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Schneiden Welt  作者: たる
第一幕
31/109

男達の闘い

「今戻った、首尾はどうだ?」


ラザァ達の牢屋からアジトにしている地下の広い空間戻ったバザロフはトラックの周りにいる数名に声をかけた。


「バッチリです、これでいつでも起爆出来ます。それと輸送先ですがこの先のスロープの奥にある分岐で車に乗ったまま市街地に出る事も出来ます。パドラ区の空き家に行くかどうかは最終的に大佐が決めて下さい。で、あいつらはどうしました?地下に閉じ込めてある蛇龍に丸呑みにでもさせましたか?」


バイソン男のダニが笑いながら言った。


このヒルブス邸の地下には蛇龍や小型の火龍、魔獣が多数飼われている。血に飢えたそれらは主に捕虜と戦わせ観戦などの非人道的な遊戯に用いられていた。それもヒルブスの裏での資金稼ぎの1つではあったのだが。


もちろんダニが言うように処刑の道具として利用されていたこともあるのだろう。事実バザロフが見た時には龍の檻の中に明らかに人間の服らしいものが落ちていた。


「いいや、遠隔操作の爆弾の罠で味方に殺させることにした。それにしても…」


バザロフはダニと大トカゲのリブを見ながらそこで一度言葉を切った。


「人質を蛇龍に食わせるとは、現役時代のお前なら間違いなく言わなかったぞ。これがテロリストに身を堕とすということなのか…」


バザロフはそこで大きくため息をつき、宙を仰ぐ。その目はどこか遠く、過去を見つめているのだろう。


バザロフ、ダニ、リブ。


この3人はシヴァニアがまだ国家の体を成していた時代からの盟友、いや、戦友だ。数々の死線をくぐり抜け、痛みや悲しみを共に乗り越えてきた友だ。


シヴァニア敗戦後は反パズームの過激派として暗躍し、中でも戦時中に猛威を振るったパイリアを第一の標的とした。その過程で軍人時代なら絶対にやらなかった卑怯な手段を用いたのも一度や二度ではなかった。


「そっ、それは…」


ダニが言葉に詰まる。


「まあ、それは俺も同じだ。さあ、パイリアに目に物を見せてやるぞ。」


バザロフは過去を断ち切るように力強く呼びかけた。


「お前らよく聞け、ついにこの時が来た!我々の居場所を奪い、裕福な暮らしを送るパズームへと一太刀浴びせるのだ!まずはこのパイリア、パイリアのボス、ユヤ オードルトの首を取る!」


「我々がパズーム国民を殺してたころで故郷は戻らない、だがわかっているだろう!?たとえその先に死しかなくとも!我々はシヴァニアの誇り高き軍人だ!国のため!故郷のために命を捨てろ!」


バザロフはトラックの周りにいるダニ、リブ、他に自爆覚悟で目標に突っ込むトラックの運転手や護衛を鼓舞するように演説をする。誰もが皆無言で聞き入っていた。


「信念のためにテロリストなどという不名誉な事も言われた!だがここで一太刀でもパズームに浴びせることが出来れば今のシヴァニア内からも我々に続く勢力が立ち上がるだろう!我々がその一歩、礎となるのだ!」


「さあ、国のために死ね!」


バザロフのその言葉に一斉に周りが沸き立つ。全員が命を捨てる覚悟なのは一目瞭然だった。中には涙を流す者もいる。


「良かったですよ。さっきの言葉。」


後ろに下がり、椅子に座っているバザロフの隣に酒の入ったコップを持ったダニが腰掛ける。


「なあ、ダニ。」


「なんです?大佐。」


「俺はもう大佐じゃないぞ。俺は正しかったか?あいつらを死地に追いやってるんだぞ。」


バザロフは沸き立つ部下達を眺めながら、どこか虚ろな目で尋ねた。結果として自分の演説が原因で死ぬ者は多いだろう。家族がいるものも少なくないはずだ。


「最善策ではないかもしれないですね、まあ、そんなの終わってみないとわからない事ですが。ですがあなたがいなければあのアルバード ヒルブスの協力を取り付けてパイリア軍から爆弾を強奪することなんて出来ませんでした。あなたが国にした事はもっと誇ってもいいと思いますよ。さあ、乾杯です。」


ダニはバザロフにコップを押し付け、1人で乾杯する。


「ああ、お前は昔から変わってないな、そういうところ…」


バザロフは何か吹っ切れたように笑うと一気にコップの中をあけた。


「大変です!!」


その時アジトに1人の男が大声を上げながら駆け込んできた。


「どうした!?」


そのただならぬ様子にバザロフが立ち上がる。


皆の視線が1人の口に集まった。




「くそっ!なんて頑丈な縄だ!」


「こっちも全然切れないよ!」


地下牢ではガレンとラザァが必死に瓦礫を使って手首に食い込むロープを切ろうと躍起になっていた。苔が生えそうな古い瓦礫のためロープ切断は困難を極めていたところだ。


2人がここまで焦っているのはただでさえバザロフのテロ攻撃がそこまで迫っているのに加え、そのバザロフが牢屋に爆弾を設置していき、それがいつ爆発するのかラザァ達には全く予想もつかないからだ。


