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Schneiden Welt  作者: たる
第一幕
38/109

Schneiden Welt

「ええっと、元気にしてた?」


さっそくラザァはコミュニケーション能力の低さを露呈させた。


「えっ!?ええ、まあ。」


ミラもその質問は予想してなかったらしく驚いている。


会話が途切れ、2人の間に気まずい沈黙が流れる。


違う、こんな事じゃないのに。ミラには聞きたい事、話したい事がたくさんあるのにどう切り出していいのかわからない。


「「あのっ!」」


2人が同時に同じ言葉を言う。


「あんたからでいいわよ。」


「いや、ミラから言ってよ。」


「…わかった。」


ラザァの真剣な口調にミラが口を開く。


「あんたさ、いつから気がついていたの?」


ミラもさっきまでより断然真剣な口調になる。そして口から出てきたのはそんな言葉だった。


「気がついていたって何に?」


本気でわからなかったため聞き返したが、ミラは煽りか何かと勘違いしたのかやや口調を荒げる。


「私の正体によ!あんたあの時私の名前を呼んだじゃない!なんでわかったのよ…」


そこまで言われればラザァにもわかる。


そうか、やはりあの龍は…


「…本当にあの時に気がついた、いや、わからないけど口が勝手にミラの名前を呼んでいたって言うべきなのかな。確信はしてなかったけれどね。」


実際なぜあの時龍をミラだと思ったのか今でもわからない。本当に無意識のうちに、心の奥底で龍にミラの姿を見たのだ。


「そんなことってあるものなのかしら。納得できないんだけれど…」


そう言うミラの表情はどこか暗く、悲しげだった。


「でもよかったよ。」


ラザァの言葉だ。


「よかったって何が?」


ミラが全くわからないといった様子で聞き返す。


「僕もあの時は確信してなかったけれど、もしミラが本当に龍だってわかったらミラに今まで通り接することができるか不安だったんだ。でも大丈夫だった。今こうして普通に接する事が出来てる。ミラはたとえどんな姿をしていてもミラだ。」


ラザァの言葉を聞きミラが驚き、顔を少しだけ赤くする。


「あんたってどうしてそんな事をポンポン言えるのよ。おかしいわよ、ずるいわよ。」


ミラが俯き、ボソボソと呟く。


「本当はね、あんたに正体がばれたからお別れのつもりで来たのよ…でもそんなこと言われたらさよならしにくくなるじゃない…」


ミラが涙声で呟く。


「あんたも見ての通り、私は古龍と人間のハーフ、それも希少種よ。世界に他に同じ立場の人を見た事もない。そんな化け物なのよ。」


「そんな…化け物だなんて…」


「この呪われた身体のせいで孤児院のみんなは殺されたのよ!そしてヨランダまで…それが化け物じゃなくてなんなのよ!あんたに隠し事していたのは悪いと思ってる。でもそうするしか無いじゃない…」


ミラの涙声が酷くなる。


「本当の姿の私なんてどこからも必要とされていないのよ!必要としているのはあいつみたいな悪党だけ、だから正体に気がつかれたからお別れに来たって言ってるじゃない!」


「僕が必要としている!!」


ミラの声をかき消すようにラザァは柄にもなく声を荒げた。ミラが驚いたように口を開けてラザァを見つめる。


「僕がミラを必要としている!龍?だからなんだってのさ!ミラは龍の姿の時でも僕とガレンを助けてくれたじゃないか!それにあの時言った事覚えてる?僕のパイリア観光を案内してって、それにさ、聞き耳立ててたなら僕がよくわからないけど偉い人になったこと知ってるよね?」


ミラが呆気にとられたようにラザァを見ながら小さく頷く。


「まだ名前も決まっていないような機関らしいんだけど、僕はパイリアも、この世界のこともまだほとんど知らないんだ。だから、だからこれからも僕を助けてよ。僕がこの世界に来て困っていた時みたいに。」


