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Schneiden Welt  作者: たる
第一幕
28/109

なんとか気がつかれずに屋敷の中に入ったことに安心してしばらくボケーとしていたらミラの入ってる袋がもぞもぞと動いた。


「ああ、どうかしたの?」


ラザァは慌てて袋の口に顔を近づけて囁く。何やらミラがご立腹な気がした。


ミラ曰く、この袋は中々気密性が高いらしく、近くまで寄ってから離さなければ聞こえないらしい。


ミラが袋の中で物音を立てて相手に気がつかれる可能性も減るのだが、逆に聴力に優れるミラの長所を潰しているとも言える。


「どうかした?じゃないわよ。下に下ろされてあんたの話し声も聞こえなくなったから何かあったのかなって。」


「ごめんごめん、今は応接間みたいなところに通されたところ。これから担当の人が来るみたいな事言ってたけどどうしようか?それまで待って完全に信用されてから動くか、今部屋から出て探索するか。」


爆弾攻撃がいつ行われるかわからない以上探索は早い方がいいと思うが、うかつに今部屋を出ると見つかってしまった時に言い訳できなくなる。


「ここで待たされるのは想定してなかったわね...少し考えた方が良さそうね、それと…」


中からミラのくぐもった声が聞こえる。


「まわりに人いないんでしょ?もう少し袋の口をあけてくれない?もうのぼせそうなのよ。」


「あっ!ごめん!気がつかなくて!」


そう言うが早いか急いで紐を緩め、袋の口を開いた。


一気に新鮮な空気と光が入ってきて嬉しいのかミラの深呼吸の音が聞こえる。


「確かにいつ動くのか早く決めないとな、テロ攻撃までどれくらい時間があるのかもわからないしな。」


隣に腰掛けていたガレンが盛大に欠伸をしながら言った。


「袋の中まで聞こえるってあんたどんだけ大きな欠伸してるのよ…」


袋の中からミラの呆れたような声が聞こえた。


「やっぱりさっきまでよりも外の音が聞こえるようになったんだね。」


「当たり前よ、さっきまでひどかったんだから、あんたの声が少し聞こえる程度で、何が起こっているのか全くわからなくて怖かったわよ。」


普段はあれだけ聴覚が優れているミラの事だ、普段とのギャップに大いに苦しめられたのだろう。


それにラザァの中では最強無敵キャラを確立していて性格もそれなりに強気なミラが怖いとか言ってるのは中々面白かった。わずかながらだが親しみやすさも増した気がする。


「危険といえば危険だけれど時間無いしもう、探索した方がいいと思うわよ。というかそれなら出ていいかしら?なんか変な汗かきそう。」


「部屋のどこかにのぞき穴でもあるんじゃないかって思ってたんだけれど、今袋から出たらまずいんじゃないかな?すぐに探索するにしても見つかるまで時間は稼ぎたいし、とりあえず一通り確認するから待ってよ。」


袋から出たくて仕方がないといった様子のミラにはもうしばらく我慢してもらうとしてラザァは立ち上がる。


色々あって体感かなり長い時間緊張感を張り詰めていたせいかかなり身体がだるく感じる、こころなしか眠気まできてる。


だがラザァの先ほどまでの心配はどうやら杞憂に終わりそうだった。


部屋の内装自体がシンプル過ぎてのぞき穴などあるわけもなかった。


定番だと肖像画とかにのぞき穴が隠されているんだけどな、ラザァはすべすべな壁を撫でたり軽く叩きながらぼやく。


これだけシンプルな部屋だと調べるのも楽だ。


応接間って簡素なつくりにしないといけない決まりでもあるのか?


ラザァは部屋を見渡しながら頭の中でツッコミを入れていた。この怖いほどにシンプルな部屋に。


「ミラ!大丈夫そうだし出てきてもいいよ!出入り口はそこのドアだけだし外の音とか確認したらすぐにでも屋敷の中を調べよう。」


ラザァは最後に小さな窓が人の通れないサイズなのを確認して、袋まで戻るとミラに呼びかける。


もぞもぞと袋から出てきた銀髪青眼の少女は新鮮な空気を思いっきり吸い込む。手まで広げているし余程袋の中が嫌だったらしい。


だがミラのそんな清々しい姿はすぐに消えた。


ミラは突如顔を歪めると鼻をくんくんと鳴らす。


「なんか変な匂いしない?その花かしら?」


ミラは顔をしかめながら花瓶を指差す。花は白く小さなものでどこか造花めいた美しさを漂わせていた。


「そう?僕は特に何も感じないけれ…」


そこまで言ってラザァは込み上げてきた欠伸に言葉をキャンセルされる。やはり疲れているのか、敵の家の中なのに猛烈な眠気が襲ってくる。頭もぼんやりとして何も考えたくないような気分だ。


「もしかして…」


ミラはそんなラザァの様子を見るとハッとしたように背後を見た。そこには何故か先ほどから静かなガレンが座っている。


いや、座っていた。


正確には座っていたらそのまま横にこてんと倒れたような姿勢になっている。まぶたはしっかりと閉じられている。


「ねえちょっと!ねえ!」


ミラはそんなガレンに近寄ると頬をひっぱたく。手加減したのかどうか知らないがパンッという乾いた、それもかなり痛そうな音が部屋に響く。


だがガレンはうんともすんとも言わない。頬に手形が残りそうな一撃を受けたのにだ。


ラザァもだるい体を引きずり2人の元へ行く。


ガレンも単に寝ているだけなのかスピーというあまりにも見た目に似合わない寝息を立てている。エリーとかがこんな寝息を立てていたら絵になるのだが額の広い中年の大男が可愛い寝息を立てても誰も喜ばない。


「ガレンも疲れていたんだね〜」


ラザァは無意識のうちにそんなことを口にしていた。自分でもびっくりするような能天気な声で。


そんなはずはない、仮にも1人の兵士であるガレンが疲れていたからという理由で敵の家のど真ん中で居眠りなどするはずがない。薬など盛られたので無ければ…


だがラザァは自分の思考能力がどんどん失われていくのを感じていた。頭がぼんやりとして考えることが出来ない。既に目の焦点も合わなくなり始めている。薬など盛られるタイミングがあっただろうか?そもそも今日は宿を強制的に追い出されてから何も口にしていないような…


ラザァが働かない頭で普段なら即答出来るような疑問と格闘していると、急にその口が何かで塞がれた。何か布のようなものだろうか。


重い、放っておくと下がってくる瞼をなんとか持ちこたえ見るとミラがハンカチをラザァの口に当て、自分も口をタオルのようなもので塞いでいた。


「やられたわ、上手く潜入出来たんじゃない!私達最初から怪しまれていたのよ!多分あの壺からガスが出てるわ!」


ミラが布を通してるためモゴモゴと、だが早口でまくしたてる。


怪しまれていた?


ガス?


ああ、気が付かれずに潜入出来たと思っていたが騙されていたのは自分達だったのか。


ラザァの脳裏にはあの愛想のないメイドと、黒髪の大男が浮かんでいた。


もしかしてあいつが…


ラザァはどんどん遠くなる意識の中で敵の恐ろしさを改めて認識していた。


「ちょっと!しっかりしなさいよ!なに寝ようとして…」


ミラの声がかなり遠くから聞こえる。


そういうミラも眠そうじゃないか。


ラザァはそんな事をぼんやりと思いながら、意識を手放した。


ミラが何やらまくしたてているのがこだまのように何度も反響していた。何度も、何度も。

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