表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Schneiden Welt  作者: たる
第一幕
32/109

暗闇の地下道

ラザァ達が走っている地下道は等間隔で電球がぶら下がっているため明かりには困らなかった。それにところどころ火災が発生しているのかぼんやりと明るく足元には困らなかった。


ラザァ達が走っている間にも地下道には断続的に爆発音や銃声、悲鳴が響き渡っていた。何者かとバザロフの部下との戦いは続いているらしい。


「とりあえず走ってるけどバザロフがどっちに向かったか当てはあるの!?」


ガレンに問いかける。バザロフが立ち去った方向へ向かっているだけだ。現状は分かれ道は無いがいつ分かれ道に突き当たるかわからない。その時どうすればいいのか。


「当てなんて無い!だがあいつらはヒルブスの屋敷の地下道からパイリア全域へ張り巡らされた地下水道へ出て、そこを使って爆弾を標的まで運ぶはずだ!」


「地下水道は基本的に家屋の地下室よりも下に造られている。下へ向かう道を探せ!」


ガレンは「もっともヒルブスの地下道が特別製で地下水道より下に無ければな」と付け加える。


「地下水道ってことは水が流れているんだよね、それならここよりも下にあるとみて間違い無いんじゃ無いかな。それに賭けるしかないか。」


そうこう言ってる間にも早速目の前にT字路が見えてきた。まずはどちらも少しずつ覗き標高が下がる方を選ばなければ…


ラザァがそんなことを考えていると目の前にガレンが飛び出しラザァを止める。


「何…」


「しっ!静かに!」


ガレンは口に指を当て、曲がり角に張り付き気配を伺う。そして手にしていた小銃を逆さに持った。


ラザァも息を潜めてガレンの様子を伺う。


その時曲がり角から2人の人影が飛び出し、すぐさまにガレンが小銃の背面で思い切り殴りつける。


人影がぐうっというカエルの鳴き声のような音を出してその場に倒れこんだ。


「やった!」


「よしっ!行くぞ!」


2人は倒れている男を乗り越え、暗い、暗い地下道を、進んで行った。




「ねえ。」


「何だ?」


「もし例の大型爆弾をもし確保したとしてさ、それってさっきのやつみたいに解除出来ないとかないよね?」


走りながらラザァは恐れていたことを聞いてみる。もしそうならラザァ達は自ら危険な場所に飛び込んでいることになる。もっとも地下から運び出される前に運び出せば市街地への被害は抑えることが出来るだろうが。


「俺が報告書で見た段階なら爆弾に取り付けられている起爆装置さえ外せば爆発しないはずだ。鋼鉄製だから衝撃で爆発することはないだろうしな。それにあれは起爆して可燃性の液体を撒き散らすことで最大限の威力を発揮する代物だ。もし引火とかしても爆弾周辺の火事程度で済む。」


「それじゃあ爆弾までたどり着いてその起爆装置さえなんとかすればテロは阻止出来るんだね。」


「ああ、シヴァニアはそこまで工業技術の優れた国ではない、さらに北のプロアニアとかならまだしもな。そんな国のテロリストがこの短時間で起爆装置を解析して改造することなんか出来ないだろう。そのまま使われると思っていいはずだ。」


「バザロフ達を裏で助けていたヒルブスには爆弾を改造する技術無いかな?」


ラザァも実際に会ったことはないがミラやガレンの話のせいでラザァの中でのヒルブスは万能の悪の化身のようになっている。


「うーん、無いって言い切れないがあいつはどちらかというと武器、麻薬の密売や密入国の手助け、それとフリークショーやら殺し合いみまいな非人道的な見世物の開催を専門にしていた節があるからな。工業的な技術はそんなに無いと思う。」


ガレンの非人道的な見世物という言葉を聞いて今は隣にいないあの銀髪青眼の愛想の無い少女ミラのことを考える。彼女は大丈夫だろうか。優しさを素直を表現できないあの不器用な少女。