「ねえ、ガレン!」


「なんだ?俺は今忙しいんだ!」


「それは僕も同じだよ!さっきバザロフが言ってた事ってありえるの?僕のいた世界には魔石なんて概念すらないんだけど!」


バザロフの話し方から察するに魔石は遠隔起動するセンサーのような役割らしい。


「ああ、割と軍用の兵器には使われているぞ!高いからそんなに多用するものではないがな。つまりあの爆発はいつ爆発してもおかしくないってことだよ。」


ガレンはなんとか縄を切ろうと体全体をグネグネ動かしながら叫ぶ。悔しいが現役軍人の意見だ、信憑性は高いだろう。


「やった!」


そうこうしているうちにラザァの手首を縛るロープが切れた。


自由を得た両手で次は足首のロープを切りにかかる。両手が自由になったのは大きく、足首のロープもじきに切れた。


ラザァは完全に体の自由を取り戻すと未だに地面でゴロゴロしているガレンのもとに駆け寄りロープを切るのを手伝いだした。


「悪いな。」


2人がかりなのでガレンのロープも切れ、縛られていて赤くなっているところをさすりながらガレンが礼を言う。


「これって解除とかできないの?」


ラザァはくぼみからバザロフの残した小包のような爆弾をガレンの目の前に突き出す。


時限爆弾とは違うのだろうがこの手の爆弾は爆発を解除出来るのが定番だろう。


ガレンが慎重に周りの布を取ると中から鋼鉄製の缶のような物が出てきた。表面はのっぺりとしていて、特に電線や時計などはついていない。


「だめだ!解除出来ない一度セットしたら使い捨て前提みたいなタイプだこれ、しかもこの金属製のボディ、爆発の威力の他に金属の破片で攻撃する殺傷能力がバカみたいに高い奴だぞ!あいつら本当に何者だよ…」


爆弾の予想以上の恐ろしさにガレンも恐怖とかは通り越して呆れている。


「それじゃあ解除はできないんだね…それだと爆発する前にここを出るしかないのか…」


そう言うとラザァは牢屋のドアとそこについているゴツい鍵を見る。間違いなくちょっとやそっとの衝撃では壊れないだろう。


泥棒みたいに針金とかヘアピンで開けることが出来ればいいのだがあいにくラザァにそんなスキルはない。


さっきの瓦礫のように使えるものはないのか。


ラザァは淡い期待を抱いて改めて牢屋の中を見てみるが残念なことにカビの生えた毛布くらいしかない。


その時だ、牢屋を出た廊下の奥の方。バザロフが立ち去った方向とは逆の方向から慌ただしい怒鳴り声と複数の足音が聞こえる。


かなりの人数でしかも急いでいるのか騒々しい。それに何やら金属製のものがぶつかるガチャガチャという音も響く。


「なんだなんだ?」


ガレンとラザァは顔を見合わせる。相手側に何かイレギュラーな出来事が起きたのか。あるいはもう爆弾を運び出すから壮行式でも行っているのか。


牢屋の檻から顔くらいは出せるだろうとガレンが檻に向かう。


その時だ。


先ほどから騒々しい廊下の先から地面を揺らすような明らかに人間のものではない咆哮が聞こえてきた。それと同時に男の悲鳴が廊下に響いた。


その後も何度も人間の悲鳴、断末魔の叫びが響き、断続的に爆発音や銃声が聞こえる。


暗い廊下が何度か点滅するように明るくなる。何かが燃えているのだろう。そして髪の毛が燃えるような嫌な臭いも漂ってきた。嫌でも何が燃えているのか想像できる。


「ラザァ!いいから俺がいいと言うまで動くなよ。」


ガレンは手でラザァに待機するよう合図をしつつ、恐る恐る檻から外を覗く。


「まずいっ!伏せろ!!」


そう言うが早いかガレンはラザァの方へ飛び込んできた。


その直後、廊下がまばゆい閃光に包まれたかと思うと檻が吹き飛んだ。


瞬間的に周りが火の海になり、呼吸が苦しくなる。ラザァは精一杯息を止め、煙を吸い込まないようにする。


爆発は一時的なもので、周りには毛布くらいしか燃えるものもなかったため火はすぐに消えた。


恐る恐る顔を上げると牢屋の檻が綺麗に外れて廊下に倒れていた。見事に黒焦げである。


いつの間にか悲鳴や銃声は止み、廊下はパチパチという炎が弾ける音だけが響いていた。


いや、何が去っていく気配がある。かすかにズルズルと地下の廊下を這いずり回るような嫌な音と共に。


目の前で伏せていたガレンと目配せをすると2人は警戒しつつ廊下へ出る。


余程凄い爆発だったのだろう。廊下は廊下と言うにはあまりにも破壊されていた。すべての牢屋の檻は外れて、壁が大きくえぐれている。


廊下の奥には血まみれで倒れている武装した男が何人か倒れていた。壁や天井に弾痕があるのを見ると彼らはここで何かと戦い殺されたと見るべきだろうか。そしてその余波がラザァ達の檻を破壊したのだろう。


「よくわからんが出られたな。バザロフを追うぞ!」


ガレンは倒れていた男からナイフと小銃、拳銃やら手投げ爆弾やらを回収し、一部をラザァに渡すとバザロフの向かった方向を睨む。


「うん。」


ラザァは走り出したガレンの後に続き走り出す。


バザロフの部下を皆殺しにし、牢屋の檻を破壊した怪物を想像しラザァの背中に悪寒が走る。


ラザァは手の小銃を強く握りしめた。


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