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Schneiden Welt  作者: たる
第一幕
30/109

地下牢(男性陣)

「あいたたたた」


ラザァは全身がジンジンとと痛む感覚で目を覚ました。


どうやら手と足を縛られて硬い床に転がされていたのが痛みの原因らしい。


周りを見ると薄暗く、石造りの小部屋だ。窓が全く無いデザインと、独特のジメジメとした空気から地下なのかと想像した。


「やっと起きたか。」


声のした方を見るとそこにはガレンがあぐらをかいていた。ラザァと同じく手足をロープで縛られている。


「ガレンも無事だったんだ、というか早く目が覚めてたなら起こしてくれれば良かったのに。」


「いやあ、あまりにも気持ちよさそうに寝てたからつい、な。」


「早寝早起きだったガレンには敵わないよ。」


「ぐっ!それを言われると情けなくも言い返せせねえ…」


皮肉には皮肉を返したらあっけなく降参され、ラザァのこの世界でのラザァの初勝利の歴史的瞬間だ。ちなみにミラあたりには口喧嘩等は出来ればふりたくない。


「ねえ、ところでここって…まさか」


「そのまさかだろうな、恐らくヒルブスの屋敷の地下牢だ。」


ラザァ達のいる部屋は三方を石の壁で囲まれ、もう一方は鉄の柵でドアと鍵が付いている。どう見ても牢屋の造りだ。もっともラザァも実物を見るのは初めてだし、そこに縛られて放り込まれるなどなおさらだ。


牢屋の隅にはカビの生えた毛布が一枚だけあり、もう片方の隅には以前誰かが脱走を企てたかのように壁が削れ、下にゴロゴロとした瓦礫が積み上げられている。


壁を削っていた人物の末路を想像してラザァの背筋寒くなる。


「まあ、意図せずともこうして目的地にたどり着いたんだ、良しとしよう。」


「ガレン、それ本気で言ってる?冗談でも状況がこれだし笑えないよ。」


「すまん。」


「それにしても…」


ラザァは周りをもう一度見渡し口を開く。ミラが見当たらない。


「ミラはどこに?僕が倒れた時はミラはまだ意識があったんだけど…」


「俺らを眠らせたのは効果の速さを考えると間違いなく軍用レベルのガスだ。あいつら爆弾だけじゃなくあんなものまで持っていたのか、とても富豪だからって片付けられる事じゃねえぞ。あんなのまともに吸ったら獣人だろうが魔獣だろうが龍だろうが意識を保てるとは思えん。あいつもどこかに捕まっているだろう。」


「もしかしてだけどもう既に…」


とりあえず共犯者ではあるが得体の知れないラザァとガレンはともかく、ヒルブス達にとってミラは裏切り者だ。見つかって即殺されてしまったかもしれない。その嫌な予感を聞かずにはいられなかった。


「わからん、人質取って軟禁するほど重要視しているあの子を簡単に殺すほどヒルブスもバカではないと思うが…正直なところ状況が状況だけに保証しかねる。」


ガレンもうーんと唸りながら宙を仰ぎ考え込んでいた。とりあえずまだ殺されてしまったと確定していないだけマシだろう。


そこまで考えると次はどうするかだ。ミラが同じ場所にいないというだけでラザァ達の脱出の可能性はぐっと落ちている。少なくとも力任せには確実に脱出出来ないだろう。


頭を使わなければ、ラザァ達は縛られて、そして牢屋に鍵付きで閉じ込められている。この2つをなんとかしなければ脱出は不可能だ。


それに時間もない、ラザァ達がどれくらいの時間気を失っていたのかわからないがバザロフがパイリアにテロ攻撃をしかけるまでそんなに時間的余裕はないだろう。


バザロフのパイリアへの要求などは予想もつかないがお城なんかある大都市がテロに屈するとは考えにくい。それに裏切り者がパイリア側にいるかもしれない事を考えられると軍や警察は時間稼ぎまでは出来ても解決は出来ないだろう。


やはりラザァ達でなんとかするしかないのだ。


ガレンが一定時間経っても帰らなければアズノフが信頼出来る部下を募って突入するといっていたがそれも危険だ。


ガスを撒き散らすだけのトラップ専用部屋なんか用意している家なのだ。他にも色々とトラップがあるに違いない。そして、アズノフはそれを知らない。


このままラザァ達が帰らなければ何も知らないアズノフとその仲間も犠牲になってしまう。


やはりどの面から考えても解決出来るのはラザァ、ガレン、そしてミラだけだ。


でもどうすれば?まずは手足の自由か。


手や足首に伝わる感触からラザァ達を縛っているのは普通のロープらしい、鉄製の鎖などではないのが救いだ。


「ねえ、ガレン、何か…」


「持ってないぞ。」


「まだ何も言ってないじゃないか…」


「いくらなんでも話の流れ的にわかる、ロープを切れそうなものなんて無い、持っていたがどうやら取り上げられたらしい。」


そう言ってガレンは首を横に振る。現役の軍人だけに手品よろしくどこかからかナイフでも出してくれるのを期待していたのだが敵も甘くは無いということか。


ならばそこらへんで利用出来そうなものを探すしか無い。改めて室内を見渡した。


瓦礫


瓦礫だ!


