見つめると微笑みながら言った。
「さあ次はどこ行く?」
時刻は午後3時といったところだろうか。




