表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Schneiden Welt  作者: たる
第一幕
17/109

突入


「今よ!!」


車庫の中まで聞こえるミラの叫び声がすると同時にシャッターが爆風と共に吹き飛ぶ。


爆発のすぐ後ろにいた兵は逃げる間もなく吹き飛ばされた。


爆発のすぐ後に窓からガレン レスフォードが顔を出しラザァ達の後ろの兵士に発砲する。


ラザァは後ろのエリーに飛びかかり半ば押し倒すような形で床に伏せさせた。


「何!?何があったの!?」


「ミラ達が助けに来てくれたんだ!エリーは助かるよ!」


一撃で仕留められなかったらしくレスフォードと敵の銃撃戦が続いている。ラザァは伏せながら周囲の様子を伺っていた。


シャッターと一緒に吹き飛ばされた兵士は床に倒れたまま動かない。死んでいるのか気絶しただけなのかはわからないがしばらくは無視しても構わないだろう。


ラザァ達を挟んで銃撃戦を繰り広げているレスフォードと敵兵は連射式の小銃を持つリードのせいで敵が優勢だった、リードの隣の敵は腕を怪我していたが机を倒して盾にしているため戦いは長引きそうだ。


人間用出入り口の隣にいた敵を見るとなんといつの間にか進入したミラと白兵戦を繰り広げていた。


敵は拳銃とナイフを手に二刀流で応戦しているがミラは苦にする事もなくナイフでいなしている。こうしてみるとやはりミラの身体能力の高さは異常だ。頭一つ分以上も背の高い敵に飛び回りながら顔面に蹴りを入れようとしている。


重装備の兵士がワンピースにジャケット姿の女の子に圧倒される図なんてそうそう見れないだろう。スカート部分が中々きわどい感じになってしまっている。


そうこうしている間にレスフォードと撃ち合いをしていた2人が物陰に隠れながら奥に逃げていく。それを見たミラの対戦相手は驚き、その一瞬を突かれミラに喉を描き切られ倒れた。血が喉に詰まるゴボゴボという嫌な音と共に男は口と喉から大量に出血して、その場に崩れ落ちた。


「見ないで!」


親友がテロリストを惨殺する光景を見てしまいラザァの下でエリーの顔が恐怖に歪む、ラザァはエリーにその血しぶきの舞う光景を見せまいとポジションを変える。


「あのボス風男はどこだ?」


そういえばミラ達の突入が始まってからやつの姿が見えない。どこか秘密の出入り口があって逃げられでもしたら大変だ。


「この場から離れないで、ミラと一緒にいるんだ、いい?」


ラザァは立ち上がるとエリーに語りかける、ミラは恐らく敵の追跡よりもエリーの護衛を優先するだろうとの判断だ。彼女よりも心強いボディーガードは中々いないだろう。


ブルブルと震えながら頷くエリーを見てラザァは机から投げ出されていた拳銃を拾い、奥を探る。


出入り口からレスフォードとシャッターからはブァッファローがそのまま人間になったような大男が入ってきた(大女かもしれない、というより大雄、大雌と呼ぶべきなのか?)


「おい、無事か!?」


レスフォードがラザァを見るなり駆け寄ってきた。


「ええ、ありがとうございます、レスフォードさん。」


「長くて言いにくいだろ、ガレンでいい。奥にあと2人いるな、リードめ、、、」


「いえ、あと3人はいるはずです、そしてその3人目がボスだと思います。」


あのボス風の男は入念に準備の末にこのテロでパイリアに復讐すると言っていた。突入された場合の策も練っていただろう。何か嫌な予感がする。


「俺が来た時に見たが向こうに出入り口はなかったぞ、奴らは袋の鼠だ。」


獣人の大男が威厳たっぷりな深みのあるバリトンで言う。


見るとミラがエリーに駆け寄り抱きしめていた。エリーはミラが大量に返り血を浴びているのを見て僅かに顔を引きつらせたがすぐにいつもの様子に戻り、ミラに背中をよしよしとさすられていた。


