作戦
「まず、進入するところなんだけどね、、、ねえあんた、今日私と会った場所覚えている?」
そこまで言ってミラはラザァを見る。
今日は色んな事がありすぎてすぐには思い出せない。ラザァは必死に記憶の糸を辿る。
今日は遅く宿屋で目を覚まして、そこをヒルブスに雇われた連中に襲撃され、窓から命からがら逃げ出して、路地裏を逃げ回って、塀の穴から中に入って、そしたらその中にミラがいて、、、
そこまで思い出して気がつく。思えばラザァはここに来る前に一度ヒルブスという名前を聞いていたのだ。
「あっ!あの塀に穴のある豪邸ってまさか!!」
「そういうことよ、あそこがヒルブス邸の庭よ、あんた実は一度入ってたの。」
「どういうことだ?お前ら襲われた時に一緒にいたんだろ?そのへんと何か関係があるのか?」
ラザァとミラの会話に全く入ってこれないガレンが聞いてきた。
「その出会った場所がヒルブスの屋敷なのよ。こいつが襲われて逃げ回っていた最中に偶然逃げ込んだ庭がヒルブスの屋敷だったらしいわ。私はその時丁度屋敷を抜け出そうと玄関じゃなくて裏の塀にあいた穴から外へ出ようとしていたらこいつに会ったって訳。」
「思えば今朝から私が家を出るか監視されていたようなのは一歩間違えればあんた達と同じように襲われていたのかも知れないわね、気づかれないように逃げ出して良かったわ。」
ミラが納得したように頷く。ミラもラザァやガレンのように襲われる可能性があったらしい。だがヒルブスの屋敷の中にいて、そこから気がつかれないで外に出たため逆に襲撃を避けることが出来たということだ。
ん?
という事はさっき敵の会話から聞いた「まだ外へ出ていない1番やばいやつ。」というのは実はあの古道具屋の爺さんのことではなくミラのことだったのではないか?ということは古道具屋の爺さんはやはり襲われていたのか?
ラザァの中での古道具屋の爺さんの状態が「今は安全」から「被襲撃済み」に更新される。
爺さんの事は今まですっかり忘れていたが襲われていたとなると一気に心配になってきた。
あの変な爺さんなら店の変な発明品でも使って刺客を撃退しているだろう。という淡い期待で自分を納得させるとラザァは口を開いた。
「ヒルブス邸の敷地内に入るのが割と余裕なのはわかった。あとはそこから屋敷の中に入って地下にいかないとダメなんだよね。ミラは屋敷の中に入ればあとは道わかる?」
目指す場所はヒルブス邸の地下だ。そこにヨランダが閉じ込められ、そしてそこから地下水道に爆弾が運び込まれ、標的まで輸送されるのだから。
「ええ、屋敷の中なら案内できるわ、ただし全て入り口には1人は警備がいるからそこが問題なのよね、、、」
そう言うとミラは腕を組み目を閉じて考え始める。
「普通に奇襲かけるのってのはだめかな?あの庭って草木が多かったし気づかれないように近づけないかな?」
「最悪それでいいんだけど、、、もし悲鳴あげられてそれが中に聞こえたら面倒なのよね。」
「そういえば今日ミラが気がつかれないで外に出た時ってどうやったの?それと同じ方法で入れない?」
「ああ、普通に窓から飛び降りただけよ。外から開いてる窓を見つけて中に人がいないのを確認して入るってのは現実的ではないわね。」
何階からとは言わなかったがミラの身体能力ならば3、4階くらいなら簡単に出入りすることが出来そうだから恐ろしい。
「うーん、おい、ヒルブスは表向きは身寄りのない子供とか引き取って無かったか?裏で何しているのかは知らねえけどよ。」
今まで黙っていた獣人のアズノフが口を開く。
「あ?ああ、確かにそうだな、その子供達の中に奇形やら異能力持ちがいてそれをフリークショーに利用しているって話が上がったが証拠がなく結局何も追及できなかったんだよ。」
ガレンが答える。そしてガレンはミラの方をチラ見しながら
「もっともそれはそこの女の子の方が詳しいと思うんだが、、、」
「出来れば答えたくないし、不愉快な話題なこと極まりないのだけれどそれは本当よ。あいつは裏ではフリークショーを開いてお小遣い稼ぎしているわ。」
ラザァも実物を見たことはないがフリークショーは例えば足が3本以上あるとか、指が六本以上あるみたいな生まれながらの奇形などを見世物にしているサーカスのようなものだ。
こちらの世界では知らないがラザァの元いた世界では人道的、倫理的に良くない者として法で禁止されていたはずだ。会話の内容から察するにそれはこちらの世界でも同じらしい。
そしてさっきのミラの様子。ミラもそのフリークショーに関わりもあるのだろう。
「それじゃあ、それをネタに家の中に入れないの!?軍とか警察ならさ!」
「「ダメだ」」
ラザァの期待は仲の良い2人の軍人に同時に否定された。
「その方法もあるが軍内部に裏切り者がいる可能性がある以上もみ消されるかも知れない。それに今からでは捜査令状の発行が間に合わない。テロ攻撃が終わってから捜査しても恐らく証拠を消されているだろう。」
アズノフに「真似するな」と言いガレンが説明してくれた。確かにもっともな意見だ。
「何もフリークショーの件でヒルブスの家に入るのは捜査令状だけが方法じゃないだろ?そんなのもわかんねえのかこの金髪ハゲ!!」
「いちいちうるせえな!というかこれはハゲじゃねえ!そういう髪型なんだよ!この牛野郎!」
ガレンの少し広い額をアズノフが指差し、ガレンがその指を払う。今にも本格的な喧嘩になりそうなところでミラが大きくせきばらいをした。2人は気まずくなったのかそれを聞いてひとまず休戦状態に入った。
「その、、、なんだ?何も捜査令状だけじゃないって話だったか?潜入捜査って方法もあるだろうって思ってな。」
ミラのせきばらいの静かな迫力にやられたのかアズノフが妙に大人しく話し出す。
「だから潜入が難しいって言ってるんだろうが。」
ガレンが呆れたように反論する。
「俺の言ったことを思い出せ、フリークショーの前だ。」
「えーと、、、身寄りのない子供達の話のことか?」
「そうだ。」
アズノフがそこまで言ったところでミラがハッとしたような顔をした。ラザァは何かいまいちわからなかったので質問してみることにした。
「何?」
「あいつはパイリアで猫をかぶることには命をかけているわ、たとえフリークショーに使えなくとも外国の身寄りのない子供が来たら追い返したりなんかしない、、、」
「そういうことだ。」
ミラの言葉にアズノフが同意する。そこまで聞いてガレンもアズノフの意図に気がついたらしくハッとしたような表情を浮かべている。
「それがどう潜入につながるのさ?」
ラザァは1人だけわかっていない状況がつまらない。
「いるだろ、身寄りがなくて、パイリアの外の人間で、かつ年齢的には未成年が。」
ガレンがラザァをしっかり見据えながら一字一句、条件を確かめるように言った。
身寄りが無く、パイリア人ではなく、年齢的には未成年。
ん?
ラザァの頭の中になんとなく嫌な可能性が出てくる。
「ねえ、もしかしてだけどさ、それって、、、」
そう言いながら指を自分に向ける。
目の前の3人の頭が縦に動いたのはそのすぐ後のことであった。




