龍のいる世界(1章)
第1章
心地よい風と暖かい日差しを感じてラザァは目を覚ました。
なんだか長期間の旅行から帰ってきた時のような疲労感が全身にのしかかっている。
雨はすっかり上がっていて空は清々しいほどに澄み渡っていた。
どれくらいの間気を失っていたのか知らないがまだ昼過ぎくらいなのだろう、明るさが全然違うせいか周りの風景も大分違って見える。
まだぼんやりとする頭を抱えながらラザァは立ち上がると、無意識のうちに鞄を肩にかけて元いた丘の方へ歩き出した。なんとなくこの木の側には長居したくなかった。
はっきりしない頭でなんで気を失っていたのかとか考えながら元来た道を引き返してるが、普段見慣れない植物がちらほらと目につくので集中して考えられずと途中何度も躓きかけながら森を抜け開けた丘に出た。正確には手前にいばらの茂みがあるためまだ森の中だが。
今朝通った時にはすんなり歩いて通った記憶があるしいばらなんてなかったはずだ。ラザァはここにきてさっきからずっと感じていた違和感の正体に気がついた。
風景が普段の裏山と似ているが確実に違うのだ。
そしてその違和感は顔を上げた次の瞬間揺るぎのないものとなった。
ラザァの視線の先、丘の中腹には龍がいた。
龍、竜、ドラゴンである。伝説の中とかおとぎ話の中によくでてくるアレだ。もちろん現実にいるだなんて微塵も思っていなかった。
トカゲやワニのようにゴツゴツとした鱗にびっしりと覆われた体表、どことなくコウモリを思わせる不気味な翼、棘の生えた尾、そしてナイフのような牙のはみ出しているアギト、どれを見ても伝説の中の生き物の姿だ。
距離があるので正確なところはわからないが体調は4〜6メートルといったところだろうか。丘の上を悠々と歩く姿は食物連鎖の頂点に立ってる存在だということを容易く想像させた。
今は何をしてる訳でもないがあの見た目でベジタリアンってことはないだろう、見つかれば食べられるまたは襲われるところまでは想像ついた。幸い今は風下にいるため派手な物音さえ立てなければ見つかる事は無いだろう。
知らないうちに異世界に迷い込んだと思ったら伝説の中だけの生き物だと思っていた龍に遭遇して一周回って冷静になってるラザァはとりあえず静かに逃げることにした。
今起きてることが夢なら安全そうなところまで行ってから顔でも叩いてみようかと思っていたし、現実だとして何者かに助けを求めるにしてもあんなトカゲの親分みたいな奴よりは話の通じそうな奴を見つけるつもりだからだ。
ラザァは龍から目を離さずに自分が風下に立っていることを確認しつつ後ずさりを始めてまたすぐに立ち止まった。
「飛竜種ランク3 ラプドドラか」
「傷を負ってる様子も無いしまだ若そうだな、あまり期待できなさそうだが、、、」
「確かに小さいが生きたまま捕獲するには大きすぎないか」
ラザァの横の茂みから声を殺しているが確かに大人の男の声がした、それも複数人だ。
身をかがめながらも声のした方を注意深く見つめるとモスグリーンの布で全身を覆って草木を体に巻きつけた集団がいた。
見える範囲では5人、全員手には小銃を構えている、布から短刀のようなものが見え隠れしている奴もいる。
だがラザァが1番畏怖したのは小銃でも短刀でも手投げ爆弾みたいな球体でもなかった、小銃を握る手は明らかに人間のそれでは無い、びっしりとゴワゴワした毛に覆われ、筋肉のつき方も異常だ。
他の4人もよく観察してみると獣がそのまま人間化したような見た目をしている。
話の内容を聞くに高い知性を持っていて話がわかりそうではあるがうかつにノコノコ出て行けば問答無用で蜂の巣にされないとも限らない。
助けを求めるにも自分と同じ人間の見た目をしていた方が大分安心なのでここでも気付かれずに退散することにした。
我ながら置かれた状況の割に冷静で驚いているが冷静でいられるうちにとっとと離れて今後の事を考えたかった。
ラザァは身をかがめたまま後ずさりをしようとした。小枝を踏みつけるみたいなことさえしなければ獣人間達は龍に注目しているし大丈夫なはずだ。
その時ラザァの近くの茂みがガサガサと揺れたと思うと小柄な鹿が飛び出して獣人間の前を横切っていった。
「何っ!」
獣人間の1人が鹿の来た方向、つまりラザァの隠れている方向へ小銃を構えた。
「まずいっ!」
ラザァは身を低くしたまま茂みが濃いところから濃いところへジグザグに駆け抜けた。
「おい、あっちに何かいるぞ!」
小銃を向けていた獣人間(小銃を向けた時にフードが外れたがバイソンの頭をしていた。)がラザァの走った後を目で追いながら小銃を構え直した。
「まずい気付かれた!そんなことやってる場合か!どうせさっきの鹿の親かなんかだろ!」
他の獣人間人間が怒鳴る声がするとほぼ同時に凄まじい地を揺るがすような咆哮と突風が吹き荒れた。
横目で確認すると龍が目の前を鹿が走り過ぎた事で驚いて飛び立とうとしていた。
「撃つか!?」
「下手に怪我だけ負わせて他の奴に横取りされると面倒だ、悔しいが諦めろ!!」
獣人間達が怒鳴りあってる声が聞こえる、ラザァは混乱に乗じてさっさとこの場を離れるべくもはや身をかがめることもせずに全力疾走していた。
獣人間達は龍を逃したことを悔しがるのに忙しいらしく追っては来なかった。
ラザァは後ろをチラチラ見ながら追撃を油断せずに逃げていたがそれが裏目に出たようだ、突然ラザァの足元が消えたと思ったら真っ逆さまに崖から転がり落ちていた。
転がる先には小枝の垣根のような物が見えた、あれにぶつかれば大きい傷こそ負わなくても地味にいたい擦り傷ができそうだ。
ラザァは転がりながら目をつむって来る衝撃に備えた。
2話目です、次話投稿のやり方がよくわからなくて大変でした。
今回は主人公ラザァ君が物語の舞台にやってきた場面です。
次回はいよいよヒロインのミラちゃんが登場ふる予定です。
よろしくお願いします。