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Schneiden Welt  作者: たる
第一幕
19/109

着信(3章)


時間はほんの少しだけ遡る。


ラザァとガレンとその仲間の獣人、名前はアズノフ ネイクというらしい。3人が倒れたエリーを応急措置をしつつ様子を見ている間、ミラは呆然とさっきまでの出来事を思い返していた。


さっきミラ達の目の前に現れ、エリーを撃ち、そしてラザァに撃たれたあと自爆した金髪の男。そいつはミラの知っていた顔だった。


ミラの主人的な存在でミラが決して逆らうことのできない相手。パイリアに住まう外国人の富豪アルバード ヒルブス。金髪の男はヒルブスの手先だ。


金髪の男がヒルブスの家でなんどか話しているのをミラは見たことがあった。使用人の話だとヒルブスと「仕事の話」をしていたらしい。


ヒルブスは表向きはパイリアに友好的なお金持ちの爺さんだ。だが裏では偽金貨の偽造。兵器の密輸などを行う組織のボスだ。ミラはヒルブス邸でなんどか明らかに危険な物が運び込まれたり、どう見ても人間の死体が運び込まれたりするのを見ている。だからと言って警察に駆け込むなんて事はできなかったが。


そんな組織の人間の男がエリー誘拐の現場にいたのだ。そして誘拐の結果、パイリアは今爆弾テロの標的になっている。これは間違いなく金髪の男の単独行動とか小遣い稼ぎなとではない。裏で指示を出しているのは間違いなくアルバード ヒルブスその人だ。


あいつは自分から平穏な暮らしを奪い、自由を取り上げただけでなく、やっと見つけた友人を傷つけ、パイリアを攻撃しようとしている。


ミラは怒りと憎しみで歯を食いしばり、手を固く握り締めた。次第に視界が赤く染まり、体に力がみなぎるのがわかる。


このままだと我を失いそうなのでなんとか呼吸を落ち着ける。何度か深呼吸をすることで視界はまた普段のように戻っていった。


その時だ、ミラのポケットの中で何かが音もなく振動しているのを感じた。


そういえばさっきガレンに電話を貸したついでに設定をやってもらったんだっけ?ミラはポケットから電話を取り出す。


この電話は元はと言えばミラが路地裏で戦った追っ手のものだ。つまり敵のものである。それにかかってくる電話などどうせロクでもない内容だろう。


そう思って何気なく画面を見るとそこには見慣れた番号が映し出されていた。


ヒルブス邸だ。


ミラは電話を懐に隠すようにしまうと周りを見渡す。男性陣3人はエリーに注目していてミラの様子に気づいていない。


ミラは音を立てないようにその場から立ち上がり、車庫の奥の事務室のようになっている場所に入った。




ラザァ達に声が聞こえないような位置までくると意を決して電話に出る。


「よお、化物女。」


電話から聞こえてきたのは冷たく、低い男の声だ。どうやらミラが出ると知っていたような口調だ。


そしてその話し方や声にミラは心当たりがあった。


イワン バザロフ


その男の名前だ。ヒルブスの部下らしい人間でヒルブスの屋敷で最近見かける。


バザロフはパイリアではあまり見かけない顔つき、おそらくパイリアのある国パズームよりももっと北の外国の人間だろう。


ミラは初めて見かけた時からバザロフの血の匂いを感じ取り、本能的に危険な人物だと直感していたので名前までフルネームで覚えていたのだ。


そのバザロフがミラがこの電話を持っていることを知って電話をかけてきたのだ。良い話であるはずがない。


「何の用?」


ミラは気丈に振る舞い、問いかける。もし、というか電話がかかってくる時点でミラがじけんに関わっていることを掴んでいるだろうが、その事を知られたならばミラの命は無いだろう。この口調は死の宣告を受けるまでの僅かな残り時間でのせめてもの抵抗だ。


「話は簡単だ、さっさと終わらせる。お前今は1人か?周りに誰かいるか?」


「幸いな事に誰もいないわね。」


「そうか、そりゃあ好都合だ。人殺しを頼みたい。」


バザロフの口から出てきた言葉は予想と大分異なる内容だった。


何?依頼?人殺し?私が?誰を?


