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Schneiden Welt  作者: たる
第一幕
33/109

乱入

""""助けて!""""


ラザァの心の叫びは声にならず、頭の中で虚しく響く。


「この野郎!こっちだこら!!」


大蛇の後ろからガレンが今まで持っていた小銃に加え、倒れていた兵士から取り上げた小銃を構え、二丁で大蛇に銃弾の雨を浴びせる。


大蛇は甲高い鳴き声を上げ、再びガレンの方を向く。


致命傷は無さそうだが体に無数の弾痕と先ほどの爆発で受けた火傷のような跡があり、見た目はかなり痛々しい。片目を潰され怒り狂う大蛇はラザァとガレンをどちらから始末するか考えてい最中なのだろう。


ラザァはようやく体に力が入るのを感じると、そろそろと立ち上がる。まだ声は出せないが。


その時再び大蛇がラザァの方を向く。余程ラザァから殺したいらしい。


ガレンが小銃を向けるが尻尾に狙われて回避に専念しているため中々攻撃できていない。


まずい、今度こそ殺られる!


まだ走るのなんて無理だ、大蛇は舌を出しながらラザァへ着々と迫る。



ラザァが死を覚悟したその時だった。



ラザァの視界の向こう。つまりガレンの背後から凄まじい咆哮が聴こえたかと思うと何か巨大なものが突進してきた。


その巨体はガレンをラザァの背後まで思いっきり吹き飛ばすと、大蛇の背中に飛びついた。


大蛇が悲鳴を上げ、地面をのたうちまわる。


ラザァはガレンに駆け寄り、起こすと地面で取っ組み合いになっている大蛇を見る。


大蛇の背中に噛み付いているのはもう1匹の龍だった。


だがその龍の姿は今までラザァが見た二体のどちらとも似ても似つかない姿をしていた。


その龍は全長6メートル程度だろう。尻尾の長さが正確にわからないのでもっとあるかもしれない。目立つのはその身体だ。全身は鱗ではなく銀色の羽毛に覆われ、4本の手足に加えこれまた銀色の巨大な翼を持っていた。目は燃えるような紅色で、鼻の穴と口から火花を散らしているところから牢屋の檻を破壊した犯人なのだろう。


銀色の龍は自分の3倍以上もある蛇龍に臆せず立ち向かい、取っ組み合いを続けている。銀色の龍は爪と牙を使い蛇龍に傷をつけているが、蛇龍が上手く体をくねらせているせいで喉や頭などの急所へダメージを与えることができずにいる。


蛇龍は不意打ちを受け背中に大きく傷を作ったものの立ち直り、今はその牙で嚙みつきつつ、胴体で絞め殺そうと巻きつく機会を狙っている。


「あの銀色、古龍か!?なんでもありだなこの屋敷!!」


ガレンが立ち上がりながら叫ぶ。


「でもおかげで助かったよ…あの龍が来てくれなかったら今頃僕は…」


「あの古龍、まさか…まあいい、今のうちに先に進むぞ!」


蛇龍の目にはもはやラザァ達は写っていないだろう。目の前の強敵との戦いに血沸き肉踊っている最中だ。


「本当にあの龍のおかげなんだけど、そのせいで道が片方潰れちゃった…」


気がつけば言葉を話せるようになっていたラザァ。2匹の龍が絡まり合っているため元々ガレンのいた道は通るのは難しそうだ。


「ああ、癪だが仕方ない。道もあいつらの横を通るなんて酔狂な真似はしたくないからこっちへ行くしかないもんな。」


ガレンが何故か言い訳口調で同意する。そしてすぐに回れ右をすると暗い地下道を進み始めた。


ラザァはガレンに続こうとしてふと立ち止まり、また後ろの2匹の龍を見る。


形勢は互角かやや銀色の龍が有利といったところだろう。手足がある分だけ相手を牽制しつつ攻撃を繰り出している。


頑張って!


ラザァは無意識のうちに内心で銀色の龍にエールを送ると先に走り出したガレンの後を追った。何故そんな事を思ったのかラザァ自身よくわからないままに。



「今聞くことなのか迷うんだけどさ、魔法ってこの世界にあるんだよね?」


ラザァは気になっていたことを口にする。


「ん?ああ、ちょっとした事程度でいいなら結構使える人はいるぞ。タバコに火をつけたりとか、玄関先の埃を掃除したりとか。」


「本当にちょっとした事だね…テレパシーというか人の考えている事を読むことってできるのかな?」


ラザァは先程頭の中で助けを呼んだ直後に都合よく銀色の龍が現れラザァ達を助けた事を思い出した。


「そのレベルだと使える人はかなり限られるんじゃないか、俺の知ってる人だとオードルト最高議長くらいしかいないなぁ、まああの人はハーフだし何でもござれなところがあるし。なんでいきなりそんな事を聞くんだ?」


「いや、僕が声が出なくて頭の中で助けを呼んだらその直後にあの銀色の龍が現れて僕達を助けてくれたからもしかしたらと思ってね。でもやっぱり勘違いだよね、龍だし。」


テレパシーのような力があってもあの龍と意思疎通ができるとは思えない。勘違い、偶然だと片付けようとした。


「いや、あながち勘違いでもないかもしれんぞ、古龍は他の龍に比べて格段に賢い。人間よりも高い知能を持つ種だってたくさんいる。それに…」


「それに?」


「それに…しっ!」


ガレンは立ち止まると壁に張り付き耳をすませる。気がつけばもう後ろから龍同士の戦いの音は聞こえなくなっていた。それが遠く離れたからなのかどちらかが息絶えたのかは知る余地も無いが。