「その機関で働いて僕を助けてくれないかな?これからずっと。僕の側で。僕にはミラの力が必要なんだ。」


その時ミラの目に大粒の涙が溢れ出した。


「えっ!ごめん!何かまずいこと言った!?そのっ!ごめん…」


「違うのよ!そんな言葉を面と向かって言われたの初めてだから嬉しくて…」


ミラが涙を拭きながら言う。


「いいの?私なんかでいいの?普通の人間じゃないし、無愛想だし、エリーみたいに明るくて優しくもないよ?あんたに隠し事してたよ?そんな奴雇って大丈夫なの?」


「うん、まあこれからは隠し事は止めて欲しいかな?」


「そう…それなら簡単に解雇なんてさせないからね?私だってもう住むところもなくなっちゃったしずっと居座るわよ、本当にいいんだよね?」


「ああ、いいよ。これからもよろしくね。」


「ええ!」


ミラは差し出されたラザァの手を掴み、硬く握手をした。


2人の世界が、居場所が交わった音がした。そんな気がした。




それから数日は色々な事がありつつも平和に過ぎていった。


ラザァが目覚めたその日の午後にガレンが見舞いに尋ねてきた。全身包帯だらけで痛々しい格好ではあったが元気そうでラザァも安心した。


ガレン曰く今回の働きで大きく昇進して城内部の勤務で部下も大量にできたらしい。「これでアズノフを見下せるぞー!」とか言っていたがどうやらアズノフもヒルブス確保の功績で昇進したらしく結局2人は同格ということでガレンのぬか喜びに終わった。


ガレンはラザァの異民関係機関責任者(仮名)就任に驚きつつも祝ってくれた。ミラがラザァの部下第1号と聞いてなんとも複雑な顔をしていたが「まあ、あいつには世話になったしな。」と言って落ち着いたらパーティーするとか言いながら医務室を出て行った。


結局のところガレンはミラの正体を正確に知っているのかわからない。


まだラザァ周りの人間関係が完全に整った訳ではないということか。




次にラザァを訪ねて来たのはエリシャ ウィズ、通称エリーだった。


1人だったガレンとは違い、若い男の護衛官らしい人物とお手伝いさんのような見た目の少女、ラザァと同年代くらいの少女を連れているあたりさすがいいとこの一人娘だ。


エリーは今回の件で父親レオン ウィズが逮捕された事を話してくれた。そしてそのことでやや家にも家計的なダメージがあり、そこで働く人たちも何人か解雇しなければならない事を。


「そこでさ!なんか押し付けるみたいになっちゃうのが嫌なんだけど。ラザァって何か偉い人になったんだよね?」


「偉い人って訳でもないと思うけどね、一応なんか城の部署の責任者になったよ。」


「この子、ヘレナ、ヘレナ ユスティアって言うんだけどその機関の侍女として雇ってくれない?」


エリーはそう言うと後ろでおどおどしている少女をラザァの目の前に突き出す。


天真爛漫なエリーや、どこか幻想的な雰囲気を纏っているミラと違い、ヘレナはラザァがパイリアで出会った女の子の中で最も普通な女の子と言った見た目だった。肩までの軽くウェーブのかかった茶髪と茶色の目を持つ。小柄な女の子だった。


「ヘっ!ヘレナ ユスティアです!よろしくお願いします!」


ヘレナはそう言って頭を90度以上も下げる。


「うん、突然だけどよろしくね。」


ラザァも頭をさげる。


「ちなみにこの人はお城から直々にそっちに配属になるらしいわ。ラザァってもしかして既に城の偉い人と仲良くでもなったの?」


エリーが怪訝な顔で後ろの護衛官を指差す。護衛官はラザァよりわずかに歳上くらいだろうか。金髪の爽やかな好青年といった風貌だ。


「そんな知り合いはいないと思うけど…よろしくお願いします。」


「ウェルキン ホービス護衛官です。この度はラザァ フラナガン殿の警護を命じられました!何でも申しつけ下さい!」


ウェルキンは裏返るギリギリの声で言う。その様子がどこかおかしくてラザァとエリーが軽く吹き出すとウェルキンは顔を赤らめていた。ヘレナはどうしたらいいのかわからずおどおどしていた。