「どういうこと?」


ミラは訳がわからないといった様子で、いや、実は内心では薄々気がついていたのだが認めなくない内容なのだ。それで電話に向かって聞く。思わず声も大きくなってしまった。


「お前らの状況はさっきリードとかいう兵士から電話で聞いているんだよ、警戒していた化物女と門の衛兵達が現れて味方がやられたってな。どうやらお前が呑気に電話に出てるって事は俺の部下と雇った尻軽な兵隊はみんなやられちまったんだろ?」


「やっぱりあんた達が黒幕なのね?」


バザロフの言葉を受けてさっきまでのミラの予想が確信に変わる。今回のエリー誘拐からの爆弾強奪。そしてこれから行われるであろうパイリアへのテロ攻撃。それの黒幕はイワン バザロフ、そしてその奥にはアルバード ヒルブスがいるのだ。ミラがこの世で最も憎んでいる人間だ。


「くくくっ」という電話口からバザロフの人を馬鹿にしたような笑い声が聞こえてくる。


「なるほどな、お前に人を殺す以外にもちゃんと考える脳があったんだな。それなら俺の言いたい事はわかるな?」


ひとしきり笑った後、バザロフがまだ笑いを堪えながら言ってきた。なんとなく予想はつく。だがバザロフ本人の口から聞くまでは考えたく無いような残酷な依頼だ。


「残念ながらさっぱりわからないわね。何をしろってのよ。それで私を許すつもりなの?信じられないわね。」


ミラも精一杯聞き返す。予想が外れる事を祈りながら。


だがミラの希望は簡単にも打ち砕かれることになった。バザロフの口は残酷な事をなんでも無いように告げる。


「俺は飼い主を噛む犬を許すくらいには寛大なんだ。今そこにパイリア軍の衛兵2人と異民の男1人と、ウィズの娘がいるだろ?今のところこの誘拐の事を知ってるのはそいつらだけなんだよなあ。」


バザロフが意地悪く言う。


「簡単だ、お前はその4人を全員殺せ。そして戻ってこい。それで今回の事は見逃してやる。ただの人間を殺すなんてお前には容易いだろ?それに今そいつらは油断している。不意をつけば一瞬で皆殺しにできるだろう。」


「って、そんなっ!」


「おいおい、口答えできるのか?自分の身分を考えろよ。それにお前1人で逃げてもいいが地下で這いつくばってるお前の大切なババアはどうなるんだ?」


バザロフがわざとにしてもここまで出来るのかというレベルで意地悪く言う。そしてミラはそれに逆らえない。それを知っていてバザロフは脅してきているのだ。


「俺が言いたいのはそれだけだ、せいぜい自分のするべきことを考えるんだな。」


バザロフはそう言って電話を一方的に切った。ミラが依頼を断ることができないだろうとタカをくくっているのだろう。


ミラの事情に関係の無い、それどころかエリーを助けるのを助けてくれた人達を殺す?エリーも殺す?それでミラは生きる?ヒルブスに許され、犯罪者に許してもらいのうのうと生きる?


そんなことできる訳が無い。だが逆らうとミラの大切な人は確実に殺される。俗に言う板挟みというやつだ。


どうすればいい?どうすれば、どうするのが最善なんだ?誰も傷付かない、いや、ミラだけ傷つくってのでもいい。エリーやあのお人好し達、そしてヒルブス邸の地下にとらわれているヨランダが助かるのなら。


いずれにしても時間が無い、もしガレン達が軍や警察に連絡して、この現場に押し寄せてきたら。その時はバザロフは時間切れ、ミラが依頼を受けなかったと見なしてヨランダを殺し。その後テロ攻撃をしかけてくるだろう。


どうすれば?自分はどうするべきなんだ?わからない。


思えば自分がこんなに他人絡みで悩むとは思ってもいなかった。この2日であの馬鹿みたいに他人思いな男と話したのが影響をあたえたのかもしれない。


ミラが人知れず1人で苦悩していたその時。背後から声がした。今まさに頭の中に思い描いていたミラの悩みの中身など知らないお人好しの声が。2度にわたりミラを助けて、2度目などは慣れない銃で人を撃ってまで昨日今日知り合ったミラを助けたお人好しの声が。ゆっくりと声のした方を見る。


「ミラ?誰と話してたの?すごい表情なんだけど、、、」


そこには異民の男、ラザァ フラナガンが怪訝な顔をして立っていた。その目でしっかりとミラを見つめながら。


ミラはポケットにナイフがまだある事を確認した。


そして口を開く。

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