表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Schneiden Welt  作者: たる
第一幕
16/109

作戦会議

車庫の外ではなんとか協力体制に入り、色々と揉めた結果、聴力で勝るミラが壁に耳を当て、ガレンが自前の鏡で内部を見るという事に落ち着いた。


「何か聞こえるか?俺の耳だとたまに何か怒鳴りあってるってことしかわからん。」


「静かにして!私も余裕ってわけじゃ無いんだから!」


役割分担してもイマイチチームワークを発揮できていない。


「何か物騒な名前が出てきたわね、、、大型の爆弾らしいけど、、、」


「何だと!」


ガレンが危うく鏡を落とすところだった。


「ちょっと!気がつかれたらどうするのよ!」


「狙いはアレか!これはまずいぞ、ただの誘拐事件どころじゃ済まない、、、」


「あんた、その爆弾に心当たりあるの?」


ミラは壁から一度耳を話してすぐ隣でものすごい態勢で中を覗いている中年に尋ねる。


「心当たりがあるも何も…さっき書類で読んだばかりだよ、今日街中を軍やら警察やらが歩いてるだろ?その爆弾がパイリアに輸送されてくるからだよ、くそっ!」


「どんな爆弾なのよ?ただの爆弾で街中の兵士総動員しないでしょ?」


ミラが単純に疑問をぶつける。


この世界には爆弾が効かないような生き物がわんさかいる。そのため割と誰でも簡単に手に入れることが出来たりするのだ。我ながら凄い場所に生きているものだと時々感心する。


「ただの爆薬を使ったやつじゃない、火龍の体液をガス状に加工して爆発と同時に周囲に撒き散らすって奴だ。中々消火出来ず、かなり効果範囲が広い戦略兵器だよ。」


「龍の体液、、、なんでそんなものパイリアに持ち込むのよ?普通大型の古龍の迎撃とかにしか使わない奴じゃない?」


パイリアを含むパズームという国には山よりも大きな古龍が時々現れることがある。基本的に人間を狙うとかはないのだが歩くだけで天災級の被害が出るため各地には迎撃用の砦が築かれ、大砲やら爆弾が設置されているのだ。


「しばらくしたら東に軍の遠征があるんだ、使うかどうかは別としてその時の威嚇用に一度パイリアで保管する予定だったんだ、くそっ!まんまとそのタイミングを突かれた!」


ガレンはそう言うとポケットを弄るが葉巻やらペンやら大したものは出てこない。


「電話ないの?私なら相手から奪ったのがあるわよ。」


ミラが察してガレンへ路地裏で倒した相手から奪った電話を差し出す。軍に輸送部隊に警告を出すよう連絡するつもりなのだろう。


「助かる!」


ガレンは礼を言い終わらないうちに電話をひったくるとどこかに電話をかけた。


「ガレン レスフォード一等だ、至急今日の警備担当の責任者に、、、ウィズさんではなく誰か他の人に繋いでくれ、早く!」


誰か出たらしく早口でまくしたてるガレン。


「何?それはどういうことだ?俺は、、、」


急にガレンが何を言っているのかわからないといった風に慌てだした。


ミラも雲行きが怪しくなりだしたので思わず顔を覗き込む。


「違う、逆だ!リードが俺を殺そうとしたんだ!確認しろ!ヨットルドに繋いでくれ、、、くそっ!」


ガレンは乱暴に電話を切ると電話に思いっきりガンを飛ばしていた。


「俺が裏切り者になってる、リードの奴め、最後の最後まで俺を弄びやがって!」


「つまり聞き入れてもらえなかったのね?」


「そういうことになるな、、、」


消沈したガレンの横でミラは割と盛大にため息をつく。


爆弾の輸送部隊に警告を出せない以上、車庫の中の連中から奪った後の計画を聞き出すくらいしかミラとガレンには役目がなさそうだ。


その時ミラは何者かの接近に気が付き、ナイフを構えた。


車庫の中からではない、外からこちらに近づいてくる獣の匂いがする。


そんな警戒態勢バリバリのミラに気が付きガレンも周囲を見渡すが、すぐに警戒を解いた。


「やめろ、敵じゃない、俺の味方だ。」


ガレンがミラに手をかざすと同時に近くのドラム缶の陰から大きな影が現れた。


ブァッファローがそのまま人間になったような獣人だ。


服の上からでもわかる筋肉に腰に差した太い軍刀と背中の小銃、味方ならばかなり心強い風貌だ。


「アズノフ遅いぞ!ちゃんと持ってきたか?」


「うるせえな、これでも急いだんだぞ!」


「急いでこれかよ?さすが図体ばかりでかくて体力ない奴は違うな。」


「なんだとこら、人が折角来てやったのに。」


「そもそもお前人間じゃねえだろ、この牛野郎!」


「「あ?」」


出会い頭に言い合いを始めた2人。信用できる奴を連れてくるんじゃなかったの??これじゃあ天敵同士を鉢合わせさせたみたいに見えるんだけど??