この戦いはパイリアを守るものでもあるがミラ自身の戦いでもある。


むしろラザァにとってはよくわからない異世界の都市よりも、異世界で右も左も分からないままのラザァを文句言いながらも助けてくれた少女への恩返しとしての戦いだ。


どうか無事でいてくれ。そしてこの事件が終わったら元の世界に戻るまでの間にパイリア観光の案内でも頼もう。


ラザァがそんなことを考えていると突如立ち止まったガレンの背中に正面から激突する。


「あいたたた…何かあったの?」


ラザァはガレンの広い背中からひょいと顔を出し息を飲んだ。



血、血、血、血、血、血、血、血、血、血



目の前の廊下一面血の海だった。


足元を見るとラザァの靴も血に染まっていた。


数にして10人、いや、ほとんど人間の形をとどめていない死体もあるので正確にはわからない数の人間の死体かそこに横たわっていた。


みんな重装備で恐らくバザロフの部下達だろう。壁や床に弾痕が残り、空の弾倉や薬莢が散らばっているとこからここで戦闘になったのだろう。


そしてみんな殺された。


血の量が多いのは首や顔を噛み砕かれたような死体のせいだろう。腹を食い破られ内臓が溢れている死体もある。


その凄惨な光景にラザァは具合悪くなり隣の壁に寄り掛かる。


そこで手にねっとりと血がこびりつきそれに驚き倒れこむと目の前には切り落とされた腕があった。


「うわあああああああああああ!!」


すぐに向きを変え、その勢いで胃の中のものを全部吐き出してしまった。ほとんど胃の中にものがなかったのか、胃液のようなものも出てきて心底気持ち悪い。


「お前にはこれはキツイな…正直俺も見たく無い…」


ガレンが顔をしかめ、比較的状態のいい死体を調べる。


「爪?いや、牙か。この狙い方とかさっきからあちこちでズルズルうるさい事を考えると蛇龍か?」


ガレンは壁に残る血の鱗の模様を調べて呟く。


蛇龍は龍の中では割とマイナーな種類で飛龍や水龍、獣龍、鳥龍に比べると見かけることは少ない。確かに暗くてじめじめしたところを好む種類が多いがパイリアの地下に生息しているなど聞いたことも無い。それを考えると


「ヒルブスが飼っていたのか?でもなんで野放しになってる?」


「ヒルブスがバザロフを見限って始末するために地下にその化け物を放ったとか?」


ようやく立ち上がったラザァ。


「ヒルブスはあんな強力なガスも持っているんだ、生き物なんかに頼らなくても地下道にガスを流せば済む話だ。だとすると…」


「「飼われていたのが逃げ出した。」」


ラザァとガレンが見事にシンクロする。


「でもなんで、逃げ出さないように檻とかは用意していただろうし。」


ガレンもこの地下道の檻は体験済みだ。蛇龍を閉じ込めておくならそれなりの用意はしていただろう。


「ねえ、ガレン。その蛇龍も僕たちと同じかもしれないよ。」


ラザァは考えられる限り最悪の想像を口にする。


「というと?」


「僕たちと同じくあの爆発で檻が壊れ、蛇龍が逃げ出してバザロフの部下達と戦闘になった。」


「でもそれだと…」


ガレンの顔が青ざめる、ラザァの言いたい事に気がついたのだ。


「うん、蛇龍より先に地下道で野放しの怪物がいる。それも炎を吐いたりして檻をも破壊するとんでもない怪物が。」


「この屋敷で何が起こっているんだ?」


ガレンが半ば呆れたように唸る。



ズルズル



その時だ、ずっと響いていた嫌な音がラザァ達のすぐ近くで響いた。すぐ近く。本当にすぐ近くだ。


すぐ近く、いや


真上だ!


「ガレン!危ない!!」


ラザァはガレンに飛びつきそのまま2人で床へダイブする。血のせいでよく滑り、想像以上に遠くまで滑った。


その直後、さっきまでラザァ達が立っていた場所に黒光りする柱が立っていた。


いや、柱なんかじゃない。


そいつは黒光りする胴体をくねらせるとゆっくりと地面から顔をもたげた。


暗闇に2つの黄色い目が浮かび上がる。


そいつは舌をチロチロと出したかと思うとニタリと笑うように口を大きく開けた。ラザァやガレンなら丸呑み出来そうな大きな赤い空間が見える。


この場でテロリストの集団を皆殺しにした大蛇がラザァ達の前に姿を現した。


先に動いたのはガレンだった。


ガレンは持っていた小銃を大蛇の口目掛けて放つ。大蛇は天井にスルスルと戻りそれを難なくかわす。


そこでラザァは天井を見て大蛇の全身に唖然とした。


どういうわけか天井に張り付いているその巨体はゆうに20メートルを超え、太い部分など直径60センチはある。全身を黒光りする鱗に覆われ、頭部や尻尾にはイボのような棘が生えている。さっきちらりとしか見ていないが牙の長さは30センチはあった。