「そう言えばさっきここから出てくるミラに会ったけどあなた何かあの子に言った?妙に幸せそうな顔してたけど?」


ヘレナとウェルキンが1度帰ってラザァとエリーだけになった時にエリーが聞いてきた。


「ミラと会ったの!?どうだった?」


「どうだったのって言われても…変に締まりのない顔してた以外はいつものミラだったわよ。どうかした?」


エリーが怪訝な顔で聞いてくる。


エリーがミラの戦う姿を見て怯えていたので2人の関係に亀裂が入っていないか心配だったのだがどうやら杞憂に終わったらしい。詳しい事は分からないが2人の関係はあの程度では壊れないくらい強固なものだったということか。


「そうか…よかった…」


「よかったって何が?何言ったのよ!?」




その後は事情聴取としてアズノフと、エリダ ギスレットという名前の若い女兵士が訪ねて来た。


2人ともガレンの知り合いということでこの役目に抜擢されたらしい。


ラザァは2人にヒルブスの屋敷と地下道、そしてバザロフと戦った橋の上での出来事を余すことなく話した。


今回の件でエリーの父親とヒルブスが逮捕された事を告げると2人はヒルブスの事情聴取があるからとさっさと医務室を出て行った。





意外な訪問者と言えばあの古道具屋の主人の爺さんだ。


なんとラザァの予感通りバザロフからの刺客をへんな発明品で撃退したらしい。


どこからかラザァの居場所を特定し、訪ねて来たというわけだ。


だがラザァにあまりにしつこく異世界の話を聞こうと迫ったせいでウェルキンにつまみ出されてしまった。


あの日バザロフの部下に襲撃された人間はどうやらみんな無事だったらしい。なんだかんだでラザァを安心してくれた訪問者だった。




ラザァが普通に歩けるようになってからはガレンに案内されながらも城の中を探検したりしていた。


異世界の城だけありラザァの好奇心を刺激する退屈させない時間だった。


ラザァが医務室で目を覚ましてから数日後。明日にはもう普通の生活になると言われていた。ラザァのパイリア城滞在の最終日である今日。オードルトがラザァのパイリア城への就職祝いと退院祝いと事件解決のお祝いとして城の1室でパーティーをしてくれるらしい。


ラザァはまだ早かったがパーティーにはミラと一緒に行こうと思っていたので城の中をミラを探して徘徊していたところだ。


電話は医務室にあるのだが肝心のミラが持っていないため歩いて探すしかない。そもそも城にいるのか怪しいのでラザァも段々疲れてきた。


「さすがお城だな〜広過ぎるよ。ガレンに案内頼めば良かった…」


なんども似たような廊下を行ったり来たりしていたので息も上がり始めている。いつの間にか人気のない廊下に来ていた。


「あいたっ!」


ラザァが曲がり角を曲がった瞬間、何かにぶつかり倒れる。


「こら!一般人がここにいたらダメだろ!帰った帰った!」


「すみません!」


見ると武装したパイリア軍兵士だった。基本的に城内部の兵士は制服だけでこんなに銃などを持ってはいない。特別な部隊か何かなのだろうか。


ラザァが立ち上がり埃を払っていると兵士の後ろにいる小柄な老人と目が合った。白髪を後ろで束ねた腰の曲がり掛けたおじいさんだ。


この人の護衛か何かかな?そう考えるとどこか威厳の感じさせる風貌に見えてくる。


オードルトの知り合いかもしれないからこのあと聞いてみようかな。


ラザァがぼんやりそんな事を考えながら立ち去ろうとすると後ろから声がした。どうやらその老人の声だ。


「そうか、君がか…」


「えっ?」


振り返ると老人が微笑みながらラザァを見つめている。


「あれはお前の手に負える存在じゃないぞ、覚悟しておくが良い。」


老人の微笑みがやけに恐ろしい。背中が凍りつくようだ。


「あなたは…?」


「こらっ!ヒルブス!無闇な他人との接触は禁じられていると言っただろう!行くぞ!」


老人の後ろにいた兵士が老人の背中を小銃の銃口で突っつく。兵士2人と老人はすぐに歩き出し、廊下を曲がって行った。その時の老人の、いや、アルバード ヒルブスの口に浮かんだ笑みをラザァはいつまでも頭の中から消し去ることができなかった。