ミラが珍しくオタオタしていると2人は鼻息荒く窓際に寄った。


「で、状況はどうなんだよ?」


アズノフと呼ばれた獣人が尋ねた、ガレンは未だに鼻息が荒いがミラをちらりと横目で見ると手短に説明しだした。


「なるほどな、だが他の窓には棚が立てかけてあったりで中を覗けない。このまま突入はいくらなんでも危険だ、なんとかして敵の配置を探らないと、それに迂闊に戦闘になれば女の子や異民の男の子を巻き込むかもしれん。」


勝手に獣人には頭の悪そうなイメージを持っている人が多いが基本的に聡明な獣人が多い。アズノフも瞬時に現状を把握した。


「だからこうして鏡でちまちま見てるんだよ!」


「悪くねえけど見える範囲に限界あるだろそれ…」


「うるせえ、他に方法がないんだ、仕方ないだろうが!ピーピー騒ぐならお前が他のほ…ん?」


またしても喧嘩を始めそうな雰囲気だったがガレンが何かに気がついたように鏡を凝視する。


「どうした?」


「どうしたの?」


ミラとアズノフがほとんどユニゾンした。


「異民の男の子、、、ラザァが俺らをじっと見つめてるんだよ、、、というかなんか知らないうちに顔とかボコボコだぞ、、、」


ガレンが鏡から顔を離さずに説明してくれる。ラザァが鏡に気がついたのか。


「なんか目をグリグリ動かしてるが、、、なんだこれ、、、って痛!」


ガレンの言葉を聞いてミラはガレンから強引に鏡を奪っていた。確かにラザァがこちらを凝視してら何やら目を動かしている。ミラにはそれが先ほど路地裏で自分自身がやった事だと気がつく。


「ったく、痛えな、何すんだよ!」


「お前は女の子にも舐められてるんだな。」


「お前は黙ってろ牛野郎!」


またしても喧嘩を始める2人、なんだか一周回って仲良しに見えてきた。


「シャッター裏に1人…人間用出入り口の右横に1人…」


「「は?」」


「いいから!敵の位置よ!あいつが伝えてきたの!」


ミラは喧嘩してる2人を怒ると再び目をあっちこっちに向けた後ウインクしたりしているラザァを見つめた。


突入できるかもしれない。



「つまりこういうことか。」


ガレンが地面に木の棒で車庫の中の見取り図と敵の配置を描いた。絵心はともかくとしてこれで作戦が立てやすくなった。


「俺らから見えてる奴らの他にも2人いたのか、危ねえ、迂闊に突入してたら蜂の巣だったな。」


「どうするの?出入り口から入ればシャッター前とエリーのそばの2人と出入り口の隣の4人がほとんど同時に襲ってくるわよ、出入り口は狭いから1人ずつしか入れないし。」


敵の配置も考えられたもので窓か出入り口から入ると4人から集中砲火を浴びるようになっている。窓も出入り口も狭いので3人でなだれ込んで一気に襲いかかるという方法も取れない。そもそもアズノフは体が大きくて出入り口を通れるのか微妙だ。


「その点は俺に考えがある、おい!牛野郎!持ってきたんだろ!?」


「ああ、というかいちいちうるせえよ。」


アズノフが渋々といった様子で腰のポーチから長方形の箱を取り出す。


「パイリア軍特製の時限爆弾だ、シャッターくらい簡単に吹き飛ばす。」


なるほどよく見ると箱の横には何やら紐のようなものがたくさんついており、先には小型の時計が取り付けてある。


「こいつでシャッター前の1人を無力化すると同時にそっちに気を取られた奴らを窓から狙撃、出入り口からの突入で制圧する。心配するな女の子達はシャッターからだいぶ離れているから爆発に巻き込まれる心配は無い。」


ミラの心配をガレンが答えてくれた。確かに作戦としては十分成立しそうだ。後は奥にいる金髪のボス風男を捕まえるなりして色々聞き出せば良い。


「それじゃあ、作戦開始だ!」


「ええ」


「おう!」




ミラにとってエリシャ ウィズ、エリーはほとんど唯一と言ってもいい心を許している存在だ。


正確にはもう1人いるが彼女はミラのせいで囚われている、ミラが心を許した相手などというレッテルを張る権利はミラにはないのだろう。


ミラはこの世界が嫌いだ、というより諦めているという方が正確だ。


もがき苦しむ者を見て見ぬ振りをし、悪意ある噂や嘘が蔓延し、偏見に惑わされちゃんと真正面から向き合おうとしないこの世界に失望していた。


そんな世界の中で手に入れたエリーという存在、エリーがミラの事を嫌いになり、離れていくのなら構わない。エリーの選んだ事ならばどんなことでも受け入れる。


だが訳のわからないテロリストなんかに奪われなんかしない、どんな犠牲を払ってでも、テロリストを皆殺しにしてでもエリーは助ける。


小さくても自分の居場所をもう奪われるのは耐えられない。


エリーさえ助ければ後はこの軍人達に任せる。パイリアにテロ攻撃なんて知った事じゃない。自分の居場所さえ無傷なら爆弾でもなんでも勝手に使ってくれて構わない。


もうこれ以上他者に奪われるのは嫌だ。


エリーを助けて、そして事件が終わるまでは側にいて彼女を守ろう。


ここであのお人好しの異民ラザァ フラナガンとこの少し頼りない軍人達とはおさらばだ。


シャッター前に爆弾を設置したアズノフ、ミラの横で拳銃を構えるガレンを確認し、ミラは鏡で中を伺い、ラザァの合図を待った。


そして間もなくその時は訪れた。


ラザァの口が小さく「かかったね。」と動いた。


「今よ!」


ミラの叫び声が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