「詳しい種類まではわからんが、毒はないが全身の筋肉が発達している蛇龍だ。軽く巻きつかれるだけで身体中の骨を折られるぞ。」


ガレンは小銃の弾倉を交換しながら言う。


ラザァも手にしていた拳銃を向けるが正直心もとない。命中してもあまり効かない気がする。


「ガレン、戦って勝てる相手だと思えないんだけど。」


「俺もそう思う。だが逃げて逃げ切れる相手だとも思わない。」


2人はそう言いつつもジリジリと後退する。背中を向ければ恐らく一瞬で背中から食い破られるだろう。


ラザァ達とほぼ同じ速度で大蛇も天井を進む。力押しでも勝てそうなのにラザァたちが怯える様子を見て楽しんでいるかのようだ。


「ーーーーっ!」


大蛇がラザァ目掛けて大口を開けて突っ込んでくる。


間一髪で横に転がりながら避けるとすぐさま振り返り空振りした大蛇の頭へ弾丸を撃ち込む。


ピィーという甲高い鳥の声のような鳴き声をあげながら大蛇が振り返る。怒らせこそすれあまりダメージを与えられていなさそうだ。


「ラザァ!伏せろ!」


大蛇がラザァの方を向くとその背後からガレンが叫び、何かを投げつける。倒れていた兵士から取った手投げ爆弾だ!


ラザァはさらに後ろに跳びのきつつ地面に伏せる。血が体にべっとりとついて気持ち悪いがそんなこと言っていられない。


大蛇が大声に驚きガレンの方を見る。


その時だった、大蛇の体が爆風に包まれ、またしても甲高い鳴き声を上げる。天井に張り付いていた胴体部分が凄まじい音とともに地面に落ちる。ラザァは飛び散った血が目に入らないようにするので精一杯だった。


「やったか?目の前で爆発したのは確認したんだが…」


煙の向こうからガレンの声が聞こえる。


大蛇の巨体は動かない。背中と思われる部分に爆発でついたと思われる生々しい傷が見え、テラテラと血を流し光っている。


ラザァも血の海から体を起こし、大蛇を注意深く見る。もちろん拳銃を構えながらだ。


その時、1つの黄色い光が浮かび上がる。


「まずっ!!」


ガレンの短い言葉とともに大蛇がピクリと動いた。


大蛇はその棘の生えた尻尾を1度顔に近づけたかと思うと一気に体を回転させた。強大な遠心力を得たその尻尾はまず目の前のガレンの胴体を捉え大きく吹き飛ばした。


ラザァがガレンの行き先を見届ける前に尻尾は半回転してラザァに迫り、そしてラザァの腰に命中する。


「があああっ!」


自分でも驚くような歪んだ声とともに大きく吹き飛ばされる。


ラザァは廊下のほとんど端、T字路になってるところまで吹き飛ばされ、壁に叩きつけられ止まった。


骨折していてもおかしくない激痛がラザァを襲う。背中を強くぶつけ、肺に衝撃を与えたせいで声が出ない。


吹き飛ばされた2人の人間の内、大蛇の目標になったのはどうやらラザァの方だったらしい。倒れるラザァの目にはズルズルという音と共にラザァへ向かってくる大蛇の姿が映る。


片目から血を流し、怒り狂うその黄色い目が不気味に輝く。1つの目を失ってなおその威圧感は失われていなかった。むしろ増している。


見ると拳銃もナイフも吹き飛ばされたらしい。5メートルほど先に落ちていた。


遠くでガレンが地面を這い、小銃を回収しようとしているのが目に入る。


ダメだ、間に合わない。いや、間に合ってもあの武器ではこの大蛇に勝てない。


ラザァはポケットに手投げ爆弾を持っていたことを思い出し、それを取り出す。


もしかしたらラザァが丸呑みされて体内で爆発させればダメージを与えられるかもしれないと思い。今日出会ったテロリスト達の最後を思い出す。


テロリストに影響受けた死に方なんてまっぴらごめんだな。


ラザァは迫ってくる大蛇を眺めながら自分の考えに苦笑した。


怒り狂う大蛇が迫る。


""""助けて!""""


声を出そうしても打ち付けた体は依然として言う事を聞かず、頭の中に響くだけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