「あっ!ミラ!ここにいたんだ!」


しばらく廊下に立ち尽くしてようやく正気に戻ったラザァが城のベランダの1つでミラの姿を見つけた時の言葉である。


ミラが聞こえているのか聞こえていないのか振り返らないので隣まで歩いていき並んで景色を眺めた。


ベランダからはパイリアが一望できた。自然とうまく調和した綺麗な都市だ。塀の向こうにはラザァとミラの出会った森が見える。今もあそこには龍が飛んだりしているのだろうか。


「あんたの守った景色よ、誇らしいでしょ?」


ミラが顔の向きを変えずに言う。綺麗なストレートの銀髪が太陽の光を浴びて輝いていた。


「本当に綺麗だ、早く道とか覚えて色々見て回りたいな。」


「そう言えばあんたパーティーとかあるんじゃなかった?行かなくて大丈夫なの?」


ようやくラザァの方を向いたミラ。なぜか少しだけ大人びて見える。


「うん、だからミラを探してたんだ。」


「えっ!?どうして!?」


「どうしてって…ミラも今回の功労者じゃないか、それに僕の就職祝いならミラの就職祝いも同時にやろうと思ってさ。」


「…あんたって本当に一貫してるわね。周りからは変な目で見られるだろうけど、あんたがそう言うなら行くわ。」


ミラが呆れたように言った。ミラの中でのラザァの評価が気になるところだ。


「じゃあもう行こうか!なんでもガレンが面白い料理見せてやるって息巻いていたんだ!」


「それ大丈夫なの?それとちょっと待って!」


「何?」


言葉を切り、俯きがちで小声になり始めているミラに聞く。


「あんたが私を名前で呼ぶのに私があんたって言うの変じゃない?だから、その…私も名前で…ラザァって呼んでもいい?」


「なんだ、そんな事か、うん。むしろそっちの方が嬉しいかな。」


ラザァの言葉にミラが少し赤くなる。


「そんな事って、私には結構重要なことなのよ。それじゃあ行きましょう!ラザァ!」


自分で名前で呼んでおいて直ぐに恥ずかしがるように赤くなるミラがなんだか可笑しくて思わず笑ってしまった。


ミラも「何よ」と頬を膨らませていたが直ぐに釣られて笑っていた。


「それじゃあ行こうか。」


一通り2人で笑いあった後、2人で回れ右して城の中へ戻る。


ラザァはふと頭に浮かんだ懐かしい言葉をぼそりと口に出す。


「Schneiden Welt」


「えっ?何?」


「僕の世界の言葉。schneidenは交差するって意味で、weltは世界って意味。さすがにこれはこっちで通じないのか。なんだか自分の境遇考えてたら言いたくなっただけ。」


「交差する 世界 なるほどね、ラザァがこれから何とかしていかないと駄目な事じゃない。そう考えると大役任されたものね。」


「まあね、よしっ!パーティーなんだし食べるぞ〜」


「ラザァって意外と食い意地張ってるのね、まあ私も食べ物が一番の楽しみなんだけど。」


そう言って再び2人で並んで歩き出す。


ラザァがオードルトがパイリア議会の最高議長と知って仰天する少し前の出来事だった。




第一幕「パイリア爆弾テロ事件」Fin

ついに第一幕「パイリア爆弾テロ事件編」完結です!本当にありがとうございました!


すこし休んで幕間の日常エピソードやって第二幕を始める予定ですので是非今後もシュナヴェルをよろしくお願いします!


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