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Schneiden Welt  作者: たる
第一幕
35/109

地上へ

「くそっ!金具をいじってやがる!簡単には外せないぞ!時間が…」


全速力で走行を続けるトラックの荷台の上でガレンが悪態を付く。既に起爆可能状態に入り、時間制限までついている爆弾の起爆装置を調べてのことだ。


爆弾は起爆装置さえ止めるか、本体から取り外せば爆発しないので取り外そうとしたのだがややこしい固定方法に変えられていたらしい。ちなみに爆弾の起爆装置の構造や解除などラザァもガレンも専門外もいいとこなので却下だ。


「どのみちあと10分と少しで起爆装置が起動するらしいけどそれまでに間に合いそう?」


起動装置に取り付けられた時計はあと12.3分ほどで爆発することを示していた。トラックが地上に出て、それなりに走行することが可能な時間だ。このスロープの出口がどこに繋がっているのかは不明だがそこそこの距離を移動できるだろう。バザロフはそれなりに標的を選べるということだ。


「やってみないとわからないが…この揺れで手元も狂いそうだし厳しいだろうな、やはり地上に出るまでの間に多少リスクはあるが衝撃を加えて金具を壊すしか…」


「出来れば使いたくない方法だけどね、地上に出してしまえば最悪バザロフは自爆するだろうしね、今のうちに危険な橋は渡っておくべきかな。」


今までのバザロフの部下は皆自爆覚悟で任務を行っていた。ボスであるバザロフが、それもテロの最終段階で自殺を躊躇する理由がない。やはり地上に出る前に解除するしかないのだろう。


「銃があればなあ…ここからタイヤでも撃って強制的に止めるのに…」


生憎とラザァ達はナイフくらいしか武器を持っていない。ポケットにあった手投げ爆弾もトラックに乗り込む時に落としたらしい。


ガレンが文句を言いつつもナイフの柄を下に向け、金具に叩きつけようとする。


その時、トラックの車体が大きく横に揺れラザァ達は危うく振り落とされそうになる。2人ともトラックの荷台の縁に捕まることでなんとかその場に止まった。


「バザロフの奴、俺らが乗ってることに気がついて振り落しにきやがった!」


トラックはなおも荒っぽい運転を続け、さらにスピードを上げてきている。縁に両手で捕まっているうちはなんとか振り落とされないだろうがそれだと金具を壊すことが出来ない。


「僕がなんとか助手席に移動してバザロフの妨害をするよ!」


トラックの側面を伝っていけばなんとかたどり着けるかもしれない、奴が運転に集中できなくなればなんとか…


「やめろ!いくらなんでも危険すぎる!!」


「でもこのままだと…」


このままだとジリ貧だ。それに既に前方から月明かりが見え始めている。あと1分もせずに地上だ。なんとかしてトラックを止めなければ…


「おい、ラザァ、なんか聞こえないか?風の音に紛れて…」


「えっ?」


ラザァも耳をすます。トラックが風をきる轟音に微かに他の音が紛れている。地面を鳴らすような轟音が…ラザァが地下道で聞いた咆哮が…


「もしかしてあの龍!?」


ラザァが後ろを振り向く。明かりもなく真っ暗なはずのスロープの奥にぼんやりと銀色が見える。そしてそれはみるみるうちにこちらに近づいてきた。


ラザァ達が地下道で遭遇し、結果として蛇龍から助けてくれた銀色の羽毛に覆われ、銀色の翼と4本の手足、そして燃えるような赤い眼を持つ龍が超低空飛行でこちらに向かってきていた。


「まずい、あいつが火でも吐いたら俺ら一貫の終わりだぞ!」


ガレンが龍へ何か投げつけようと周りを見渡すが生憎と小さいネジが転がってるだけだ。


「多分だけどあの龍はそんなことしないと思う。前も僕らを助けてくたじゃないか。」


ラザァ自身何故こんなにも簡単にあの銀色の龍を信じているのかわからない。信じなければやっていられないという深層心理の表れなのだろうか。


「そんなこと言ってもなあ…って地上に出るぞ!!」


ガレンが叫ぶとほぼ同時にトラックはスロープを抜け、地上へ出た。


ラザァが初めて見る深夜のパイリアだ。


スロープを出たところは閑静な住宅街といった様子でまわりに特に大きな建物があるというわけではなかった。二階建てくらいの建物が密集しており、トラックは広い道路を走っていた。そしてスロープを出たすぐのところに川があったらしく、どうやら今は大きな橋の上を走っている。街灯も少なく、月明かりが最大の光源である。


「まずいまずい、この場で爆発するだけでも民間人に凄まじい被害が出るぞ!高い建物が無いからこの爆弾の長所が最大限に生かされちまう!」


ガレンが慌てふためく。


その時だ、今までラザァ達の後ろを飛んでいた銀色の龍が地上に出て空が開けたので急に上空に舞い上がったと思うとすぐに急降下してラザァ達の、つまりトラックの目の前に着地する。