「おい、お前も聞いてみろ、これ車のエンジン音じゃないか?」


ガレンの手招きに誘われラザァも壁に耳を当てる。確かに規則的な振動音が微かに聞こえる。注意深く聞けばその方向もわかりそうだ。


「うん間違いなさそう!というか前から思ってたけどこの世界の人たちって耳とか目とか良すぎない!?」


全くミラとかミラとか身体能力が人外にもほどがある。


「お前らが悪すぎるだけだよ、この地下で車のエンジンふかしているなんて間違いなくバザロフ達の爆弾輸送車だろう。こっちだ!行くぞ!!」


どうやら既に方向まで理解したガレンが走り出す。もう外は深夜を回ったくらいだろうか、ラザァの異世界生活も3日目に突入というわけだ。


この戦いの最終決戦の地へとラザァ達は向かった。




ラザァ達が地下でさまよっているころ、パドラ区のとある建物の一室でユヤ オードルトはため息をついていた。


ため息の原因は目の前の書類。エリダに手渡しされた頼んでいた調査の報告書だ。


「つまり、今回のテロリストに機密事項を横流ししたのはウィズ警備隊長という事になりますね。」


まだ若き女性兵士 エリダ ギスレットが困惑したように口にする。彼女の調査でパイリア警備の最高責任者レオン ウィズの一人娘のエリシャ ウィズが何者かに誘拐された後、町の小さい病院で怪我の手当てを受けている事が分かったのだ。怪我の原因は銃という物騒なもので、誘拐されたと思われる時間や護衛官の殺された手口から見ても犯人が今回のテロリストなのは一目瞭然だった。そしてそれをネタにレオン ウィズから警備計画を聞き出した事も。


「娘さんを助けるために他になかったのじゃろうか…わしに何か一言でも相談してくれれば力になれたかもしれぬのに…」


オードルトの顔には信頼していた部下に娘のためとはいえ裏切られた事と、相談してくれなかった事への深い悲しみが浮かんでいた。


「エリダ、ありがとう。ホービス護衛官!共に来てくれぬか、レオン ウィズ警備隊長を拘束し、その任を解く。」


オードルトはすぐ側にいたまだ若い金髪の青年に声をかける。


まだ配属になったばかりのウェルキン ホービス護衛官は「はっ!」と裏返るギリギリの声で返事をして敬礼する。


その初々しい様子にオードルトとエリダがクスクスと笑うのを見てウェルキンは顔を赤くした。




「ウィズ警備隊長。少しよろしいですか?」


レオン ウィズの部屋にオードルト、エリダ、ウェルキン、それと用心棒という名がぴったりな厳つい見た目の大トカゲ男 ヨットルド ギグがぞろぞろと入ってくる。


侍女のヘレナからお茶を貰っていたレオンはその様子を見て全てを悟り、静かに席を立つ。


「さすが最高議長、思ってたより何倍も早かったですね。」


何がなんだかわからず戸惑うヘレナに「大丈夫だから、この人達のいう事をよく聞くんだよ。」と言い、オードルトの前に歩いていく。


「残念じゃ」


オードルトが深い悲しみを浮かべた目でレオンを見つめる。


「私もです。最高議長。娘のためとはいえあなたを裏切った。」


レオンは深々と頭を下げた。彼よりも階級の低いオードルト以外の人間が居心地悪そうにする。


「わしが残念なのは、お主が裏切った事よりも、その事を一度もわしに相談しなかった事じゃ。そんなにわしが頼りなかったかの?」


「そっ!それは…」


オードルトの予想外の言葉にレオンが絶句する。そして何かを悟ったように


「そうですね、あなたはそういう人でした。私としたことが忘れていました。」


ユヤ オードルトは自分を裏切ったような人間の心配をするようなお人好しなのだ。その荘厳な雰囲気で勘違いされやすいが彼に近しい人間ならば彼が誰よりも他人思いな人なのは知っている。組織の上に立つ人間としてはよくないことなのだろうが上手く両立しているのがオードルトが一番尊敬されるべき点なのだろう。


差し出されたレオンの両手にウェルキンが手錠をかける。


「もし私が罪を償ったその後、あなたさえ良ければまた語り合いたいものです。」


「わしは初めからそのつもりじゃぞ。」


長年共にパイリアを守ってきた盟友の会話に入れないでいる若者へとレオンが言葉をかけた。


「さあ、連れて行ってください。どうかパイリアを、パイリアを守ってください。奴らの好きにしては駄目です。」


パイリアを守り続けたレオン ウィズの警備隊長としての最後の言葉だった。




ウェルキンに連れて行かれるレオンの背中を見つめながらオードルトがヨットルドの肩を叩く。


「レオンの穴はダルクに埋めてもらう。もちろん臨時的に、じゃがの。それとわしの推理が正しければテロリストに力を貸しているやつが分かった。至急ダルクかキーフの部隊を向かわせて欲しい。」


「はっ!」


ヨットルドはすぐさま走り出し、臨時的に設置されているテロ対策の本部の部屋へと駆けて行った。


「やつが黒幕だとすると少々やっかいな事になりそうじゃのう….」


オードルトの独り言はパイリアの夜へと消えていった。丁度日付が変わった頃の出来事である。朝まで寝れなさそうだ。

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