床に落ちてある瓦礫の中に先の尖ったものがあるかもしれない、それで腕のロープを切りさえすれば他はなんとでもなるだろう。


ラザァは瓦礫が落ちてあるところまで行くべく横になったままゴロゴロ転がりだす。正直親が見たら泣きそうな情けない光景だ。


「俺に冗談言うなとか言っといてなんの真似だ??地面に上げられたグランドフロッグの幼生のモノマネにしか見えないんだが?」


「微妙に嫌な例えしないでよ!なんかよくわからないなりに体がヌメヌメし始めそうな言葉だから!ロープを切るんだよ。」


ガレンに大声で突っ込みを入れた直後に周りに聞こえないように小声で意図を伝えたのでなんとも言えない感覚だ。


「なるほどな、なんで今まで気がつかなかったんだ。」


そう言うが早いかガレンもゴロリと転がると瓦礫目掛けて転がりだす。ちなみにラザァも依然として進行中だ。つまり


「「痛っ!!」」


見事にラザァとガレンの頭同士が激突する。ゴツンといういい音を響かせながら。


「いきなり転がってこないでよ!転がりながら急停止は難しいんだから!」


「すまん、つい…」


ラザァとガレンが全くもって緊張感の無い怒鳴りあいをしているその時、2人の背後から乾いた足音が響いた。


「随分と賑やかだな、ここが気に入ったのか?」


落ち着いているがどこか凄みのあるその声のする方を見るとついさっき出会った黒髪の顔に傷のある大男が立っていた。ラザァが気を失う直前に誰かうっすら勘付いた人物だ。


「イワン バザロフ…」


「異民の方にまで知られているとは、元軍人としては冥利につきる。」


パイリア軍から戦略兵器の大型焼夷爆弾を奪い、そしてそれを今まさにパイリアに向けて放とうとしているテロリストの黒幕、イワン バザロフは微笑みながら返事をしていた。その傷だらけの顔に不気味な微笑みを浮かべながら。


「お前がバザロフか、要求はなんだ!?」


ガレンが臆せずに食ってかかる、頭を押さえて床に転がっていなければ最高にかっこいい場面なのだが。


「異民が悟った事実すら察することのできなかったお前が軍人とは、パイリアも落ちたものだ。」


バザロフはラザァに対する態度よりも数段厳しくガレンに言い放つ、軍人ということに思うところがあったのかもしれない。


「要求はしたがな、こちらとしても呑んでもらえるとははなから思ってない、攻撃はどちらにしろ行なう予定だ。」


「じゃあ何のためにここに来たんだ?僕らを殺すためか?」


ここは何かしら情報を引き出さなければ、ラザァも必死に食いつく、あの廃棄された車庫で金髪の男にやったことと同じだがあの金髪の男とバザロフでは威圧感が違いすぎる。口を開くのがやっといったところだ。


「お前らを殺すのは私では無い、お前らの仲間だ。」


バザロフはそう言うとポケットから何やら小さな小包を取り出し、見せつけた。


「これは小型の対になる魔石付きの爆弾だ、対になっている魔石に触れると起爆する。それを…そうだな、屋敷の入り口からまっすぐここに向かう道に置いておくとしようか。ここも軍や警察にマークされている。今回のテロで何かと理由をつけて家宅捜査しに来るだろう。お前らの命を奪うのは正義の味方の軍と警察というわけだ。」


そこまで言ってバザロフは小包をラザァとガレンの手の届かない壁の上のくぼみに置いた。


「せいぜい最期のときを震えて待つんだな。それに恨むならあの小娘を恨め。」


「お前ら…どうしてそこまでパイリアを…シヴァニアとの戦争は元々お前らが仕掛けたものだろ!自業自得といえばそれまでだろうが!」


ガレンもバザロフに臆せず怒鳴る。


「お前らパズーム国の、そしてパイリアに住まう者と我々の確執は何も一度の戦争で出来たことではない、長い歴史の中で成長してきたものだ。それに…」


そこでバザロフは一呼吸置き、首だけこちらに向け、しかしその目はしっかりとラザァ達を見据えて言い放った。


「それに、人間とは自業自得で失っていたとしても自分の故郷。いや、居場所と言うべきか。奪われた居場所はたとえ血を流してでも、どんな手段を用いたとしても取り戻すものだ。その結果としてテロリストと罵られようともだ。」


そう言うとバザロフは牢屋を出て鍵をかける。


「待て!」


ラザァはバザロフを無意識に呼び止めていた。


「ミラはどうした!?」


しばらく無音状態が続いた、そしてそれを破ったのはラザァでもガレンでもなくバザロフだった。


「お前らが知ることは無い。」


「ミラはどうした?」


なおも同じ質問をより強い口調で問いただすラザァにバザロフは振り向かずに答えた。


「お前らがあいつにどんな感情を抱いているのかは知らん、だがな、どうせここでお別れなんだ、知る必要は無い。」


そこまで言ってバザロフは一度も振り返らず暗い廊下を歩いていった。


「おい!待て!おい!!」


ラザァの叫びは虚しくヒルブス邸の地下に消えていった。


「おいおい、ますます急がねえと!」


後ろでガレンが身をくねらせながらなんとか瓦礫を掴み、手のロープにあてがい始めていた。


魔石だのはよくわからないがラザァ達にさらに厳しいタイムリミットが課されたらしい。

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