さすがの歴戦の覇者のバザロフもこれには面食らったらしく明らかに動揺してハンドルを大きく切る。だが突如目の前に現れた巨体を全速力で走行していたトラックが避けられるはずもなかった。


「捕まれえええええええ!」


ガレンの叫びとほぼ同時にトラックは龍にぶつかり、そして飛び上がっていた。


トラックが空中で横になるのを感じる。そしてそのまま地面を叩きつけられるのを感じたところでラザァは意識を手離した。




瞼をゆっくりと上げる。どうやら気絶していたらしい。ほんの数秒だけだと信じたい、なにせ時間が…


そこまで考えてハッと起き上がる、そうだ、起爆装置の時間は最後に見た時点で10分を切っていた!


その時ラザァの眼に飛び込んできたのは短針も長針も真上、12時を指している時計だ。ラザァがさっきまで見ていた時計だ。


!?


ラザァの頭の上に浮かんだ文字だ。


よく見ると起爆装置が先ほどの衝撃で爆弾から離れたらしい。時計自体は生きていてそのままタイムリミットを迎えていたらしいが。


慌てて周りを見渡す。まだ全身が叩きつけられたように痛いが。


まず真っ先に目の前に飛び込んできたのはトラックにぶつかり、そのまま倒れている銀色の龍だ。


龍は蛇龍との戦いでついたと思われる咬み傷の他に先ほどの衝撃での打撲のような跡も見える。その目は閉じられているため生きているのかわからないが龍があれくらいで死ぬとは思えなかった。


トラックは横転しており、荷台の端から火が出ていた。燃料が漏れている気配は無いためすぐ爆発ということはないだろう。


そしてラザァからだいぶ離れた場所にガレンが倒れていた。こちらもピクリとも動かないため安否が心配だ。


そして一番気がかりなものはトラックから数メートル離れたところに倒れていた。


起爆装置を失った金属製の樽のような物体。パイリアへ使われようとしていた大型の焼夷爆弾だ。


ラザァは爆弾から何か漏れたりしていないか確認しようとふらふらと近づき、爆弾だけでないことに気がつく。


バザロフが爆弾のすぐそばに這いつくばっていた。そしてその左腕は手首から先が爆弾の下敷きになっている。爆弾の下から大量に血が出ているところをみる限りかなり酷い怪我をしているのだろう。


この怪我でしかも腕が挟まり身動きが取れないのだ、自殺さえさせなければ生きたまま逮捕でもなんでもできる。もうバザロフは無害と言っていいだろう。


ラザァがお人好しの面目躍如とばかりにまだおぼつかない足で倒れているバザロフへと近づく。


「そうか、起爆装置自体は生きているのか…そうか…」


バザロフが不気味な笑みを浮かべる。腕を潰されてなお、その顔にはパイリアへの深い憎悪とテロへの執念が浮かんでいた。


「それを爆弾に再接続すればその瞬間に爆発するのだな…なるほど…」


バザロフは残り時間0を指している時計を見やる。


「お前…」


ラザァがそのバザロフの態度に恐怖を覚えだしたその時だ、バザロフの右手が高く掲げられ、その先端では金属が鈍い光沢を上げていた。


バザロフはその右手を迷うことなく左手に振り下ろした。


ラザァはつい目をつぶってしまった。これから見る光景が予想できてしまったからだ。


ブシュッという何か液体が吹き出す音とともに金属が地面に叩きつけられる。


「なんて奴だ…」


ラザァは自由を得て立ち上がったバザロフへ向かって呟く。自ら左腕を肘のあたりから切断したバザロフへ。


バザロフは血の吹き出す左腕を抑えながら横転したトラックに近づくと傷口を炎を突っ込んだ。


バザロフの顔が苦痛に歪む。


バザロフは左腕を炎から抜き、傷口が完全に焼けて血が止まったことを確認すると再びラザァの方向へと向き直った。


その間にもバザロフを攻撃する機会はあったのだろうがラザァは自らの腕を切断したことと、その強引な止血方法にあっけにとられ何もすることができなかった。


「まあいい、お前らなど腕一本でもいい。」


バザロフが挑発したような笑みを浮かべながらラザァへ血塗れのナイフを向ける。自らの血が滴るナイフを。


「ユヤ オードルトを始末することは叶わなくなったがな、その代償はパイリア市民数百人の命をもって代えさせてもらう!そして…」


バザロフはラザァへ向けていたナイフをゆっくりと下ろす。


「そして、手始めにお前ら3人の命から奪わせてもらう。我々を邪魔した報いだ。」


バザロフは言い終わるが早いかその手のナイフをトラックの前で倒れている銀色の龍の脳天へ向ける。いくら龍が強い生き物でも頭蓋を割られて生きていられるとは思わない。


そして龍は依然として目を閉じていた。


バザロフがゆっくりと狙いを定めるようにナイフを高く持ち上げた。


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