「ミラ!エリーを頼む!ええと、ガレン!それと、、、」


「アズノフ ネイクだ。こいつを名前呼びなら俺もアズノフでいいぞ。」


「おいこら、牛野郎、何勝手に張り合ってんだよ!」


「「あ!?」」


何か知らないが2人が急に争い出した。


ラザァが予期せぬ味方のチームワークにオタオタしているとミラがエリーを抱きながら「気にしないで続けていいわよ!」と叫ぶ。


「ここはミラに任せて3人で奴らを追いかけましょう、奴らには爆弾の行方を聞かないと。」


「「おうっ!」」


「「何同じ返事してんだよ!!」」


端から見てると滑稽な大男2人の喧嘩はまだまだ続くようだ。


拳銃を構えソロソロと奥を伺うラザァは袖が急に引っ張られるのを感じた、見るとミラががラザァの服の袖を掴んでいる。


「そのっ、、、ありがとね、、、」


うつむいたまま消え入りそうな声でミラが呟く。


「お礼だなんて、、、何もしていなし、、、」


「さっきずっと自分を盾にしてエリーを守っていてくれたでしょ?それに、、、私が殺した奴らのこと、、、罪を被ってたじゃない、、、」


どうやらラザァの敵を怒らせるための演技は全てミラの地獄耳には聞こえていたらしい。エリーがミラの手の中でもぞもぞと動いた。


「君たち2人には大分助けてもらったからね、あれくらい当然だよ。」


ラザァの言葉でミラは顔を上げる、その顔には唖然という言葉が似合うなんとも言えない表情が張り付いていた。


「あんたってやっぱりお人好しね、いつか損するわよ。」


「せいぜい気をつけるよ。」


こうしてミラとは笑顔で再会できたのだ、後は敵を捕まえ、爆弾のありかを、未然に防げるなら襲撃ポイントを聞き出すことができればラザァ達は事件に関してもう関われることはないだろう。あとは軍や警察に任せて自分の世界に帰ることに専念できる。


帰ることに不思議と悲しさ、寂しさを感じている自分がいた。なんども死にかけたのに、だ。


この手で決着をつける、そう決意してラザァはガレン、アズノフとともに警戒して奥へと進んだ。




3人が見えなくなりミラは緊張を解いた、あの人達は悪い人ではないと理屈ではわかっていてもやはり他者と関わるのにはいつまでも慣れない。


昨日も会ったばかりだがエリーと話すのはかなり久しぶりな気がする。数少ないミラの居場所だ。


「エリー、良かった、、、」


まだ冷めない感動でミラはエリーを抱きしめながら語りかける、その声に反応したのかエリーがもぞもぞと動いた。


「ごめん、ミラ、痛い、、、」


「えっ!ああ、ごめんね!」


突然のエリーの不満にミラは驚き手を離す、すぐに腕の中から出てきたエリーの目にかすかながらも恐怖の色を感じ、ミラは何も話すことができなかった。


そんな2人を物陰から見ている1人の目に2人はまだ気がつかない。




ラザァ達は物陰に隠れながら車庫を奥へ奥へと進んでいた。


敵のものと思われる血痕があるため追跡自体は余裕だ、ただしそれを餌にラザァ達をおびき寄せることも可能ということになる。慎重に進まないければ命はない。


「ラザァ、一つ聞いていいか?」


「なんですか?」


何気にいきなり名前で呼んできたガレンである。


「俺の勘違いならそれでいいんだ、お前が元の世界に帰るってことに少しでも戸惑いがあることとあの子達の為に体を張っている事に関係はあるのか?もし、、、その、、、自分の命を軽んじているというか、少しやけになっているというのなら、、、」


ガレンの口から出た言葉は当たってこそいないがラザァの内心に近いものだった。


別に自分の命を軽く見ているとかは無いが、元の世界への内心での不満がこの世界でエリーとミラのために戦っていることと全くの無関係なわけでは無い気がする。


結局は自己満足なのだろうが元の世界では自分ではどうしようもなかった境遇だが、こちらの世界では自分の力でなんとかできるという気がする。そして助けてもらった2人の女の子を助ける事はその第一歩な気がしているのだ。


もちろん思い込みかもしれないが、ラザァの性格と実質的な命の恩人ということもあり見捨てるのは自分で自分を許せない。


「元の世界に帰ることに戸惑いがあるのは否定しません、でもその後のガレンが言ったことは自分でもよくわからないというのが正直なところなんです。」


「よくわからないで命かけるのか、お前なんというかお人好しだな、、、」


ほんの少し前にミラに言われたセリフをまた言われることになった。


「それさっきもミラに言われましたよ。」


ラザァは笑って返す。


ガレンはそれを見ると「青春してんなー」と言うと再び戦闘モードな顔になる。


ラザァ、ガレン、アズノフの3人(2人と1匹?)は車庫の奥の事務所みたいな場所へ入った。


そこには軍服やベルトや帽子の入った箱が山積みになっている。


不意にガレンが止まり、後のラザァとアズノフもそれに習って止まる。


ガレンが指を口に当て静かにするようにジェスチャーで伝えると、足元に落ちていた木材を数メートル投げた。


そうすると木材が床に落ちるとほぼ同時に木材が銃撃を受け粉々に砕け散った。


ガレンはその銃撃の方向を素早く確認すると箱の陰から飛び出し拳銃を数発発砲する。


「ぐっ!」というどこかカエルのような声と共にドサッと何かが床に倒れるのがわかる、ガレンが拳銃を構えたままラザァ達に手招きをするので恐る恐る陰から出て行くと手足を撃たれ倒れているリードともう1人の兵士がいた。2人の側には直前まで持っていたらしい小銃と電話が落ちている。


「よおリード、変なところで会うな。」


ガレンが2人の側に寄り見下ろすように話しかける。


そろそろと腰の拳銃を抜こうとしたもう1人をガレンは蹴飛ばし、拳銃を遠くまで飛ばした。


「これはレスフォード班長、お久しぶりです。」


リードは血の混じった唾をガレンに吐き掛ける、見えないが腹部に怪我をしているらしい。もしかしたら致命傷かもしれない。


「お前、いつからそんな奴らの手先になってたんだよ?」


ガレンの疑問の言葉には深い悲しみの色があった。


「勘違いするなよ、俺が心からお前の部下だった時間なんて一瞬たりともない。」


リードはそう言うと手を腹の下にやり何やらカチッという音を立てた。


ここでラザァは路地裏での敵の最後の1人がどんな死に方を選んだのかを鮮明に思い出した。口から血の混じる青い泡を吹き死んだ男の顔を。


アズノフがハッとしたようにガレンに飛びかかりそのままリードから離れた位置まで転がる。ラザァもその動きを見るか見ないうちにリードから出来るだけ離れようとジャンプする。


その直後凄まじい音と共にリードのいた場所が吹き飛んだ。


周りの箱の破片や火花とともに血や肉といったグロテスクな物が飛んでくる。


爆風が収まり、恐る恐るリードのいた場所を見ると大量の血痕と焼け焦げてめくれた床が目に入った。あまりにも至近距離で爆発したため、人間2人がいたこと自体疑わしいような有様になっている。もっともそのおかげでスプラッターな光景を見ないで済んだが。


ガレンとアズノフは軍人の習慣なのかそれを見て手を合わせていた。表情がわかりにくいアズノフはともかくガレンははっきりと悲しげな顔をしていた。


まずい


これでは情報を何も引き出せなかった、ラザァが自爆を止める事が出来なかった事を後悔していると背後から女性の悲鳴が耳を突き刺してきた。


ミラではない、エリーだ。


ラザァは回れ右をすると、ガレン達に言葉も投げずに元来た道を全速力で戻り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